雨の中、生徒たちが集まってくる。

 この日はクラーク記念国際高校サッカー部の部員6名に中学生5名、それに海外でプロを目指す選手2名の計13名だ。

 競技場横の木立の中で着替え、雨のピッチに出ていく。

 ランニングを始め、2人組になってトラップやロングのキックの練習を始める。すると、伊藤壇監督の同級生など社会人の選手たちが数人やってきた。

「部員がまだ6名なんで、いろんな人の力を借りて練習しています」

 伊藤監督は、笑顔でそう語ピッチの中央に歩いていった。

 今年2月、クラーク札幌大通キャンパスにサッカー部が創設され、監督に伊藤壇が就任することが発表された。

 伊藤は、1998年ブランメル仙台(現ベガルタ仙台)に入団後、アジアなど22の国と地域でプレーし、2019年に現役を引退。現在は教職員としてではなく、同校と業務提携をしたコンサドーレ札幌と契約し、派遣という形で指導に当たっている。

あえて強い学校を選ばなかった経験。

 指導者としての経験は自らのスクールでしかないが、プロ経験は豊富。数多いオファーの中からクラークを選んだのは、自分の高校時代の経験が大きかったという。

「僕の高校時代は室蘭大谷1強の時代でした。でも、僕は登別大谷を選んだんです。理由は3年計画で選手を集めて選手権に出るということで面白そうだったし、1年目から試合に出るチャンスがあると思ったから。

 実際は1年の時には試合に出られなくて、1年の時も2年の時も室蘭大谷が優勝して周囲からは『室蘭に行けばよかったのに』って散々いわれました。でも3年の時、全道大会の決勝で室蘭と当たって僕の決勝ゴールで勝って、高校選手権に行けたんです。

 時間はかかったけど、自分のやりたいことをやることで結果を出せた。それがその後の自分の生き方の指針にもなりました。うちは来年、新1年生が中心になってチームを作っていく予定です。僕の高校時代と同じく、ゼロから作るところに魅力があったんです」

コンサドーレとの提携は他校の脅威。

 元プロサッカー選手の指導者は、今はそれほど珍しくはない。だが、コンサドーレ札幌が後押ししていることは、札幌を含む全道のサッカー強豪校にとって脅威になる。

 選手を獲得するための争奪戦が、札幌地区はより激戦になる。伊藤は、他校からの厳しい視線を感じているという。

「僕が監督になることは他校にとってサプライズだったと思うし、コンサドーレがバックアップしているので警戒されていると感じますね。クラークは野球やバレーですでに実績があるので、サッカーも本気でやるというのを周囲の高校が感じているのでしょう。

 それに、うちは道内だけではなく道外の子も積極的に受け入れている。道内ではなく、道外でまったくノーマークの選手が入ってくる可能性があるわけです。それは他の高校にはマネできないところだと思うんですよ。

 そのせいか今は6名しか部員がいないのに、『どうなっているんだ』と探りを入れられたり、直接いろいろ言われたり、かなり煙たい存在に思われていますね(苦笑)」

練習場もコーチ陣もアカデミーレベル。

 そういう声を封じるには結果を出していくしかないのだが、現在の部員は6名。攻撃や守備に特化した練習どころか、試合もすることができない。まずは部員の確保が急務になっている状況だ。部員の募集については体験練習会などを開催、伊藤監督のSNSやコンサドーレのホームページでも募集をかけている。

「全国から問い合わせはありますが、まだ6名ですし、大会にも出ていないので思ったよりはバッと集まる感じではないですね。元プロのコーチ、コンサのバックアップだけじゃ人が集まってこない。でも声をかけ続けていかないといけないですし、クラークに入ることで得られるメリットをしっかり届けていきたいと思っています」

 練習はコンサドーレの東雁来グラウンドを借りており、フィジカルコーチを元プロの横山知伸が、GKコーチをコンサドーレU-18出身の今岡亮介が担当している。すでに環境としてはコンサドーレアカデミーとほぼ同じレベルだ。

1年間ほぼ運動していなかった生徒も。

 また、伊藤監督は「出口教育」を重視している。

「僕が監督として呼ばれた理由のひとつは、アフターケアができることだと思っています。力のある選手がプロを目指す時にいろんな選択肢があると思いますが、例えばアジアのクラブに紹介することも可能です。実際、僕はこれまで100名以上の選手をアジアのクラブに紹介してきています。

 もちろんプロだけではなく、大学、社会人サッカーについても僕の人脈で生徒の進路に役立てることがあると思っていますし、その行先をしっかりと生徒と話をしていきたい。僕は、高校サッカーは3年間の付き合いだけじゃないと思っています。高校を卒業して大学生、社会人になってもぷらっと遊びにきてくれるような関係性を作っていきたいんです」

 現在のサッカー部員たちは、ニュースでサッカー部創設を知って入部してきたり、元々コンサドーレのサポーターだったり、バックグラウンドはさまざまだ。伊藤監督は、最初のオリエンテーションをZoomで行った時、サッカー歴や週にどのくらい身体を動かしているかなどの質問をしたが、彼らの返答はかなりユニークだったという。

「いやー、すごかったです。1年間ほとんど何もしていませんとか、Round1に行っていますとか……。eスポーツやっていますというのもあったけど、それってテレビゲームだろって(苦笑)。そういうレベルでしたね」

