小型のアクションカメラ『GoPro』を頭につけ、ボールを持って相手に向かっていく。ドリブルの視野を映像で考察するためである。周囲の協力を得て、他の選手とも比較し、徹底的に検証した。

 なぜ、自分のドリブルは抜けるのか――。

 川崎フロンターレの三笘薫が、筑波大時代に取り組んだ卒業論文のテーマだ。Jリーグ史上5人目の新人二桁得点にあと1点と迫る23歳のドリブラーも、ほんの1年前はいまの大学4年生と同じようにレポートに追われていた。関東大学リーグの試合翌日、疲労が残っていても夜遅くまでパソコンに向かうこともあった。体育専門学群(体育学部)のサッカー研究室で、三笘の卒論指導をした小井土正亮監督はしみじみと振り返る。

「すごく真面目でしたね。テーマも自分で決めて持ってきましたから。ドリブルするときの視線が他の人とは違うという仮説を立て、グラウンドで実験し、一生懸命に検証していました。最後まで自分で考えるタイプで、すぐに『どうしたらいいですか』と聞きに来ることはなかったです」

「敵の体を動かせば、勝ち」

 検証の結果、パスを受ける前の視線に違いがあった。三笘はボールが来るぎりぎりまで目の前の相手とスペースを視野に入れ、ドリブルを開始してもほとんど下を向くことはない。巧みにボディフェイントを入れ、相手をよく見て仕掛けていく。筑波大時代に本人から真意を聞いたことがある。

「相手の重心をずらすことは意識しています。敵の体を動かすことができれば、勝ちですから」

 論文には抜けるドリブルのメカニズムが丁寧に書き込まれており、いまも筑波大の研究室に保管されている。有益な情報として後輩たちに受け継がれているが、中身以上に価値あるものも残したようだ。

スーツケースがぱんぱんになるほどに……

「プロで1年目から大活躍している、あの三笘も必死に勉学に励んでいた証拠のようなものです。学業を疎かにしない、いいお手本になっています」

 サッカーに向き合う姿勢はストイックそのものだった。大学時代から多角的な視点を持ち、成長にどこまでも貪欲。スポーツ科学の叡智が集まる筑波大の環境を存分に活用した。ひょろひょろとした体をたくましくするために、あらゆる努力を惜しまなかった。栄養学に基づく食事管理もそのひとつ。大学時代から公私ともに仲の良い川崎の現チームメイトである旗手怜央(当時順天堂大)は、全日本大学選抜の遠征で驚いたという。

「意識がめっちゃ高いなと思いました。遠征のときもスーツケースがぱんぱんになるくらい自分で食べ物を用意してきていましたから」

力を注いだ「スピードアップ」

 フィジカルトレーニングもしかり。体を大きくするために、闇雲に筋力アップに励んだわけではない。目的に合わせて専門家を訪ね、自分にとって必要な運動能力を向上させた。特に力を注いだのは、直線的なスピードアップ。大学のキャンパスを少し歩き、日本代表の原口元気(現ハノーファー/ドイツ)らも指導したシドニー、アテネ五輪で110mハードルの代表選手だった谷川聡准教授に走り方の教えを請うた。

 川崎のアカデミー時代から三笘のプレーを見てきた同クラブの向島建スカウトは、大学1年生の頃からその変化を感じ取っていた。

「大学ではパワーだけではなく、スピードが増しましたね。ユース時代から技術は相当高かったのですが、いまみたいにスピードを生かして抜いていくタイプではなかったので。動きがダイナミックになり、リーチをうまく使えるようになったかなと。持ち味のドリブルも威力が倍増しました」

「今も昔も本当に意志が強い」

 すべてはプロ1年目から活躍するための逆算。大学では相手を1人抜くだけでは満足しなかった。2人目、3人目をどのようにかわしていくのかを念頭に置いていた。常に自らにハードルを設けていたことを知る向島スカウトは、意識の高さに舌を巻くばかり。

「今も昔も本当に意志が強い。大学生の頃から明確な目標を持ち、自分に何が必要かを考えて努力しています。それを4年間やり続けていました。プロになってもそう。誰かに流されることがないし、自分の考えをしっかり持っています」

 芯がブレないからこそ、まっすぐに伸びているのだろう。向島スカウト、筑波大の小井土監督にあらためてプロでの活躍ぶりを聞くと、ドリブルで敵陣を切り裂いていく姿は想像できたという。

2人を驚かせた三笘のゴール数

 ただ、2人にとって想定以上だったこともある。

「こんなに点を取るとは思わなかったです」

 リーグ戦18試合、9得点。昨季、関東大学1部リーグでの成績は17試合、7得点。三笘をよく知る関係者たちが驚き入るのも無理はない。小井土監督は苦笑しながらも喜んでいた。

「再発見しました。大学では、三笘の良さを最大限に引き出せていなかったのかもしれません。大学時代は同じサイドでプレーしても、ゲームメークもすれば、ボールを運んだりもしていましたから。フロンターレでは仕事がより明確になったことで、本来持っていた力をより発揮しているんでしょうね」

“こんな面白いルーキーがいるんだ”

 リーグ終盤戦に向かって、背番号18へのマークは厳しさが増している。それでも、先にゴールが見えていればお構いなし。敵が2人で構えていても、ためらわずに勝負を挑む。貪欲に仕掛けていく姿を見ていると、1年前に西が丘サッカー場で聞いた言葉がふとよみがえった。

「試合に出続けて、2試合1ゴールくらいのペースで取りたいと思っています。日本中の人たちに『こんな面白いルーキーがいるんだ』と思われるようなプレーを見せたいですね」

 まさに有言実行である。どこまで驚き続ければ、いいのだろうか。残り少なくなってきたシーズンも、まだまだサプライズを期待したい。

文=杉園昌之

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