日本のリーグは5年ぶり。フィンランド、フランス、ポーランドの3カ国で5シーズンに渡りプレーした古賀太一郎が、今季は日本のVリーグへ復帰した。

 しかもそれが、かつて在籍したウルフドッグス名古屋ではなく、FC東京に。

 失礼を承知で言うならば、FC東京は上位争いを繰り広げるのではなく、下位争いに回ることが多い。さらに言うならば、環境も恵まれているとは言い難い。

 優勝争いの大本命と挙げられるような大企業を母体とするチームの大半は、社業に時間を割かれることもなく、バレーボールに専念できる。一方で、FC東京の選手は皆、リーグ中も社業に携わる。それも1つの事業所、営業所ではなく複数の場所であるため、勤務形態も異なり、練習場所のある東京都内へ横浜での仕事を終えてから通う選手もいる。

 これまで築いた古賀のキャリアから見れば、なぜFC東京なのか。至って単純な疑問をぶつけると、古賀はこう言った。

「一番は、監督の真保(綱一郎)さんがずっと声をかけ続けてくれて、自分も真保さんのコンセプトに賛同できるということ。必要とされるチームでプレーするのは、選手としてこのうえない幸せですから。いろんな選択はあった中、ここでやるのがベストだと判断したから、決めた。FC東京でやる、ということに迷いはなかったです」

襲い掛かったコロナウイルスの余波

 欧州のクラブシーズンは9月から翌年の5月にかけて行なわれる。各国のカップ戦や、国内リーグ、チャンピオンズリーグなど複数の大会が行われる中、同時に翌シーズンに向けた戦力補強も始まり、選手たちは移籍市場を意識しながら戦い抜いていく。キャリアアップを目指し、より高値、好条件の契約を勝ち取るべく、エージェントを交えた移籍市場は活気を増す。

 ところが、である。今年はコロナウイルスという強敵を前に、世界各国が思わぬ事態に見舞われた。それはプロ契約選手としてポーランドのザビエルチェでプレーしていた古賀も同様だった。

来季の提示額は「50%カット」

「リーグが中止になったので、その分が昨年の契約から削られ、3月の時点で(報酬は)20%カットされたんです。さらにクラブからは『来年もできるなら契約したいけれど、残るなら年俸は50%カットさせてくれ』と。コロナもどうなるかわからない状況で、それは今だけと限ったことではないし、もっと状況は悪化するかもしれない。家族を路頭に迷わせるわけにもいかないですし、それでもいいから海外でやりたい、と安易には考えられない。

 何よりプロである以上、一度給料を下げてしまうともう一度上げるのはものすごく難しい。安売りしたらダメなんですよ。それが、自分のやっていることに対するプライドでもあるわけですから」 

企業選手のメリット、デメリット

 前述の通り、プロ選手として海外でプレーし、年々クラブやリーグを変え、キャリアアップを遂げる道筋は、他競技と変わらぬ図式であるように見えるが、細かく紐解くと、日本のバレーボール界独自の複雑な事情が露呈する。

 コロナ禍の今季も昨季に続いて、石川祐希がイタリアで、福澤達哉がフランスでプレーし、前回のコラムでも記した井手智がドイツへと渡った。この厳しい状況下でも海を渡り、世界で戦う選手たちの存在は日本バレーボール界の強化、発展という目で見れば明るい希望の光であるのは間違いない。

 だが一方で、契約面に目を向ければどうか。

 石川のように始めから企業に属することなく、プロとして活躍の場を海外に求め、着実なキャリアアップを遂げた選手は例外だ。福澤は現在もパナソニックに所属し、かつて同じパリ・バレーに在籍した本間隆太はジェイテクトに、そして古賀もまたフィンランド、パリでの契約時は豊田合成に在籍する、いわば“企業選手”だった。

 純粋なプロ選手であれば、報酬はクラブと選手間で契約が為されて支払われるが、企業に属する選手であれば、海外でプレーしていようと報酬が支払われるのは会社から。クラブからの契約金や年俸はそれぞれが所属する会社へと支払われる。

 つまり、選手の立場から見れば自らがプレーするクラブの経営状況に関わらず、日本にいた時とほぼ変わらぬ一定収入は得られる。一方のクラブ側にとっても、通常なら日本代表でプレーするほどキャリアがある選手だったとしても、それが企業に属したまま渡欧した、期間限定の契約であれば本来のキャリアに見合う金額には到底及ばない安値でも契約を結べるという利点があるのだ。

「必要なのは“教育”なんだと思います」

 互いにとってメリットこそあれ、デメリットはないように見えるが、長い目で見れば違う。古賀は力強く語る。

「福澤さんのように、ちゃんと会社とそういう契約を結べるだけの努力と準備をしていたり、石川のようにプロとして稼げるようになる選手は別として、そういう仕組みがわかっておらず、ただ海外へ行きたいと思って飛び出すだけではリスクも大きいし、きついです。

