正午すぎに始まったゲームが終わったのは、太陽が大きく傾き始めた午後3時を過ぎた頃だった。7月25日の土曜日、シカゴで行われたカブスとブルワーズの開幕シリーズ第2戦。先発したダルビッシュ有投手は4回6安打3失点で敗戦投手になった。

 試合終了とほぼ同時に、別室に控えているカブスの広報からオンライン会見=Zoomの招待メールが届く。最初に監督の定例会見。続いて先発投手、さらに野手が1人ないし、2人は話すという告知である。

 取材席のあちこちに散らばった記者とほぼ同時に、リンクをクリックする。やがてラップトップの小さな画面に姿を現したデビッド・ロス監督がマイクをチェックし、会見が始まる。

「今日は80球から85球ぐらいまでと考えていたが、73球かな? ちょうどいいタイミングだと思ったので、(投手を)代えたんだ」

 ロス監督はそう言った。

打たれたのは「速いカッター」。

 続いて会見場に姿を現したダルビッシュは、米メディアに引き続いて行われた日本メディアとの質疑応答でこう答えた

――勝ち越し打となったガメルの2点タイムリー三塁打は?

「速いカッターですね。その前に暴投したと思うんですけど、自分は今まで試合であまり速いカッターを多く投げてきたことがないんですね。

 今日は速いカッターをインサイドに投げるというプランがチームにあったので、投げすぎたのかわからないですけど、途中からリリースポイントがズレてきた。あれはちょっとストライクを取りにいった。インサイドを狙ったけどちょっと抜けたので、あまり力がなかった」

話し方が、去年の6月に似ている。

 彼の話し方がどこか懐かしかったのは、それが去年の6月ぐらいの感じに似ていたからかも知れない。去年の6月、彼は「投球フォームがほとんど変わってない」というほど良い状態にあったが、それが「高い奪三振率と低い与四球率」という投手にとっての最高の形に繋がるまでには、少し時間がかかった。

「(投球フォームを)バラしたつもりはないけど、勝手にバレてくることがある。キャンプの途中からちょっと一体感がないというか、そういうのがあったんですけど、ちょっとずつパズルを合わせていくというか、たまたまこの間、ノートを見返した時に、一番最初に身体のどこから動くっていうのを(去年の)8月ぐらいに書いていたんで」

今年は取材申請も実際の取材も様変わり。

 今シーズンはたった60試合、先発投手にとっては最多でも12試合前後しかない先発の1つが上手くいかなかったのだから痛手には違いないが、『去年ほどは時間がかからないだろうな』という希望的観測を持ちつつ、原稿を書き終えた。

 ちょうどその頃、ホワイトソックスの広報から、「明日のツインズ戦における、あなたの取材申請は許可されました」というメールが届いた。

 新型コロナ・ウイルス対策で、今年はカブスもホワイトソックスも普段はほぼ満席の取材席を半分程度に抑えるように取材証の数も限定している。いつもならどこの球場でもフリーパスのBBWAA(全米野球記者協会)カードも今年は無効となり、取材申請も今は各球団ではなく、メジャーリーグ機構(MLB)が管理している。

 ただし、各球団によって決まりごとは違っていて、たとえばカブスの本拠地リグリーフィールドは試合開始の4時間前には開場するが、ホワイトソックスの本拠地ギャランティーレイト・フィールドは2時間前にならないと開場しない。いつものシーズンなら観客がやってくる時間帯とがっつり重なる時間帯だが、無観客なので問題はない。

 そもそも3月半ばに経済活動が制限されて以来、シカゴ市内の交通量は大幅に減少し、週末ともなると不気味なぐらい閑散としている。それは7月26日の日曜日も同じで、ホワイトソックス対ツインズのシリーズ最終戦の開始2時間前、高速道路を走る車は極端に少なく、野球場の駐車場もガランとしていた。

前田健太「久しぶりに緊張する時間」

 試合は呆気なかった。初回に6番ケイブの満塁本塁打で4点を先制したツインズは、続く2回にも打者一巡の猛攻で5点を奪って9−0とし、早々に勝負を決めた。前田健太は5回2失点で勝利投手になっている。

「……暑かったですね、湿気もありましたし。いつもよりペース配分を早めにというか、点をたくさん取ってもらったので、少し飛ばし気味に投げたところもありました。走者を溜めるとか、点を取った後に長い守備にしてしまうと流れが悪くなってしまうので、長いイニングを投げるというよりも、序盤をしっかり押さえることを意識して投げました」

 オンライン会見の前田健太はそう淡々と話した。試合開始時間には31度前後だった気温が、味方の攻撃が長引いている間に35度近くまで上昇した。それでも彼はスライダー、カッター、チェンジアップを次から次へと繰り出し、、相手がスピードを殺した球に的を絞ったところでドンと速球を投げ込んで、6三振を奪った。

「緊張しましたね。(開幕が約4カ月遅れて)緊張のない時間、緊張のない日々が長すぎて、久しぶりに緊張する時間が戻って来たんで、いつもより緊張した」

こぼれ話は微笑ましいが現実もある。

 新型コロナ・ウイルス対策で遠征そのものがリスクになる中、ツインズはカブスとのオープン戦を含め、この日で6日間、シカゴに滞在していたことになる。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のプロトコル=指導により、外食は基本的に自粛しているそうで、前田は「(自炊のための)グッズをいろいろと持ってきた」と明かした。

「小さな鍋で蕎麦を茹でたり、炊飯器で米を炊いたりしてましたね」

 微笑ましい「こぼれ話」ではあるが、これが現実なのだ。

 シカゴに本拠地を置く両リーグの人気球団が開幕シリーズを戦った陰で、ブルージェイズは地元トロントでのホーム試合開催や、代替案であるパイレーツの地元ピッツバーグでのホーム開催を、カナダ政府やペンシルバニア州によって拒否されていた(結局はブルージェイズのAAA級マイナー球団の本拠地ニューヨーク州バッファローに落ち着いた)。

2020年のメジャーリーグはどうなるか。

 シカゴの両チームが遠征に出かけた28日の火曜日、マーリンズの選手17人が感染していることが1日おきに行われている検査で判明し、その日のホーム開幕戦はおろか、約1週間も試合開催ができない状態に追い込まれている。その影響で、フィラデルフィアで行われる予定だったフィリーズ対ヤンキース戦も中止に追い込まれた。

 その後の調査でマーリンズの選手たちがアトランタ遠征中に街に繰り出したことが原因だという報道もあったが、それまでに他球団で感染を公表した数多くの数多くの選手や関係者が「細心の注意を払って、家で大人しくしていたのに感染した」と証言しているのだ。

 最後まで続けられるのだろうか――。

 そんな不安があるせいで、とても短いはずなのに、とても長く感じられる。このまま最後までやり通すことが出来たなら、それだけでもう充分だという気がする。

文=ナガオ勝司

photograph by AFLO