大谷翔平がアウトをひとつも取れず、30球を投げただけで、先発のマウンドを降りた。

 3安打3四球5失点の数字以上に、投球の内容が悪すぎた。調整も実戦体験も、まだまだ不十分なのだろう。当分は辛抱強く見守るほかない。

 好スタートを切ったのは、レイズ、カブス、パドレス、インディアンス、ツインズといったところだ。

 反対に、レッドソックス、ホワイトソックス、ナショナルズ、レッズあたりには、早くも前途多難の印象がある。ドジャースやヤンキースといった「本命株」は、まずまずのスタートで好位につけ、力を溜めている様子だ。

感染の震源はアトランタでは、という声も。

 それにしても、開幕後4日間で全勝チームが消えたのは予想外だった。というか、「やっとはじまった」大リーグの、今後の雲行きの怪しさを象徴しているかのようだ。

 だが、もっとも衝撃的だったのは、マイアミ・マーリンズの新型コロナウイルス集団感染ではないか。

 7月26日(日曜日)の発表では《4選手の感染》だったのだが、翌月曜日には《選手11人とコーチ2人》に修正された。火曜日になると《さらに4人》。いまのところの合計は17人で、ありがたくない上方修正だ。

 感染の震源はアトランタではなかったのか、という声もあがっている。

 開幕直前、マーリンズはアトランタでブレーヴスとエキシビション・ゲームを戦った。このとき相手方の捕手をつとめたタイラー・フラワーズとトラヴィス・ダルノーのふたりが、新型コロナウイルス感染の症候を示し、開幕カードの対メッツ3連戦を欠場したのだ。

 といっても、これはパンデミックなのだから、犯人探しをしてもはじまらない。

66日間で60試合を開催するという過密スケジュール。

 とにかく、マーリンズの試合は、8月2日(日曜日)までの全7試合が延期になった。

 先週末、マーリンズと戦ったフィリーズも、月曜と火曜にホームで予定されていた対ヤンキース2連戦と、水曜と木曜にニューヨークで予定されていた同カード2連戦を延期することになった。

 どちらも致し方のない措置だ。遅れた分はダブルヘッダーの連打で取り戻そうという考えだろうが、穴はあまりにも大きい。この程度の弥縫策で、事態は収拾可能なのだろうか。

 危惧する声は方々から上がっている。

 今シーズンは参加しないと表明した選手の一部には「そら見たことか」に近い発言があったという報道も見られる。同じ野球人なのにそれはないだろうと思いたいが、66日間で60試合を開催するという過密スケジュールには、私も不安の念を抱いていた。

 この日程では、オフが6日間しかない。通常の雨天順延だけでも、6日間はすぐに消費されてしまう。

《PCR陽性反応者と濃厚接触した者は2週間の隔離》という世間の方程式を当てはめられるような余裕は、どこを探しても見当たらない。

全試合が停止される可能性は十分に考えられる。

 そもそも、この強引な日程の推進者ともいうべきコミッショナーのロブ・マンフレッドが、MLB.comのインタヴューに応えて、「もしアウトブレイクが1球団にとどまらなかった場合……つまり当分プレーのできない選手が集団的に発生した場合、そのときは本当に憂慮すべき事態といわなければならないだろう」と述べている。

 実際、これは杞憂などではない。マーリンズに近い状況のチームがもう1球団、あるいは2球団でも出現すれば、全試合が停止される可能性は十分に考えられる。

 その場合、年間60試合のシーズンはさらに短縮されるのか。それとも、シーズン打ち切りが宣告されて、考えたくもないような破局が球界を見舞うのだろうか。

野球はタフだ、野球はへこたれない、と。

「野球だけは大丈夫」――私も含めて大リーグ開幕を望んでいた人々の多くは、恐慌や戦争など、大きな危機を何度も乗り切ってきた野球の復元力に一縷の望みを残してきたはずだ。

 野球はタフだ、野球はへこたれない、と。

 実際の話、球界は最近も、難局に際していくつかの解決策を提示している。

 カナダ政府がアメリカ市民の入国を禁止し、ブルージェイズがトロントでプレーできないと決まったときは、ニューヨーク州バファローが仮の本拠地に設定された。ロサンジェルスやワシントンDCでは、先ほど紹介した《濃厚接触者は14日間の隔離》という地方条例を、大リーガーに限って免除する特例措置を発表した。

 どれもこれも、野球に対する信頼と、野球に託した希望の大きさを示す逸話だと思う。だがいまは、その信頼や希望の橋がぐらつきはじめている。いますぐにも橋が崩れ落ちることはないと思うが、危うい状態に置かれていることはたしかだ。

《2日に1度のPCR検査》という取り決めも、検査結果の判明までに長い時間がかかるようでは、なかなかリスク回避につながらない。

 7月29日現在、アメリカでの新型コロナウイルス感染者数は約435万人で、死者の数は15万人に届こうとしている。残り8週間、このぐらついた橋を大リーグがなんとか渡り終え、ゴールのテープを切ることができるとよいのだが。

文=芝山幹郎

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