あのときと同じに見えた。

 3年半前、WBC準決勝・米国戦で筒香嘉智は1点を追う8回2死一、二塁で侍ジャパンの4番として打席に入った。下手投げのパット・ニシェックのスライダーを捉えた一打は右翼への逆転3点本塁打かと日本中を熱狂させた。だが、結果は右飛だった。

 10月14日(日本時間15日)のアストロズとのリーグ優勝決定シリーズ第4戦。6試合ぶりの先発メンバーに名を連ねた筒香に1点差の9回2死三塁の逆転機で打席が回ってきた。救援右腕ライアン・プレスリーが投じた1−2からの92マイル(約148キロ)のスライダーを強振。打った瞬間は逆転本塁打を期待させたが、打球は右翼手のグラブに収まった。

 ともに内容は間違いなく『クオリティ・アット・バット』。だが、結果は右飛であり凡打。敗戦のハイライト映像は繰り返し流された。勝負の世界に生き、ましてや短期決戦の大一番なのだから、内容は良かったなどと悠長なことばかりは言っていられない。それでも試合後、レイズのケビン・キャッシュ監督はこう言った。

「最後のアウトまでいい試合だった。ヨシはいい打席だった」

成績振るわない筒香を抜擢した理由

 第4戦を前に筒香のポストシーズンでの成績は8打数無安打。公式戦ではチーム最多の26四球を選んだが、その忍耐強さも影を潜めていた。ワイルドカード戦から11試合で先発出場はわずかに3試合。地区シリーズ4戦からは5戦連続で出場機会さえなかった。その中で指揮官はアストロズとの第4戦で久々にスターティング・ラインナップに筒香の名を入れた。

 相手先発は通算208勝、2009年にはサイ・ヤング賞に輝いたザック・グリンキー。昨今は直球の平均球速が90マイル(約145キロ)にも満たないが、絶妙な制球力とチェンジアップを駆使し、昨季まで12年連続で二桁勝利を挙げてきた。そのグリンキーに対し、キャッシュ監督は筒香起用の理由をこう話した。

「低めの変化球に対応するのが上手い」

 言い換えればこうともなる。

「高めの速球に対応するのが上手くない」

 事実、公式戦ではこんなデータもある。

<パワー投手>
24打数1安打、0本塁打、6四球、14三振、打率.042

<平均的な投手>
56打数18安打、4本塁打、9四球、19三振、打率.321

<技巧派投手>
77打数12安打、4本塁打、11四球、17三振、打率.156

 グリンキーは平均的投手というよりは技巧派である。パワー投手には程遠い。抜擢の理由はここにある。

 第4戦、結果的に筒香は4打数1安打に終わった。グリンキーには2打数無安打も3回の第1打席は86マイル(約138キロ)のチェンジアップを芯で捉えた遊ゴロだった。

 ポストシーズン初安打となった7回の投手強襲安打は右腕クリスチャン・ハビエルの95マイル(約153キロ)の高めの直球を打ち返したものだった。9回にプレスリーから放った右飛と合わせ、この日はパワー系に近いハビエル、平均的なプレスリー、技巧派のグリンキーと3タイプ全ての投手と対戦し、3度のクオリティ・アット・バットを示した事実は、残り少ないシーズンとは言え、明るい材料と言える。

筒香の凡打はいつも“紙一重”である

 冒頭にあげた2つの右飛は彼が持つ確かな技術を示しているものだと思っている。

 投手のボールの軌道に対し、バットが出てくる軌道がしっかりと重なり合う。センターのテレビカメラから見た場合、投球を線で捉える技術を持つ打者の共通項はインパクトの前からボールとバットが重なり合って見えることだ。これは長くテレビ局で野球担当の仕事をしてきた筆者自身の経験による感覚でもある。

 筒香の凡打はいつも紙一重。そして、課題も明白だ。

 9月19日、公式戦で放った最後の8号本塁打は、ボルチモア・オリオールズの右腕ホルヘ・ロペスの95.3マイル(153.37キロ)の直球を右翼へ豪快に運んだものだった。苦手としてきた95マイル超の高めの直球をメジャーで初めて捉えた一打だった。

 異例かつ特殊な短縮シーズンで、10月の最後まで誰よりも多く試合を経験できることは新人・筒香にとって大きな意味を持つだろう。経験を糧にかえ、パワー投手克服の道を切り開いて欲しい。

文=笹田幸嗣

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