新しいシーズンは、新しい競争の始まりだ。

 昨季まで2シーズンの間、メンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約を交わしていた渡邊雄太は、このオフシーズンにフリーエージェントとなり、新しいチームを探していた。それも、ヨーロッパなどアメリカ以外の国でプレーすることは考えず、NBA一筋でオファーを待っていたという。

 そこに声をかけてきたのがトロント・ラプターズだった。

「今年に関してはNBAでやりたいという気持ちが強かった。結果としてトレーニングキャンプに参加する契約をもらったんですけれど、そこからスタートでも全然いいと思っていました」

「少し前から追いかけてきました」

 ラプターズのボビー・ウェブスターGMは、渡邊のことはジョージワシントン大でプレーしていたときからスカウティングしていたと語る。

「雄太のことは、私たちは少し前から追いかけてきました。ジョージワシントン大での4年間のプレーを見て、A10カンファレンスの最優秀ディフェンス賞も受賞していましたし、大学を出たときから気に入っていた選手でした。メンフィスに行ってからの2年間もスカウトし、追い続け、さらに、この夏にはLAでプレーを見る機会もありました。彼にはとても期待しています。トロント・ラプターズのNBAロスター枠を争うことになります。チームに入る可能性があると思っています」

 ウェブスターGMが言うように、渡邊はロサンゼルスで開催されたラプターズ主催のミニキャンプに招待され、そこでのプレーが認められたことで、トレーニングキャンプに招待された。

渡邊自身も理解している「下のほう」

 キャンプに招待されたといっても、ロスターに入る保証はない。20人招待されたうち、ロスターに入れるのは2ウェイ契約も含めて最大17人。渡邊は参加選手のなかでは最も立場が弱いノンギャランティの契約選手だ。渡邊自身も、そんな自分の立場は十分に理解している。

「自分の現状で言ったら、チームのなかで(の立場は)下のほうになる。だからといって、チャンスがないわけじゃないですし、ここでしっかりアピールできれば、この先も十分生き残っていけるとは思っている。ギャランティの選手とか、今ロスターにいる選手を蹴落としてでも自分が残りたいという気持ちは当然ありますし、そういうことをやっていかないと、この先、生き残っていけないと思う。そういう強い気持ちは常にもっていかないといけないなというふうには思っています」

2シーズン前の優勝を知るナースHC

 ラプターズは2シーズン前の優勝チームだ。当時の中心選手の半分は入れ替わっているが、それでも、オールスター選手のカイル・ラウリーやパスカル・シアカム、そしてヘッドコーチのニック・ナースなどが残っており、勝者のカルチャーは今もチームに脈打っている。渡邊自身、そういったところにもチームの魅力を感じているという。

 ナースHCは、彼自身、ヨーロッパのなかでもあまり強いとは言えないイギリスのプロリーグでのコーチからスタートし、マイナーリーグなどを転々としてラプターズのヘッドコーチまで上り詰めた人。チャンスをつかむために、色々なスタイルを勉強し、ラプターズのHCとしても時に奇抜な戦術も使ってくる。

ラプターズを率いるニック・ナースHC ©︎Getty Images

 特にディフェンス面では、様々なシステムを用い、相手や局面によって繰り出してくるのが特徴だ。それだけに、新しく入った選手にとっては、システムを覚えるのが大変なチームのひとつと言える。今季は特に、トレーニングキャンプの期間が短いため、ナースHCも新加入選手もディフェンス・システムの習得が懸案材料だと語っている。

「チームに新しく入ってきた選手が、どれだけ早くディフェンスを習得できるかというのは、いつでも気になっている。ディフェンスのカバレージのニュアンスや用語、戦術などを短期間で教えるために、追加練習が必要になるかもしれない」(ナースHC)

 この状況は、渡邊にとってはアドバンテージになり得る。

「対応力、適応力は自分自身、すごくあると思っている。新しいことを教えられても、すぐに覚えたりすることもできますし、そういった意味では楽しみですね」と自信をのぞかせる。

渡邊に残された「1」の枠

 ここからは、少し細かい話になるが、渡邊の立場を理解するために、ラプターズのキャンプに参加する20人の契約状況を説明しよう。

 20人のうち、今季の契約全額がギャランティされた選手が13人、部分的にギャランティされた選手が3人。渡邊を含めた残りの4人が契約ギャランティがない立場だ。

 ギャランティがない中で、今年のドラフト2巡目指名選手を含めた2人は、すでにラプターズと2ウェイ契約を交わしている。2ウェイ契約自体は入れ替えることもありえるのだが、とりあえず、彼らは2ウェイ契約のままだと仮定すると、本契約15選手に対して16人が全額または部分的なギャランティを持っていることになる。

 それでは、渡邊のロスター入りのチャンスはないと思うかもしれないが、部分的にギャランティされたうち、1人はその額が5万ドルと低い額であることから、立場的には渡邊らとほぼ同じと考えていい。さらには、全額ギャランティされている選手の1人、テレンス・デイビスは現在、婦女暴行罪等で起訴されており、リーグの調査や裁判の判決結果によっては、後日ロスターから外される可能性が十分にある。

 そうなった場合、本契約の枠が1つだけあくことになる。その1枠を争うのは、5万ドルのギャランティを持つヘンリー・エレンソン、ノンギャランティのアリゼ・ジョンソンと渡邊の3人というわけだ。

ナースHCが明かしたそれぞれの持ち味

 ナースHCは、トレーニングキャンプ初日の12月6日に行われたオンライン会見でロスター枠を争っている選手としてこの3人の名前をあげ、それぞれの持ち味を語っている。そのコメントから推察するに、3人のうち1人をロスターに入れることを検討しているようだ。

 ちなみに、ナースHCの渡邊評は「オールラウンドなタイプの、ポイントフォワードタイプの選手。ボールハンドリングができて、視野も広い。シュートもうまい。見かけより少しタフだ」だった。エレンソンのことは「ピック&ポップができるスキルを備えたビッグマン」、ジョンソンについては「運動能力があるエネルギッシュなスコアラー」と評している。それぞれ違うタイプの選手だけに、能力だけでなく、どのタイプの選手をベンチに置いておきたいかによって決まる可能性もある。

「1」に入れなかった場合は?

 開幕ロスターに入れなかった場合、渡邊は傘下のGリーグチーム、ラプターズ905でシーズンを迎えることになる。Gリーグがどういった形でシーズンを開催するかはまだ発表になっていないが、アトランタでバブル(感染予防策をとった隔離地域)を作って短期開催という案が有力だと伝えられている。ラプターズ球団社長のマサイ・ウジリは、「Gリーグがシーズンを開催するなら905は必ず参加する」と断言しており、渡邊が行き場を失うことはなさそうだ。もし905の選手としてGリーグで活躍すれば、ラプターズ以外のNBAチームからコールアップされる可能性も出てくる。

昨季はグリズリーズ傘下のGリーグ・メンフィス・ハッスルでプレーした ©︎Getty Images

開幕ロスター確定は21日

 普段はトロントを拠点とするラプターズだが、今シーズンはコロナ禍で国境を越えての活動が難しいため、フロリダ州のタンパに拠点をおき、アメリカ時間12月6日からトレーニングキャンプを始めた。この後、12日から3試合のプレシーズン試合を行い、21日、レギュラーシーズン開幕の前日に開幕ロスターが確定する。

「生き残りをかけて自分がどうやってアピールとかしていくのか、プレシーズンを通して日本の皆さんに見ていただけたらなと思っています」と渡邊。

 まずは、開幕ロスター入りを目指して、2週間の短期決戦が始まった。

文=宮地陽子

photograph by Getty Images