甲子園球場、東京ドームの2会場で、1週間を置いて行われた「プロ志望高校生合同練習会」。

 甲子園の2日目。午後のシートバッティングの最後で、猛烈な夕立に襲われた。

「甲子園」は、スコアボードの旗が右から左になびいていれば、「浜風」、つまり海から風が吹いている時で、まず天気の心配はない。逆に、冷たい風が吹いてきたな……と思って旗を見ると右向きに変わっていて、ネット裏の後方、六甲の山並みの上空に黒雲がわいてきたら、もうダメだ。

 ポツリ、ポツリ……と来たかと思ったら、一気にドバーッとスコールが始まる。この日もそうだった。外野スタンドとスコアボードが、あっという間に真っ白になって、グラウンドは池のようになり、最後の1組のシートバッティングは、室内練習場で行われることになった。

 急な状況の変化は、人を動揺させる。

「オーディション」の場が「室内」になって、選手たちのパフォーマンスに揺らぎは見えるのか。彼らのメンタルを垣間見る「リトマス試験紙」になるのかもしれない。

(6)加藤翼(投手・帝京大可児)

 左腕2人が投げた後にマウンドに上がったのが、春先に153キロをマークしたという加藤翼(投手・帝京大可児・179cm76kg・右投右打)だ。

 5球の投球練習から、ものスゴい捕球音が室内練習場に響き渡る。室内は音が反響するし、狭い場所で見る速いボールは実際より一段とスピードが増して見える。屋外では生じないアドバンテージがいくつかある上に、左腕2人の後の登板で、打者は戸惑いがちだ。

 加藤翼は投げる前から、何ポイントか稼いでいるように見えた。

 腰の位置を高いままに保って、小さめに踏み込んで猛烈な腕の振りでパーンと投げ下ろす。跳ねるようなフィニッシュが、オリックス・山本由伸のようだ。どちらかといえば上体のパワーで投げるタイプだから投げ込むゾーンは高い。しかし、そこへ伸びていく速球は強く、イキがいい。

 室内だから、スピードガンの表示はないが、目測でも145キロ前後。打者の体感は150キロ近いはずだ。ミットに入ってからスイングしているように見える差し込まれぶりだった。

 スライダー、カーブ、チェンジアップ……すべての持ち球を勝負球に使って、ヒット性の打球を許さない。

 セットからの投げっぷりを見ていて、アレッ……と思った。ベルトのバックルあたりで、グラブの中にボールをセットして、そこからモーションを起こし始めるまでの「時間」に、バリエーションをつけている。

 セットして3秒で投げたり、5秒持ったり、時にはセットしてすぐクイックモーションで投げたり。「間(ま)」を作って投げているから驚いた。

 投手の仕事は、打者のタイミングを外すこと。ラスト1球、右打者の外角低めに伸びて見逃し三振を奪った快速球は、間違いなく今日の彼のベストボールだった。

 オーディションは、終わり良ければ、すべて良し。 見る者の記憶に最高の印象を刻み付けた加藤翼の「31球」だった。

(7)荒木友斗(捕手・加茂暁星)

 シートバッティングでは、どうしても投手と打者ばかりに視線が集まりがちだが、最も忘れがちな「捕手」にキラキラと輝いた選手を見つけた。

 荒木友斗(捕手・加茂暁星・176cm85kg・右投右打)。新潟県下トップクラスの強打の「内野手」として、その存在は知っていた。その内野手が「捕手」で輝いてみせたから驚いた。

 間違いなく、この日エントリーした6人の捕手の中で頭一つ抜けたスローイング能力だった。まず、フォームがいい。腰が割れたまま、捕球した高さで投げられる重心の低さは、そのまま送球の安定感だ。低い送球がまっすぐに伸びて、二塁ベース上にポンと乗せられる。低くて、柔らかくて、頭が動かなくて、安心して見ていられる高精度の連動性。とても、昨日きょうの捕手の動きじゃない。

