18試合、計105分、1試合平均5.8分。それが、渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)のNBA2年目の数字だった。

 この3つの数字は、得点やリバウンド、アシストといった数字よりも今シーズンの渡邊の状況を表していた。NBA1年目だった2018-19シーズン(15試合、計174分、平均11.6分)と比べても、シーズン通して約70分短く、1試合あたりでも約半分の出場時間だった。コロナ禍でシーズンがいつもより短かったこともあったが、平均出場時間からわかるように、グリズリーズに呼ばれても、ベンチで悶々としていた時間が長かった。

 一方で、2ウェイ契約選手として、グリズリーズ傘下のGリーグのメンフィス・ハッスルで試合に出たときには、主力として活躍していた。22試合に出場し、平均32.7分出場で17.2点、5.7リバウンド、2.2アシストをあげた。

 スタッツ以上に渡邊が手ごたえを感じていたのが、点の取り方だった。ボールを独占するのではなく、むしろボールはほとんど持たず、チームメイトの動きに合わせてオフボールで空いた空間に入り込み、パスを受けてシュートを打つといったプレーを増やすようにしていた。

 NBAに上がった場合、渡邊がボールをコントロールする役割を与えられる可能性は低い。Gリーグの試合に出ているときから、NBAに上がっても通用するプレーを意識してやるようになり、実際に結果を出していた。

成長を感じた一方で、悔しさも残る。

 グリズリーズがプレイオフの出場を逃し、シーズンが終了した3日後の、アメリカ時間8月18日、日本のメディア向けにオンライン会見を行った渡邊は、シーズンを振り返ってこう語った。

「すごく成長を感じれた1年でもありましたし、数字を見ても、去年の1シーズン目に比べて、GリーグもNBAもあがっている部分が多かったんで、すごく自信もつきました。高いレベルでやっていけるんだということを再確認ができた。ただ、それ以上に、正直悔しい思いが残ったシーズンだったのかなと感じています」

 悔しい思いをしたのは、自分では成長を感じながらも、それをNBAの試合で発揮する機会がほとんどなかったからだ。今季のグリズリーズは、新人のスーパースター、ジャ・モラントを中心とした若手チームながら、予想以上の躍進で、前のシーズン以上に勝ちにこだわるシーズンを送った。そのため、2ウェイプレイヤーの渡邊を起用する余裕がなかった。

 故障者が出るとチームに呼ばれるものの、ファウルトラブルなどの非常事態があったときのための要員で、出場した大半は、勝敗が決まった後の数分だった。試合に出ればチームに貢献できるという自信を感じながらも、それを発揮する場がなかった。

苦しい時間の支えになったもの。

 出番がないまま試合が終わり、悔しい思いをしたときに、日本にいる両親や親友に連絡し、思わず愚痴をこぼしたこともあったという。親身になって話を聞き、応援してくれる人がいたことで、シーズンを通して頑張ることもできた。

「自分はあまり弱音とかは吐いたりしないんですけれど、今シーズンは辛抱しなきゃいけない時間が多かった分、いつも以上に少しネガティブになっていた時期もあったんじゃないかなと思う。そうやって、身近にいつも自分の話を真剣に聞いてくれる存在がいたっていうこと自体が自分の支えになりました」と渡邊は明かす。

「(そのおかげで)一切ぶれることなく、毎日、自分がやらなきゃいけないことを徹底してできていたと思いますし、改めて、自分は、自分1人の力でここまで来れたんじゃない、家族や友人、今までの恩師とか、そういう方たちの支えがあったから、今ここにいるんだっていうのも再確認できた年だったなっていうふうに思います」

モラントのような派手なプレーはない。

 モラントのようなスーパースターだけ見ていると一見派手に見えるNBAの世界だが、まわりを見渡すと、自分のようにドラフト外でNBA入りし、マイナーリーグから上がってきて、少ない機会を活かし、自分の持ち味を発揮することでしぶとく生き延びている選手も大勢いる。

「僕は、ジャ・モラントみたいな派手なプレーはできないですし、ああいう選手になろうとも思っていない。派手なプレーは他の人たちに任せて、ディフェンスだったり、ルーズボールだったり、スペースを見つけて飛び込んでいくだとか、そういうことを自分はやっていかないと。特にNBAでは、見えないところで活躍できるという部分を極めていかなきゃいけないのかなというふうに思っています」

