「もう一度、チームメイトとプレーがしたい」

「できることなら、もう一度チームメイトとプレーがしたい」

 レイクサイド高校野球部の3年生、イーサン・ベイツは、チーム全員の言葉を代弁する。

 3月11日。新型コロナウィルスの影響で、春の選抜高校野球の中止が決定したのとほぼ同じタイミングで、アメリカスポーツにも大きな異変が起こっていた。選手から感染者がでたNBAがリーグ中断を発表すると、NHLもリーグ中断。MLBは開幕延期、大学スポーツも中止になった。

 当然ながら、高校スポーツでも同様の措置がとられ、レイクサイド高校の野球部も3月12日に6試合を終えた時点でリーグが中断になった。

 本当に突然の出来事だった。

花巻東高校とは姉妹校。

「悔しかったし、悲しかった。チームメイトとプレーするのはこのシーズンが最後で、そのために準備をしてきたのに。試合ができないなんて信じられなかった」とベイツは振り返る。

 同じ3年生のブレイディ・プリンスは「現実を受け入れられなかった。何が起きているのか、理解するのに2週間以上かかった。どうして試合ができないのか。このままシーズンが終わってしまうのか。いや、大丈夫、すぐにきっと再開される。そんなことが頭の中をグルグルしていた」と悔しそうな表情を浮かべる。

 レイクサイド高校は、米国中西部アーカンソー州ホットスプリングス市の公立高校。「ホットスプリングス(Hot Springs)」という名称からも分かるようにかつては温泉街として知られていた。温泉繋がりで岩手県花巻市と姉妹都市の関係にあり、同校は花巻東高校と姉妹校でもある。

花巻東野球部と1週間の合同練習。

 昨年12月には花巻東高校の野球部2年生(現3年生)20人が姉妹都市交流の一環でホットスプリングス市を訪れ、レイクサイド高校野球部と1週間にわたって練習をしたり、授業を受けるなど交流を行った。

 日米の野球少年たちは、言葉の壁をボール1つで乗り越えた。

 花巻東の生徒たちはレイクサイドからリーダーシップや闊達さ、パワーやバッティングを、レイクサイドの生徒たちは花巻東から野球に対する姿勢、日常生活での感謝の気持ち、守備などを学んだ。最後の日には、花巻東は甲子園出場、レイクサイドは州大会出場を誓い、再会を約束して帰路についた。

 アーカンソー州は197の高校が登録している野球激戦区。同校は近隣の8校から構成される5Aサウスリーグに所属し、彼らは3月頭から4月末までの間にリーグ戦を行い、上位4校が5Aの州大会トーナメントに進出できる仕組みで、レイクサイドは昨年19勝9敗で州大会トーナメントでファイナル8に進出した。

 今年の目標ももちろん「州大会出場」だった。

6試合でリーグが中断。

「みんな一所懸命練習していたし、チームとしてまとまって雰囲気も良かった。今年も州大会にいける自信はあった。首位で行けたと思う」と捕手のベン・マルドゥーンは力説する。

 強豪ブライアント校との初戦、ベイツが完全試合を達成し、15−0で圧勝。幸先のいいスタートを切った。その後、接戦で惜しくも破れた試合もあったが、6試合を終えて4勝2敗。

 そんな状況下でリーグは中断。生徒たちはオンラインで授業を受けながら、ハーディン監督から配られた自宅できるトレーニングメニューをこなした。

 新型コロナウィルスが沈静化したら、また野球ができる。その日のためにしっかり体作りをしよう。

 チームはZoomでのミーティングやSNSでコミュニケーションをとり、士気を落とさないように努力を続けた。

 また皆で野球ができると信じていた。

「僕らは二度と一緒に野球ができないんだ」

 しかし4月末のリーグ戦の最終戦予定日になっても、5月に予定されていた州大会の日程が迫っても再開の報せは届かなかった。

「ああ、もう試合はないんだ。僕らはもう二度と一緒に野球ができないんだ」

 わずかな希望が打ち砕かれた。

 米国じゅうの高校球児がレイクサイド高校の部員と同じように悔しさとやるせなさを抱え、涙にくれた。

 レイクサイド高校は週4日、6時半から体力作りを中心とした朝練習を、午後は3時過ぎから技術練習を行っている。朝練習からかなり追い込むメニューが組まれ、ぐったりとした表情で授業に向かう部員も多い。

「練習がきつかったり、朝起きるのが大変なこともあった。でも上手くなりたかったし、大学でも野球がしたかったから。その目標のためにがんばってきた」

 そう話すのは、ムードメーカーのマルドゥーン。大学からスポーツ推薦を受けるために、野球はもちろん、勉強も手を抜かずに頑張った。でもその成果を披露することも、3月中旬以降に学校に戻ることも、卒業式もないまま、彼らは高校生活を終えた。

「あれが最後になるなんて」

 3月12日。

 高校生活、最後の試合となったマウント・イダ校戦はホームグラウンドで行われ、多くの家族や友人が応援に駆けつけてくれた。

 プリンスは「僕は練習も試合も、いつも全力を尽くすことが目標。最後の試合も持っている力を出したと思う。でも、あれが最後になるなんて思わなかった」と話す。

 両親の前でホームランを放ったベイツは、「あれが最後の試合になるとは思ってもいなかったけれど、ホームランを打てて良かった」と少し笑みを浮かべ、こう続ける。

「あの試合が最後になるなんて思わなかった。最後の試合と分かっていたら何か変えたのか、変わったのか、と聞かれたら、その答えは分からない。でも、僕はチームメイトともう一度、もう一度でいいから野球がしたい」

いつもそれが最後になると覚悟して。

 マルドゥーンは一連の経験をこう振り返る。

「今まで野球ができるのも学校に行くのも、あたり前のことだと思っていた。でもコロナ禍で、すべてが無くなってしまった。外に出る自由さえ奪われてしまって、初めて今まで自分は感謝の気持ちを持たずに過ごしていたように感じた。監督、チームメイト、家族、みんなに支えられてここまでやってきたんだと痛感した」

 今、日本の高校球児は、各県独自の大会に臨んでいるが、彼らはこんなエールを送る。

「絶対に最後まで諦めないで、全力でプレーして」

「(コロナが蔓延する)このような状況下、いつどうなるか分からない。勝って次の試合があると思っても、もしかしたら僕たちのように大会自体が無くなるかもしれない。だから、いつも『これが最後の試合になるかもしれない』そう思って全力でプレーしてほしい。グラウンドですべての力を出しきってほしい」

文=及川彩子

photograph by Ayako Oikawa