 自慢の強肩をよりアピールできると考えて、あえて「捕手」でエントリーしたと聞いて、また驚いた。

 ボールを捕球して、そのまま数秒ジッとミットを止めて、球審にしっかり球筋を見せるようなところも堂に入って、「装束」付けてホームの後ろにしゃがんでいるムードは、もう立派な「ベテラン捕手」である。

 高校球児の潜在能力、恐るべし。

(8)岡本大翔(ショート・米子東)

 こんなデカいショートが、しかもバリバリの進学校にいて、いったいどうなるんだろう……? 楽しみより心配が大きかった超大型遊撃手が、ビックリするほど上手くなっていて驚いた。

 昨年のセンバツ、米子東のショートで出場してきた岡本大翔。名前もデカいが、当時ですでに188cm。この日は、さらに大きくなって、「190cm92kg」でのエントリーとなった。

 左手をケガしているそうで、守備だけの披露となったが、およそ2時間のバッティング練習中、ずっと「ショート」を守り続けたのは、フィールディングだけでも存分に見てもらおう……そんな心意気からではないか。

 1年前の動きは、正直、まだ鈍かった。打球に対して、初動を起こす反応の鋭さもなかったし、足をひきずるように見えて、フットワークの軽快さも見えなかったのに、この1年ですっかり「遊撃手」らしくなって、甲子園に帰ってきた。

 打球に対する初動はスッと小さくなれて、その頭の高さのまま、捕球→送球の連動が流れを作る。サイズは190cmあっても、180cmぐらいのショートの動きだ。半端なバウンドにも大胆に体を入れられて、タイミングを合わせて、体勢を立て直しながら送球につなげてしまう。動きの復元性や再現性も一級品だ。

「打てる遊撃手」を指向するタイプなんだろうなぁ……と勝手に考えていたが、立派にフィールディングで勝負できる超大型遊撃手になりつつある。190cmの日本人遊撃手……鳥越裕介(現・千葉ロッテコーチ)二世。この国の野球も、だんだんと、そういう時代になってきたのか。

(9)寺本聖一(外野手・広島商)

 シートノックが終わった外野手たちが、ホームベース付近に向かって戻ってくる。その一群からただ1人、猛烈な全力疾走の丸っこいユニフォーム姿。

 ある意味、<狂気>を感じた。さっきまでシートノックのバックサード、バックホームの<肩>がすごかった選手である。

 寺本聖一(外野手・広島商・170cm78kg・右投左打)という名前は知っていた。名門の選手がこんなに奔放な、伸びやかな野球をするのかとビックリした。

 バッティング、最初の10球はインパクトのタイミングと芯でミートすることを確かめるように、後半の10球は自分の「MAX」を見せつけるように、技術とパワーの両面を発揮して、打撃センスを存分に披露した。

 会って話してみたくて、このあとすぐに学校にお邪魔した。

 近くで「野球」を見せてもらって「この選手獲ったら、3年先から向こう10年、『1番打者』の心配いらないんじゃないか」……私は密かに本気でそう考えている。

(10)井上幹太(外野手・神村学園)

 デカいといえば、打席で構えた姿がデカく見えたのが、井上幹太(外野手・神村学園・183cm90kg・右投左打)だ。

 ギータ(ソフトバンク・柳田悠岐)だと思った。ギータだから、ブンブンいくのかと思ったら、頭の動かないスイングから、右中間、左中間へライナー性の打球がガンガン飛んでいく。

 引っ張った打球と、逆方向の打球の両方が同じスピードと飛距離で飛んでいくから驚いた。高校生の打球はどちらかに<優劣>ができるのが普通だ。

 インパクトの打球音が違う。カーンとか、コーンじゃない。「カシャキーン!」と聞こえる。プロ野球のキャンプで聞こえてくる快音だ。インサイドアウトのスイング軌道で、芯を食っている証拠だ。

 これだけのスラッガーの名前が、どうして聞こえてこなかったのか…左ヒザ半月板損傷で、半年以上のブランクがあったそうだ。その<空白>がなかったら、九州でも有数のバットマンになっていたはずだ。

 埋まったままになりそうだったスラッガーの卵を、ギリギリで発掘した。それも、今回の「合同練習会」の大きなお手柄だった。

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文=安倍昌彦