「次は大晦日だと思っていた方も多いと思いますが」

 10月19日の記者会見、RIZIN FFの榊原信行CEOはそう切り出した。8月にぴあアリーナMMでの2連戦、9月27日にはさいたまスーパーアリーナで地上波生中継イベントを終えたばかりのRIZINだが、大阪大会のスクランブル開催を決めた。11月21日、会場は大阪城ホール。関西で最もポピュラーと言えるイベント会場が使用可能になったことから、予定外の開催を即決したという。

「予定調和ではなく、とにかく攻めていこうと」

ベルトを争うのは朝倉未来と斎藤裕

 もともと11月には「ナンバーシリーズとは違うセカンドラインの大会」を行なう予定だった。候補地は初進出となる仙台だ。大阪、仙台どちらにせよ“攻めの姿勢”であることは変わらない。今年は8月の活動再開までにコロナ禍で3大会をキャンセルしており「後半で巻き返しを」という狙いもある。

 クラウドファンディングによるファンからの支援に加え、9月大会からYogiboが冠スポンサーについたことも大きな力になった。大阪大会の後援には大阪観光局がついてもいる。

「東京からも日帰りできる時間帯の開催ですが、ぜひ大阪観光も。“GO TO RIZIN”で」(榊原)

 大阪でのスクランブル開催が可能になったもう一つの理由は“目玉カード”だ。19日の会見では、東京オリンピック出場を目指す現役テコンドー選手・江畑秀範のプロデビューなどとともにフェザー級初代王座決定戦もアナウンスされた。

テコンドー選手・江畑秀範(左)も会見に参加した (C)Norihiro Hashimoto

 ベルトを争うのは朝倉未来と斎藤裕。日本トップクラスの人気選手である未来の試合を組むことで、大阪でのビッグマッチが成立するというわけだ。

『THE OUTSIDER』で名を上げるとRIZINで7連勝、YouTuberとしても大成功を収めている未来にとって、これが今年2度目の試合となる。

「格闘家とYouTuberとしての活動は別物」

 8月大会は開催が発表されて早々にバックアップに回ると表明。ここでKO勝ちした斎藤との対戦機運が高まったが、9月も試合はなかった。昨年あたりから、未来は「いつ試合をするのか」ということまで含めて話題になっている。自身の存在が大きくなることで、自分にとってベストなタイミングで試合をする自由を手に入れたと言っていいだろう。

 今回の斎藤戦は、大晦日に予定されていたカードの“繰り上げ”実施だが、それは受け入れている。榊原によると、未来とはこれまで「若干ギクシャクするところもあった」そうだ。ただ、たとえば9月に「地上波の生中継があるからどうしても」といった強引なオファーをしなかったことで関係は良好に。以前は主催者側の意向で階級を上げ、ライト級でも試合をしていたが、今の未来は単なる“使われる立場”ではない。榊原は、未来についてこんなことも言っている。

「YouTuberとしての彼の価値をリングに持ち込んだら、もしかすると今よりファイトマネーは高いかもしれない」

 そうならないのは、未来が「格闘家とYouTuberとしての活動は別物」と一線を引いているからだ。リング上でもYouTubeでも戦略家だが、使う戦略はそれぞれで違う。そのどちらにも自信があるから「ここじゃない」と思えば試合を見送るし「ここだ」と思えば日程が繰り上がっても構わない。

「俺の相手じゃない」「競ってないでしょう」

 会見でも未来は泰然自若、落ち着いた口ぶりで強気なコメントを連発した。

「ずっと追い込んできたので、凄く強くなった俺を見せられると思います。タイトルマッチはまあ、7戦全勝なので当然かなと。(ベルトは)俺がふさわしいと思うので俺が獲りにいきます」

 対戦する斎藤のことは「率直に言うと俺の相手じゃない」と斬り捨てた。勝敗を分けるポイントはどこかと聞かれ、未来はこう答えている。

「勝敗を分けるというほど競(せ)ってないでしょう。圧倒的かどうかは分からないけど、競り合ってはいない」

(C)Norihiro Hashimoto

 このところ「練習は組み技が8割」だという未来。ストライカーのイメージが強いが、オールラウンダーとしての能力により磨きをかけている。曰く「(組む展開に)なった時に実感するんじゃないかと思います」。ただし「(その展開には)ならないと思いますけど」とも。つまり組む前に打撃で倒すということだ。

“兄弟王者”が誕生するかどうかは…

 弟の海は8月にバンタム級のベルトを巻いており、“兄弟王者”が誕生するかどうかも注目されそうだが、本人は意識していないという。

「それよりもベルトの価値を高めたいですね。今回、勝って得るベルトの価値はそんなに高くないと思うので。海外の強豪に勝ってベルトの価値を高めたい」

 決して斎藤のことをナメてかかっているわけではない。ただ状況を冷静に分析し、そのまま言葉にするとこうなる。リング上でもYouTubeでもない記者会見の舞台もまた“未来劇場”だった。

 さらに未来は「ケガがなければ大晦日も出て盛り上げたい」と語った。ここぞという時であれば連戦も厭わない。それが“格闘家・朝倉未来”のスタンスなのだろう。

外国勢の来日は“隔離期間”のケアが重要に

 その大晦日も“コロナ対応”がポイントになりそうだ。一つは収容上限5000人の解除。現在、RIZIN側は会場であるさいたまスーパーアリーナに、最大級の使用形式である「スタジアムバージョン」の半分、観客数1万8000人で交渉しているという。もしそれが不可能なら、12月30日、31日の2デイズ開催も視野に入れている。

 また年末には外国勢の来日も可能だと見込んでいるが、アメリカ在住の堀口恭司も含め2週間の“隔離期間”のケアも重要になる。単純に試合の2週間前に日本に来ればいいというわけではない。選手にとっては試合に向けた追い込み練習、減量と調整をするデリケートな期間だ。

 PCR検査の結果を受けて“隔離期間”を短縮することはできないか。あるいは開催条件を緩和できないか。RIZINは元プロレスラーの衆議院議員・馳浩や関係官庁との話し合いを持ったという。元総合格闘家、現参議院議員の須藤元気が立ち上げた「格闘技振興議員連盟」への期待も大きいと榊原。

 これまでがそうだったように、これからもしばらくは大会ごとに開催/観戦環境が変わっていくことになるだろう。選手は状況に左右されず実力を出し切ることが重要になる。そういう時期だからこそ、会見で見せた未来の落ち着きと自信がより深い印象を残したのだった。

文=橋本宗洋

photograph by Norihiro Hashimoto