「新参者感がありますね。人がかなり変わっているので」

 男子バレーボール日本代表主将の柳田将洋はそう言うが、4シーズンぶりに戻った古巣の体育館は居心地がよさそうだった。

 今年は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大や、東京五輪の1年延期という事態の中、昨シーズンまで海外リーグでプレーしていた選手たちは、それぞれに難しい決断を迫られた。

 引き続き海外でプレーすることを選んだ選手もいれば、国内のVリーグを選んだ選手もいる。昨季までドイツやポーランドでプレーした柳田は、4季ぶりに国内のサントリーサンバーズに復帰することを選んだ。

古巣復帰は「2021年」を重視した決断

 それぞれの決断には、その人が今、何にもっとも重きを置いているかが表れている。

 柳田の場合は、「2021年(東京五輪)があるので、そこにベストコンディションで向かえる環境」という点を重視した。

 柳田は、「僕は(休むと)戻すのにものすごく時間がかかる体質」だと自覚している。それだけに、この春の自粛期間には危機感と焦りが募った。

 例年なら、海外のリーグを終えて帰国すると、すぐに代表合宿に合流するため、練習環境に困ることはない。秋に国際大会が終わるとまたすぐに海外のチームに合流し、リーグ戦に出場するというサイクルだった。

 しかし今年は新型コロナウイルスの影響で4月6日に代表合宿が解散になり、その後は自宅でのトレーニングしかできなくなった。国内のチームは徐々に練習を再開したが、海外のチームはいつから活動し、いつ合流できるのかわからなかった。

 結果的には代表合宿が6月下旬から8月中旬まで再開されたが、それも当初は未定だった。海外のチームと契約した場合、国内で十分な練習ができないままリーグ前に渡航して開幕を迎えなければならない可能性もあった。

「自分はバレーから離れると取り戻すのに長い期間が必要なので、今までのシーズンのように、ポンと海外に行って、ポンとプレーできるのかと言われたら……」

 その状況では、思うように活躍できないばかりか、怪我という最悪のケースも考えられる。できるだけ早くバレーボールの練習を再開し、リーグの開幕までに時間をかけて準備できる環境は、柳田にとって重要な要素だった。

リーグ開幕へ体づくりも着々

「昨年もあったように少し怪我が増えていることもありますし、今のこの状況で、海外のチームの環境やサポートがいかほどかというところも考えました。レベルのことも含めて、本当にいろいろな面を考えましたが、日本のリーグもレベルが高い。そう考えたら、日本にもう1回チャレンジしてみたいなと。

(五輪が)2021年になったことが自分のその決断を加速させたかなというのはあります。サンバーズは10年以上優勝から遠ざかっているチームなので、ここでタイトルをつかんで歴史を作って、2021年に、というチャレンジもかなり大きな、価値のある挑戦なのかなと思いました」

 サントリーには6月から合流し、監督やコーチ、トレーナーと相談しながら綿密なプランを立てコンディションを上げてきた。

「1カ月半ぐらい経ってやっと普通の選手っぽくなってきたなという感じでした(笑)。しっかりと時間をかけてまた体を作ることができているというのは幸いですね。まだリーグ開幕まで1カ月少しあるので、ギアをもう1つか2つ上げられたらと思っています」

 コンディションを考慮して、8月に行われた日本代表の紅白戦はわずかな出場だったが、現在は完全復帰している。

欧州でステップアップ、いまや代表の主将

 柳田は慶應義塾大学を卒業した2015年にサントリーに入社し、2年間プレーした後プロ選手となり、キャリアを海外に移した。ドイツリーグのビュール、ポーランドリーグのルビン、ドイツのフランクフルトと3シーズン、ヨーロッパでステップアップし、'18年からは代表の主将を任された。

 海外リーグでプレーする柳田を取材して一番に感じたのは、「こんなにタフな選手だったのか」ということだった。

 海外では、日本では経験できない高いブロックと日常的に対峙し、強力な相手サーブのプレッシャーに常にさらされた。最初はほとんど英語を話せず、日本とは違う食事やコンディショニングの難しさにも悪戦苦闘しながら、試合でのプレーや積極的なコミュニケーションで周囲からの信頼を勝ち取り、自分の居場所を毎年ゼロから築き上げた。英語はあっという間に上達し、刺激にあふれた海外での生活やプレーを生き生きと堪能していた姿が印象的だった。

 それだけに、古巣でのシーズンを物足りなく感じるのではないかという勝手な心配がよぎった。しかし柳田はこう言い切った。

「そうなると思ったら、ここに移籍する選択はしてないと思います」

 そして柳田がサントリーに合流して練習する姿を見た時、そんな心配が杞憂だとわかった。

「自分を追い込む姿勢がすごい」

 ウォーミングアップ後に対人練習が始まると、柳田は目をギョロッと見開き、必死にボールを追った。まだ思うように体が動いていないようだったが、どんなボールにも食らいつく泥臭い姿は周囲の選手たちに響いた。

