「へえー、レブロンの時代はまるまるやってないんだ」

 30年来のニックスファン、スチャダラパーのBoseさんはちょっと驚いた様子でこちらが持参したNumber 519号を手に取った。Numberでは“直近”のNBA特集号。表紙はアレン・アイバーソンだ。

 それから約20年後の今季は、八村塁のドラフト&NBAデビューあり、『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』の配信あり、35歳になったレブロン4度目の優勝もあり、日本でもNBA熱が高まった。きっと、久しぶりにNBA観戦を再開した人も多かったに違いない……。

 最新のNumber1015号も八村塁&NBA特集号となった。そこで、NBA Rakutenの『俺達のNBA!!』でMCも務めるBoseさんに今昔の変化を聞いた。まずはゲームそのものが以前とはだいぶ違って見えるんですが?

ステフィン・カリーはNBAのイチロー

「もうめちゃくちゃ変わりましたよ。もちろんずっと変化はしていたけど、特に5年ほど前、ウォリアーズの黄金期から急激に変わりました。それまでは3Pシュートを多投するようなチームが勝てるわけがないと言われていたのが、今やビッグマンでも3Pを打てないと駄目な時代。ここ3年くらいで完全にそうなりました。

 世界を変えちゃったのはステフィン・カリーです。NBAのイチローだと思えばわかりやすくて、こんなの絶対に通用しないよって言われていた人が、通用するどころか競技の在り方を変えてしまった。小さくても、細くても良かったんだって。

 ウォリアーズはそのカリーを軸にして、機動力の高い選手を集めたスモールラインナップっていうのをやるんですけど、3Pシュートを多用してジョーダンの時代には考えられない1試合130点とか平気で取っちゃう」

楽しむための情報量がぜんぜん違います

 90年代末にルール変更があり、技術や戦術が変わり、選手も入れ替わり、とどめを刺すカリーの登場で、NBAのゲームのテンポはすっかり速くなっている。ローポストでの肉弾戦が見どころの1つだった時代とは別モノに見えるのも当然だろう。ただ、ユーイングモデルのスニーカーを履いたBoseさんは、そんなコート上の変化よりもさらに大きく変わった点があるという。

「楽しむための情報量がぜんぜん違いますよね。ほかのスポーツもそうだと思うけど、とくにNBAは選手たちがインスタやツイッターでどんどん発信していて、見え方がすごく多面的。あるシーンの裏側がどうだったとか、移籍のときにはどう考えていたとか、本人や向こうの解説者の話がタイムリーに見られる。普段の服とかクルマとか、なんなら彼女とか、プライベートも見えちゃう。

 そういうところまで選手を深く知っていると、スポーツってより楽しめるじゃないですか。

 もちろん、試合そのものも、いまは全員のスタッツも見ながら全試合を観られる。少ない情報から勝手に想像するしかなかった昔より、身近に感じられて面白いですよ」

ジョーダンは明らかにSNS時代には……

 今年4月、新型コロナ感染拡大でシーズンが止まった時期に公開された『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』は、まさに想像するしかなかった時代の王者を裏側から描いたものだ。これには、日本のオールドファンたち――88年に試合放送を開始したNHK-BSに食いつき、90年には米国外で初の公式戦サンズ対ジャズに歓喜!――もはまったはずだが、BoseさんはSNS時代のいまとの大きなギャップを感じたそうだ。

「例えばレブロンは、SNSで内面を知って見方が変わりました。かつてマイアミに移籍したときはすごく大仰なトレードで、かなりイメージダウンした。でも本人が発信していることを見てゆけば、やっぱりすごく良い人じゃんってよくわかる。逆にジョーダンなんて情報が限られていたから、当時はほぼ"神"でしたよね。だから『ラストダンス』を観て、えっ?? って。もちろんすごさも再確認できたけど、わがままだったり、子供っぽかったり。いまの感覚だと明らかにSNSに向いてない。めちゃくちゃ炎上するタイプでしょ(笑)」

 現在の選手たちが発信するのは、バスケや私生活の情報に留まらない。今年はブラックライブズマター運動の高まりもあり、選手が社会に対して強いメッセージを送ることが珍しくなかったという。

NBA選手はラップしがちじゃないですか

「NBAはブラックライブズマターのような社会の動きと切り離せないし、選手も影響力を持った存在と自覚して振る舞っています。6年前、レブロンはエリック・ガーナーさんが警官に殺されたときも、『I can't breathe』と記したTシャツをすぐに着ていた。声高に言わずとも、はっきりと意思を示したんです。

 それに昔からシャック(シャキール・オニール)とかアイバーソンとか、NBA選手はラップしがちじゃないですか。文化が近くて互いにリスペクトしてるから。最近だと、例えばデイミアン・リラードが本格的に活動していますが、今年の曲はこれまでになく強いメッセージがありました。

 いまやアスリートはしっかりした主張ができないと、ちょっと子供っぽくみえるかもしれない。大坂なおみさんのボイコットもそうで、アメリカではああいう行動は異端ではなくど真ん中。それをやってこそ、今のアスリートという印象です。日本にいるとNBAとBLMは遠いものと感じてしまうかもしれないけれど、まさに地続き。そうした背景も含めてNBAを見ると、レブロンの言葉の重みも変わってきます」

八村vsレブロン、カリーを見るだけでも

 コロナで長引いたシーズンは、レイカーズの優勝で10月に幕を閉じたばかり。さすがに来年にずれ込むと思われた新シーズン開幕が、12月22日に決定した。最後に、久々にNBAを観るような人におすすめの観戦方法ってあります?

「いまはどの試合でも観られるのでかえって迷うかもしれない。やっぱり優勝したレイカーズと復活するはずのウォリアーズを観るのがいいと思いますよ。そして八村くん。野茂(英雄)や中田(英寿)と同じですよ。多くの人は、野茂が投げてる試合でメジャーに親しんで、中田が出る試合でセリエAに詳しくなったでしょう。昔はただただ観るだけだったのが、八村くんという接点を持って楽しめるわけですからね。まずは八村くんを追いかけて、レブロンやカリーとの対戦を観るだけでもいまのNBAを十分に楽しめるはず。

 ちなみに、そのウォリアーズは、90年代にニックスで活躍したマーク・ジャクソンがヘッドコーチだった時にああいう戦い方を始めて、後を継いで結果を残したのがブルズにいたスティーブ・カー。二世選手もたくさんいて、カリーもそうだし、ティム・ハーダウェイJr.もいる。冗談でもいいからクロスオーバーやってくれ! って思うけど、そこは絶対やらない(笑)。昔を知ってる人は、そういう部分も楽しめますよ」

文=生島洋介

photograph by Kiichi Matsumoto