見習うべきトリバーの姿勢。

 たとえば、3月上旬、シーズンが中断する少し前にグリズリーズに入ってきたアンソニー・トリバーは、ドラフト外でNBA入りし、今シーズンで12年目、グリズリーズで10チームというジャーニーマン選手だ。グリズリーズとも当初は10日間契約で、シーズン再開が決まった6月になってようやく、シーズン終了までの契約を獲得した。控えのビッグマンとしての加入だったのだが、再開後のシーズンで、2年目のスター選手、ジャレン・ジャクソンJrが故障で離脱したことで、途中からスターターに抜擢された。

「彼は、一番のベテランなのに、練習の態度を見ていても、最後まで一人で残ってシューティングをやったりしていました。

 たぶんですけれど、最初、ヘッドコーチとしてはシーディングゲーム(再開後のレギュラーシーズン試合)のローテーションの中に考えていなかったと思う。それでも練習の中だったりとか、シーディングゲーム前のスクリメージで改めてチームに必要な選手なんだっていうのをアピールして、JJ(ジャクソン)が怪我したのもあってスタメンになった。ああいう姿勢っていうのは、僕もしっかり見習っていかなきゃいけないなっていうのは感じました」

脇役に徹するイングルス。

 あるいは、渡邊が大学時代から参考にしているジョー・イングルス(ユタ・ジャズ)。彼もドラフト外からマイナーリーグやヨーロッパのチームを渡り歩き、やっと契約できたロサンゼルス・クリッパーズからは開幕前にカットされた。その後、契約したユタ・ジャズは持ち味を発揮できる環境で、今シーズンで6シーズン目になる。

「身長が自分と同じぐらいで、同じレフティで、すごく器用な選手。得点もできるんですけれど、同じチームメイトにドノバン・ミッチェルやルーディ・ゴベアなど、オールスター選手がいる中で脇役にも徹することができる選手。そういう選手が自分の目指すべきところ。彼のプレーはよく参考にしていて、ああいうタイプの選手になれたらなというふうに思っています」

コーチの言葉に感謝する渡邊。

 渡邊のグリズリーズとの契約期間は、今季までの2シーズン。10月にNBAファイナルが終わるとフリーエージェントになる。

 シーズンが終了する少し前、再開シーズンが行われたオーランドで、チームの首脳陣やヘッドコーチのタイラー・ジェンキンズとシーズン総括の面談があった。来季の契約については何の確約もないが、それでも、フロントやコーチから評価されていることは感じられたという。

「当然、あの場面で『お前は全然使えない』みたいなことはGMもコーチも、さすがに言ってこないと思うんで」と、手放しで喜びはしなかったが、評価の言葉には感謝した。

「僕の成長度合いだったり、コート内外でプロフェッショナルな部分っていうのを本当に評価してくれているんだなっていうのは感じた。コーチも『もっと試合に出してあげたかったと思っているし、自分自身も出たかったと思っているんじゃないか』って言ってくれました」

気になる来季の契約動向。

 グリズリーズとしても、もし渡邊と契約を延長する可能性がまったくないのなら、帯同人数が限られたなかで出場の可能性が低い2ウェイ契約の渡邊を“バブル”(再開シーズンを行った隔離地域)に連れていくことはしなかっただろう。実際、グリズリーズではないが、2ウェイ契約の選手を同行させず、その分、スタッフを連れていくことを選んだチームもいくつかあったのだ。

 もしグリズリーズと契約延長することになったら、NBAの規則もあり、今度は2ウェイ契約ではなく本契約となる。あるいは、ほかのチームから契約オファーが来る可能性もある。実際、他のチームのフロントで働く人物から、渡邊を評価するコメントを聞いたこともある。

 どういう形になるにしても、このオフは、渡邊にとっての大きな岐路となる。そして、今シーズン、苦しみながらも得た経験と手ごたえが、次のステージに進むための踏み台となるはずだ。

文=宮地陽子

photograph by Joe Murphy/NBAE via Getty Image