 サントリーで主将を務める入団3年目の大宅真樹はこう語った。

「自分を追い込む姿勢がすごい。対人1つとっても、無理だと思うようなボールも、絶対に滑って、最後まで追いかける。海外では、そういうところからやらないとコートに立てないからだと思う。僕は海外に行ってないけど、マサさん(柳田)が戻ってきたことで、そういうことに日本で気づけた。

 そういう姿を見て、『あー、さすがだなー』って、思ってる時点で、自分はもうそこでマサさんに負けてるんですけど。だから今はそれに負けないように、まずはマサさんのマネからやっていこうとしています。マサさんの影響力はすごい。でも『マサさん、すげー』で終わらせたくないので」

最年長栗山も柳田の変化に驚く

 対人の時の柳田の目は明らかに以前サントリーにいた時とは違った。チーム最年長32歳の栗山雅史は、「めちゃめちゃ変わった。別人」と言う。若い選手だけでなく、以前ともにプレーしていた選手たちも大きな刺激を受けていると話す。

「マサとパートナーで対人をやっていると、こっちも勝手に一気にスイッチを入れられて、あっちのペースになります(苦笑)。以前いた時は1、2年目の若手でしたけど、3年間海外でやって、代表のキャプテンもやっている。今は指示の声だったり、もうほんと別人で、チームの中心。いろんな点で意識が高いです。

 オリンピックが、1年先になったけど、そこに向けて今何をすべきかということをすごく明確にしているイメージがある。練習の準備を1時間前ぐらいから念入りにやっているし、練習もすごくやる。『もうやらんほうがいいんちゃう? 大丈夫か?』って思うぐらい、ギリギリのところまで追い込んでいます」

バレーボールに没頭できる環境

 プロ選手として海外でもまれた経験や、来年の五輪を控えたモチベーション――。目の色が違う理由はそれだけではないと柳田は言う。

「やっぱり日本なんで、言語の、コミュニケーションのストレスがないじゃないですか。それに食事や生活リズム、天候とか、普段の生活にもあんまりストレスがない。海外だと、どこに行くにもちょっと考えながら、気を張っていたけど、日本だと何も気を使わなくていい。そういうのはいいところの1つですね」

 ストレスがないことで、バレーボールに没頭できていると言う。

「それに、知らない選手が多いので目新しさもある。僕も今ここでは新人同然なので、ハツラツとやろうかなと思っていますから」

若手との距離を埋めるコミュニケーション

 若手にとっては大きすぎる“新人”だ。かつて一緒にプレーしていた選手は今は4人だけで、ほとんどが柳田が海外に移籍した後に入団した若い選手たち。彼らにとって柳田は“代表キャプテン”という遠い存在だった。合流した当初、彼らがそうした目で、少し距離を置いて見ているのを柳田は感じた。

 その距離を縮めるために、若い選手ともフランクに話をした。練習中は厳しい言葉を発することもあるが、オンとオフのメリハリはつける。

 1年目のセッター西田寛基は、「テレビの中でしか見たことがない人だったので、遠い存在だったし、堅い感じなのかなと思っていたんですけど、すごくフレンドリーに話しかけてくれて驚きました」と言う。

 それは海外でやってきたことと同じ、柳田にとってはごく普通のことだった。

「お互いのことを知るにはまずコミュニケーションだと思うので。日本では“感じる”とか“察する”という面もあるけど、1シーズン、1シーズンが勝負の世界では、そんなところに時間をかけている余裕がない。言いたいことがあったら言っていったほうがいいと思うので」

柳田が理想とする、言い合える関係性

 大宅は「マサさんはスターだから」と口にして、柳田に叱られたことがあるという。

 柳田は「本気で怒ってはないですけど」と苦笑しながらこう明かした。

「そんなふうに感じられるのは好きじゃないので。僕は何でも決められるアウトサイドプレーヤーではないわけで。僕が経験を積んでこられているのは、他の人たちの支えがあったから。『オレもお前のために頑張るし、お前もオレのために頼むよ』っていう関係性を、たぶんスターって思っていたら作れないじゃないですか。優勝を目標に掲げているのであれば、誰1人それを疑わないで、誰とでも言い合える関係性が大事だと思うので」

 もちろん距離を縮めるだけでなく、持てる力や経験は最大限に示していく。

「しっかりと存在感を出して、ただの年上、ただの先輩じゃないってところも見せていければと思っています」

 さりげない自信がのぞいた。今季の選択がベストだったと言うためにも、10月17日のVリーグ開幕に向け、柳田は全力の毎日を送っている。

文=米虫紀子

photograph by Noriko Yonemushi