 実際、海外へ出て行く選手は増えていますが、その仕組み自体をよくわかっていないので、会社を辞めて、海外へ飛び出したものの残念ながら次の契約に結び付かず、路頭に迷う選手も出てきてしまっているというのが現状です。海外での実績がない中で一度途絶えてしまうと、次の契約を勝ち取るのは難しいし、日本人のエージェントが世界のトップにいないことで、エージェントの意のままに言いくるめられてしまうのも事実。僕自身も(渡欧した)当初はそれがわかっていませんでしたし、必要なのは“教育”なんだと思います」

海外へ行ってどうなりたいのか

 学校教育とは異なる、バレーボール選手として必要な教育。海外でプレーするということだけでも、知る、知らない、という小さな違いが大きな差に変わる、と古賀は言う。

「日本で何年か経験を重ねたから海外でやってみたいという選手と、ここから一気に飛躍してやると思う選手。前者はそもそもの設定がゴールだけど、後者はスタートですよね。同じシーズンを過ごしていても、結果を出してよかったで終わってしまうのか、この1本、この1勝が来シーズンのためとガツガツするかで全然違う。

 海外へ行ってどうなりたいか。そのために何をしなければいけないか。今は海外でプレーすることも身近になってきたからこそ、その本質を知らなきゃダメ。バレーボールの指導者にも、実技を教えることと同じぐらい、この先どうなるために何をすべきか、ということや日本と海外の仕組みそのものを教えることも求められていると思います」

石川は憧れではなく、ライバル

 その矛先は、当然ながら次世代にも向けられる。

 古賀はポーランドから帰国した後、6月から味の素ナショナルトレーニングセンターで行われた日本代表合宿に参加した。古賀、石川に新井雄大(東海大)、大塚達宣(早稲田大)、高橋藍(日体大)の3名の大学生を加えた5名での合宿時も、考えさせられることが多くあったと古賀は振り返る。

「(大学生たちは)能力があるのは間違いない。でも若手らしくないというか、ガツガツした貪欲さというのは感じられなかった。日本の枠組みの中では彼らは大学生というカテゴリーで、日本代表合宿も憧れの石川選手とできる場所と思っていたかもしれないけれど、世界に目を向けたらそうじゃない。海外では18歳は決して若くないし、すでにプロとして活動する彼らは『この人みたいになりたい』ではなく、虎視眈々と『このポジションを奪いたい』と狙い、戦っています。

 日本では大学、Vリーグ、とカテゴリーが分かれているので、限定された場所で受ける刺激も少ないし、今、目の前のことしか考えなくていいかもしれないけれど、将来を見据えればそれだけじゃ足りない。いいものを持っている選手たちだからこそ、大学生だからこのレベルでいいではなく、今どうすべきで、この先どうなりたいか。“憧れの石川選手”ではなく、“石川はライバル”と思わなければそのレベルに達することはできません。もっと視点を上げなきゃいけない。

 彼らが将来海外を目指すのは素晴らしいことだと思うし、僕も海外推進派です。実際行けばわかること、学べることがたくさんあるけれど、それと同じかそれ以上に厳しい世界であるのも間違いない。海外へ行く、やると決めたら死ぬ気で頑張らないといけない。そういう世界だと思っています」

古賀がFC東京で感じるやりがい

 もちろんそれは自らも同じだ。これまでの5シーズンと異なり、日本でプレーすることを決めた今シーズン。場所は変わってもプロはプロ。その場で与えられた責務を果たし、結果で示すことがすべて、と言っても過言ではない。

「FC東京の選手は仕事もして、バレーもする。実際大変ですよ。でもそこで結果が出せなくても『俺らは仕事もしているんだから、これで十分だし仕方ない』と充実感を感じているようでは上にはいけない。本当は選手たちだって、その環境で頑張っていることだけじゃなく、勝って評価されるべきだし、そうなりたいんです。だったら、意識を変えないといけないし、そこが変われば練習のクオリティは変わります。

 自分がプロだから“俺のやり方によせろ”と押し付けるのではなく、真夏の40度近い中、外で営業して、練習もする大変さを理解しながら、バレーボール選手としての意識、やり方、変えるべきだと思うことはどんどん指摘する。個々の能力を見れば、下位に甘んじるような力じゃないですから。もっとやれると思うし、もっと変わる。だから、やりがいはものすごく感じています」

 結果で示すことでクラブの価値を高め、自らの評価も高める。それがいかなる時も果たすべきことであり、プロとして、生きる覚悟――。

 自分の価値を信じているのは、他でもない。自分自身だ。

文=田中夕子

photograph by Takahisa Hirano/AFLO