ウェスタン・カンファレンス決勝ロサンゼルス・レイカーズ対デンバー・ナゲッツ第2戦、競り合いが続く第4Q半ばのタイムアウトで、レイカーズのヘッドコーチ、フランク・ボーゲルは、試合終盤に向けて、選手たちに勝つために必要なメンタリティを説いていた。

「この試合の勝敗を決めるのはオフェンスのスワッグ(強気)だ。自信を持ってプレーするんだ。そのユニフォームを着ているのだから、みんながビッグショット・メーカーだ」

 この試合でレイカーズが着ていたのは、“ブラック・マンバ”ユニフォーム。故コービー・ブライアントが、現役引退後にチームの“シティ・エディション・ジャージー”としてデザインしたユニフォームだった。勝負どころで常に強気だったコービーのメンタルを思い出せという、ボーゲルHCのメッセージだった。

 ボーゲルHCの予測通り、この試合の決着をつけたのはアンソニー・デイビスの“ビッグショット”だった。試合終了のブザーと同時に、逆転3ポイントシュートを沈めたのだ。歓喜のなかでデイビスは、「コービー!」と叫んでいた。

「このユニフォームで負けるわけにはいかないんだ」とデイビスは言った。

「1・2・3・マンバ!」

 1月26日、コービー・ブライアントが娘のジアナや友人たちと共にヘリコプター事故で亡くなって以来、レイカーズはシーズンをコービーに捧げてきた。毎日、口に出して語るわけではなくても、彼らの心の隅には、常にコービーがいた。

 たとえば、チームの円陣を解くときのフレーズは「1・2・3・マンバ!」。レブロン・ジェームズは指にコービーの背番号「24」が入ったスリーブをつけ、デイビスは足にブラック・マンバのタトゥーを入れている。コービーのシグニチャー・シューズを履くことで思いを表す選手やコーチも多い。レイカーズの今プレイオフでのスローガン、「伝説を残せ」はコービーのモットーからとった言葉だ。

チームの士気を高めた2分間の映像

 プレイオフ前には、コービーがレイカーズにとってどんな存在だったかを示す2分間の映像をチームで見て士気を高めた。

「自分たちの前にどんな機会があるのか。コービーがどんなことを信じていたのか。そういうパワフルなメッセージだった」と、ボーゲルHCは明かした。

 コービーの映像を作って選手たちに見せることを提案したのは、アシスタントコーチのライオネル・ホリンズと、コービーの元代理人で親友のロブ・ペリンカGMだったという。

「コービーを失って以来、私たちはずっと、彼が信じてきたことを体現しようと言ってきた。特にプレイオフを前にして、彼の思い出を忘れずに記憶にとどめていくことが大事だと思った」とボーゲルHCは語った。

 “ブラック・マンバ”ユニフォームを着ることはそういった思いの表現のひとつだった。10月2日のNBAファイナル第2戦までに4試合で着用し、そのすべてで勝利をあげている。

 最初に着たのは8月24日のプレイオフ1回戦、対ポートランド・トレイルブレイザーズ第4戦だった。コービーの誕生日(8月23日)の翌日で、コービーのユニフォーム番号、8と24にちなんでロサンゼルス市(レイカーズの本拠地)とオレンジ郡(コービーが住んでいた郡)で“コービー・ブライアント・デー”に制定された日だ。

レブロン「彼はこの建物にいる」

 この試合で不思議なことがあった。第1Q半ば、レイカーズのケンタビオス・コールドウェル・ポープがファウルされながらシュートを決め、スコアボードが両チームの得点を表示した。

「24−8」

 コービーの背番号と同じ得点だ。単なる偶然といえばそれまでだが、コービー・ブライアント・デーで、 “ブラック・マンバ”ユニフォームで戦った試合でのことだっただけに、特別だった。

 試合中、この偶然に気づいた1人がレブロン・ジェームズだった。

「これはしるしに違いない。彼はこの建物にいる」

 レブロンはそう思ったという。

現役選手たちとコービーの絆

 コービー・ブライアントの現役引退から4年がたち、今のレイカーズにはコービーの最後のシーズンのメンバーは残っていない。それでも、20年間、レイカーズ一筋だったコービーの痕跡はフランチャイズのあちこちに遺されていた。また、選手たちは個々にコービーとの繋がりがあった。

 デイビスは2012年ロンドン五輪でチームメイトとなったことがきっかけでコービーと親しくなり、コービーはデイビスのメンターとなった。

 ドワイト・ハワードは、2012−13シーズンにレイカーズでコービーのチームメイトだった。当時、コート上では決して相性がいいとは言えない2人だったが、コービーがアキレス腱を断裂したときには真っ先に見舞いに行った。再びレイカーズに戻ってきた今季、ハワードはコービーが亡くなる前から、シーズン通してコービーのシューズを履くと決めていたという。

 カイル・クーズマが新人としてレイカーズに入ったのはコービーが引退した後だったが、子どものころからのアイドル、コービーの考え方や知識を知ろうと弟子入り志願し、何度もワークアウトや食事を共にしていた。コービーからは色々とアドバイスをもらっていたという。

コービーのレガシーを継ぐレブロン

 レブロンは、リーグのスーパースターとしてコービーを追いかけ、競い、アメリカ代表ではチームメイトでもあり、レイカーズに移籍してからはコービーが残したレガシーを引き継いでいる。コービーが亡くなる前夜にキャリア通算得点でコービーの記録を抜き、コービーからツイッターで祝福のメッセージを送られた。

「バスケットボールをさらに前に進め続けてほしい」とあった。

 レブロンは、今でも、コービーのことを考えない日はないという。24の番号がついたフィンガースリーブを着けるとき、コービーが20年間着た、レイカーズのパープル&ゴールドのユニフォームを着るとき、そのたびに、コービーのことを思い出している。

「パープル&ゴールドを身に着けるたびに、彼のレガシーについて考える。彼がこのフランチャイズにとって20年以上の間、どんな意味を持っていたのかを考える。コート上で、オフコートで、どんな存在だったのかを考える。チームメイトにどんなことを求め、彼自身に何を求めていたのかを考える」とレブロン。

 自分と同じように負けず嫌いで、勝つため、頂点に立つための努力を惜しまなかったコービーを思い、そのコービーのレガシーを受け継ぐ覚悟でシーズンを戦っている。

ファイナルがもつれた場合は……

 レイカーズがNBAファイナル進出を決めた試合後、レブロンは言っていた。

「個人的には、まだ仕事は終わっていない。このフランチャイズの一員として、本来あるべき場所、優勝を賭けての戦いの場に戻ることができたことをとても誇りに思っている」

 アメリカ時間10月4日現在、NBAファイナルは第3戦まで終わり、レイカーズは2勝1敗と、マイアミ・ヒートにリードしている。コービーの思いと共に目指してきた頂まであと2勝。もしシリーズがもつれた場合、第7戦で今季5度目の“ブラック・マンバ”ユニフォームを着て戦う予定だという。

文=宮地陽子

photograph by Kevin C. Cox/Getty Images