 マンガのようだが、そうしてチームがスタートした。

初心者に経験者が教える部活っぽさ。

 練習は週5〜6日。土日は、伊藤監督の友人の社会人に交じって練習試合に参加している。

 現在、6名の部員のポジションは、GK1人、ボランチ3人、センターバック1人、1年生の初心者が1人だ。初心者の選手は練習中、ロングキックの蹴り方をGKから教えてもらっていた。なんとなくほのぼのした雰囲気が漂い、「部活動」という感じがして微笑ましい。

 昔は、こういうシーンが当たり前にあったが、最近の部活動はうまい選手たちだけのクラブ活動になっている学校も多い。

 他の練習に移っても、GKは1年生の初心者に蹴り方を身振り手振りで教え、伊藤監督はそれを黙ってみていた。

ルールもユニフォームも生徒が決める。

「この時点で初心者が入ってきて、どうなるのかなって思っていました。僕が高校生の時なら自分のことに必死で、一緒にやるの? って感じになっていたと思うんです。でも、最初の3人の部員が蹴り方とかオフサイドとか教えているんですよ。

 彼らは早く自分たちで試合をしたいし、大会に出たい。そういう目標があるので初心者の選手もチームメイトとして認めて練習しているし、教えている。そういう11人が揃って、試合をするのがすごく楽しみですし、その生徒が3年になった時、どのくらい成長しているか。それは僕の指導力にかかってくると思うので、そこも楽しみではあります」

 伊藤監督は、チームでは選手の自主性を重んじている。部内のルールなどいろんな取り決めを選手に任せている。

「君たちは記念すべき1期生だからここで決めたことがすべての基準になる」

 スタートする際、3名の生徒を前に伊藤はそう話をしたという。

「部内のルール、ユニフォームも自分たちで決めなさいと言いました。自分たちでサッカ

 ー部を作り上げているのを感じているので、やりがいはすごく感じていると思います。最初は僕が少し怖かったのもあって言われたことに『はい』という感じだったけど、最近は『クロスからのヘディング練習をやりたいです』とか生徒から言ってくるようになりました。それはその日の練習プランになかったけど、やる気があるならと練習を変更しています。

 そういうポジティブな姿勢を出すのは大事ですし、言い合える関係も僕はいいと思っています。正直もっとグタグタになるかなと思ったけど、みんなよく頑張っているなと思いますね」

スタイルはトップチームとは別。

 サッカーのスタイルに関しては、コンサドーレのバックアップを受けているとは言ってもトップチームのスタイルを踏襲する必要はないという。

 では、伊藤監督はどういうサッカーを目指していくのだろうか。

「スタイルでいうと、ミスを恐れず、運動量が多く、2列目からどんどん飛び出していくサッカーですね。小中の指導者はボールを簡単に失ってはいけないと教えるケースが多いけど、僕はミスは技術的なものなので仕方ないと思っています。ただ、ミスを恐れずチャレンジしないことについては厳しくいいます。格上相手でも物おじせずガンガンいけるチームを作りたいですね」

理想の指導者像は、いいとこ取り。

 22の国と地域でプレーし、様々な監督と仕事をしてきた伊藤監督に、理想の指導者像はあるのだろうか。

「誰みたいに、というのはないですね。もちろん青森山田高校の黒田(剛)監督の指導力は尊敬していますし、他にもすばらしい監督がたくさんいましたけど、僕はそういう人のいいところだけを拾って、オリジナリティのある監督になりたい。

 日々の練習についても、いろんな人の練習方法や考え方をベースにしています。例えば、クロアチア人の監督は、『疲れたとか、失敗して終りではなく、集中して終わらせて明日の練習につなげなさい』と言っていました。僕もそうだなと思うので、練習の終わりにバー当てとかをして楽しいイメージで終わらせるようにしています」

 しばらくは部員募集と少人数での練習がつづく。

初めて何かをする人には批判が集まる。

 今年中には11名を揃えて、メンバーだけで試合をするのがひとつの目標だ。

「まずは人数を集めて大会に出て、1勝を挙げる。大きな目標としては2023年、北海道で開催されるインターハイへの出場です。もちろん高校選手権にも出たい。

 そういう目標を掲げると『そんなに甘くないよ』とあちこちから言われますし、僕もそう思います。でも、目標がないと自分を奮い立たせていくことが難しいですし、生徒も目標がないと苦しいだけじゃつづかない。

 僕が海外に出る時もそうでしたけど、何かを初めてやろうとすると批判的な声が上がります。それを黙らせるには結果しかないので、人一倍努力してやっていこうと思っています」

青森山田に20点取られてもいい?

 ちなみに11人揃って一番最初に試合をしたいチームは名門・青森山田高校だという。黒田監督は伊藤監督の高校の先輩であり、監督就任の際も挨拶にいき、指導について助言をもらった。新チームがぶつかるには巨大すぎる相手だが、そこには伊藤監督の考えがある。

「強豪の青森山田と試合をして20点ぐらいぶちこまれてもいいかなって思っています。日本のトップとの差を感じることは大事ですし、強烈な刺激になるでしょう。それに3人からスタートして、青森山田に20点取られたけど、数年後は何点差になった。そういうストーリーができると思うので」

 人数が揃わず、実力もバラバラの中でコンサドーレを始め、社会人やいろんな人の助けで選手が成長し、徐々にチームになっていく。壮大なドラマになりそうだが、目指す先は、「スクールウォーズ」か、それとも「ルーキーズ」か。

 いずれにせよ、「クラークサッカー部物語」は、テレビドラマを越えるストーリーを紡いでいくことになるだろう。

文=佐藤俊

photograph by Shun Sato