渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)がブロックに行く上から、チームメイトで新人王有力候補のジャ・モラントがダンクを狙う。フロリダ州のESPNワイド・ワールド・オブ・スポーツ・コンプレックス(WWOSC)で行われているNBA再開に向けた、グリズリーズのチーム練習での一幕だ。

 といっても、現在練習はごく限られたメディアにしか公開されていず、この場面も、アシスタントコーチら、何人かの関係者がSNSに投稿したことで世間に公開された。

 投稿した1人、グリズリーズのアシスタントコーチによると、モラントはその後、渡邊の上からダンクを決めたのだという。モラントは「僕の仲間を晒すようなことするなよ。いいディフェンスだったけれど、オフェンスがそれより上だっただけさ」とコメントしていた。

グリズリーズを待ち受ける熾烈な順位争い。

 グリズリーズがWWOSCでチーム練習を再開して1週間が過ぎた。

 NBAチームは新型コロナウイルス感染対策として、外の世界から隔離された“バブル”空間を作ることでシーズンを再開しようとしている。そのため、取材はもっぱらZOOM会見中心。コーチや選手たちがカメラ越しに語る言葉や、リーグが公開する限られた映像から推測するしかないのだが、若く上り調子のチームとして注目されるグリズリーズの練習は、明るく、いいムードの中で行われているようだ。

 3月11日にリーグが中断されたとき、グリズリーズはプレイオフ圏内のウェスタン・カンファレンス8位と、シーズン前の予想以上の成績をあげていた。すぐ後をポートランド・トレイルブレイザーズやニューオーリンズ・ペリカンズなどの強敵が追っており、ウェストの8位争いは再開後の一番の注目ポイントでもある。

隔離されたエリア“バブル”でのバスケ生活は?

 渡邊にとって、4カ月中断した後の再開はグッドニュースとバッドニュースが混在していた。

 2ウェイ契約の渡邊もチームの一員として“バブル”に帯同できること、そして、必要とあればプレイオフに出場できることはグッドニュース。

 当初は“バブル”内の人数を制限するために、2ウェイ契約選手は、人数が足りなくなったときだけ呼び寄せるという案もあったし、本来のシーズンならプレイオフには出場資格がなかったのだ。

 一方で、中断が4カ月続き、チームメイトたちが次々と故障から回復してきた。中断直前の試合で、グリズリーズは5選手が故障のために欠場し、中にはシーズン終了までの復帰は難しいとみられていた選手もいた。それが、4カ月の間に全員が回復し、ロスター17人全員が揃って再開を迎えることになった。再開シーズンに参加するなかには、新型コロナウイルス感染や家庭の事情、故障などの理由でフルメンバーが揃わないケースもある中で、恵まれた状態だ。チームにとっては朗報だが、ロスターの中で16番目、17番目の選手の立場である渡邊にとっては、練習機会や試合が始まった後の出場機会が限られるという点で、バッドニュースだった。

レギュラーメンバーが揃い、渡邊は難しい立場に。

 7月17日、練習後のZOOM会見で、練習再開後初めてメディアの取材を受けた渡邊は、現時点での自分の立場についてこう語った。

「17人全員がプレーできる状態なので、練習でも5対5になるとメインの人たち中心であまり参加できないときもあったりして、正直、簡単じゃない」

 そのうえで、できる限り前向きな姿勢で練習に取り組んでいると続けた。

「やることはいっしょで、どんな状態でも、とにかく自分が今できることっていうのに集中して、自分の機会がまわってきたときに、自分のできることを全部出し切ってという感じでやっています」

HCは「好守で万能なところがすばらしい」と。

 グリズリーズのタイラー・ジェンキンスHCは、17選手全員が試合に出られることについて、「恵まれたこと。選手を酷使させなくてすむ」と言い、選手層を活かした戦いをしたいと語る。

 渡邊ともう1人の2ウェイ契約選手、ジョン・コンチャーの出場を明言することはなかったが、「私たちは2人の2ウェイ契約選手をとても信頼している。雄太とジョンは常に努力を続け、準備をしてくれている」と称賛。

 渡邊個人についても、「好守どちらでも全力でプレーし、与えられた機会を最大限に生かしている。ポジションをいくつもプレーできて、好守で万能なところがすばらしい」と評価した。

「バスケができること自体が僕にとっては幸せ」

 必ずしもすべてが理想的な状況とは言えないが、コロナ禍の世界、しかも未だ感染拡大が収まらないアメリカにおいて、最大限の感染予防がされた環境でバスケットボールができているというのは、恵まれたことでもある。

 毎日、チーム練習の3時間と、夜のシューティングの時間はコート上での練習ができる。以前は当たり前に思えていたこの環境も、シーズン中断直後にはシュートを打つことすらできなかったときを思えば天国だ。

「正直、環境としては難しい部分もあるんですけれど、ただ、バスケができること自体がやっぱり僕にとっては幸せなんで」と渡邊は言う。そのため、再開シーズンに参加することに対する迷いも一切なかったという。

 今シーズンでハッスルとの2年契約が終わる渡邊にとって、この再開シーズンは、来季以降の契約を勝ち取るためにも大事な時間だ。たとえ試合出場が確約されていなくても、チーム練習で競争するだけでも参加する価値はある。

筋力テストで数値がすべて上昇した渡邊。

 渡邊は、3月からの中断期間中もシーズンが再開されると信じ、メンフィスに残ってトレーニングを続けていたという。

「体育館も全然使えない状態だったので、チームが家にトレーニング器材とかを送ってくれた。いつ再開されてもいいように常に毎日、チームのプログラムに従って、自分のできることに毎日集中していた」

 実際、中断中に体重を約10ポンド(約4.5kg)増やすことができ、チーム練習施設が使えるようになった後に受けた筋力テストでも、数値はすべて上昇していたという。

「何もできなかった期間に自分なりにしっかりできていた証拠かなと思います」と胸を張る。

 グリズリーズは現地7月31日のブレイザーズ戦から、シーディングゲーム(短縮レギュラーシーズン試合)を8試合戦い、プレイオフ出場を目指す。

文=宮地陽子

photograph by Getty Images