12月18日、トロント/タンパ・ラプターズでのプレシーズン試合最終戦が終わった直後、渡邊雄太はニック・ナースHCとボビー・ウェブスターGMから呼ばれ、今シーズンのラプターズのロスターに残ることを告げられた。キャンプ参加20人のうち、一番下のノンギャランティの契約という立場から、ロスター枠(本契約15人、2ウェイ契約2人で合計17人)を勝ち取ったのだ。
その枠を作るために、ラプターズは昨季からチームに所属し、30万ドルのギャランティ額(解雇しても支払うことが保証されている額)の契約をしていたオシェー・ブリセットをカットしている。渡邊にそれだけの価値があると判断してのことだ。
「素直に嬉しかったですし、チームメイトやスタッフも、みんな祝福してくれたので、本当にうれしかったです」と渡邊は後から語った。
昨年とは違う“2ウェイ契約”
チームから正式に発表されたのはその2日後。2ウェイ契約をしていたポール・ワトソンJrが本契約選手となり、空いた2ウェイ契約の枠に渡邊が入った。昨季までの2シーズン、メンフィス・グリズリーズに所属していたときと同じ2ウェイという契約形態だが、トレーニングキャンプからプレシーズンにかけて、自分の力を発揮して勝ち取った契約ということで違う達成感があった。
「去年の2ウェイ契約に関しては、シーズン中、この位置は僕じゃなくていいんじゃないかと思ったことも、正直何回もありました。練習でも(試合に出場する選手のスクリメージには)ほとんど混ざれていなかった状態でした。1年目(18-19シーズン)はその前のサマーリーグでいいプレーをしたことで(2ウェイ契約を)もらえたんですけれど、そのときに2年契約をもらったことで、去年はコーチも代わって、GMも代わったりして、僕のメンフィスのチームでの役割って本当に何なんだろうっていうのをすごく考えたシーズンではあったので。今回ラプターズで、プレシーズン通して2ウェイの契約を勝ち取れたというのは、去年とは全然内容が違う2ウェイだと思っています」
「今シーズンは楽しみでしかたない」
この2シーズンで、2ウェイ契約にはメリットだけでなく、デメリットがあることも理解している。
メリットはNBAのメンバーとして活動できることだけでなく、Gリーグでの経験をも積めること。特に今シーズンは、コロナ禍における例外ということで、NBAでの活動が日数制限(45日)ではなく全72試合中50試合という試合制限になり、シーズンの多くをNBAで過ごすことができるようになった。
一方で、昨季のようにどれだけGリーグで活躍しても、ほかのチームから呼ばれることはなく、所属しているチームの状況だけに左右されるというデメリットは今季も変わりない。
「でも、今回に関しては、本当にチームが僕を必要と思っていなかったら2ウェイだろうが何だろうが、契約をくれることは絶対になかったと思いますし、少なくとも、僕にすごく価値を見出してくれての2ウェイだと思う。しっかりとアピールできれば、今まで以上にチャンスは増えてくるんじゃないかなと思っているので、本当に今シーズンは楽しみでしかたないです」
ナースHCの言葉から感じる期待
ナースHCは、渡邊はトレーニングキャンプで毎日、調子が悪いことが一度もなく、ロスター枠を勝ち取るのにふさわしい選手だと証明してみせたと語った。
「トレーニングキャンプ中、彼はチームに入るのに値しないという日がなかった。毎日だ。調子が悪いことが一度もなかったんだ」
さらに、「(ロスターの)8番目以降は競争が激しい」「シーズン中に(渡邊が)力を見せる機会は必ずあるだろう」などとも言っている。確かに昨季とは状況が違いそうだ。
キャンプ中から、ナースHCが渡邊を好評価しているというのは、そのコメントの端々からもうかがえた。たとえば、プレシーズン初戦前に新加入選手のなかで誰を見てみたいと思うかと聞かれると、ナースHCはすでにロスター入りが確定している選手を数人挙げた後に、こう続けた。
「そのほかに、雄太も見るつもりだ。彼は興味深い選手だ」
『興味深い』という表現が気になったので、試合後にその意図を聞いてみた。すると、ナースHCの口からは称賛の言葉が次々と出てきた。
評価された「小さなこと」
「彼はオールラウンドな選手だ。とてもよくバスケットボールを教えられてきた選手で、どうプレーしたらいいかをよくわかっている。正しいことをやる。(キャンプが始まってからの)短い5日間で、私たちがシステムのなかで彼にどういうプレーをしてほしいかをよく学んでいる。
オフェンスを動かし続ける選手だ。必ずしもスコアラーとしてというわけではないけれど、ボールがまわるようにし続ける。ハードにカットする(ペイント内に切れ込む)し、フロアのスペースを整えることができる。
ディフェンス面ではハードワーカーだ。シュートに対するチャレンジや、ボールに対するプレッシャー、私たちのコンセプトやスキームをよく理解している。とてもいいユーティリティタイプの選手だ。私たちのシステムにおいて、そういったことは長所となる」
このコメントだけでも、ナースHCが渡邊の選手としての持ち味をよく理解し、その上で期待していることがわかる。試合全体を見ることができ、チームのゲームプランを理解し、スタッツに表れないような小さなプレーでも手を抜くことなく、その時々で常にチームにとって必要なプレーができるのが渡邊の長所なのだが、見る人によってはスタッツの物足りなさで片付けられてしまうことがある。しかし、ラプターズではコート上で渡邊がやっている「小さなこと」を評価している。

別のときに、アシスタントコーチのジャマ・マラレラも、渡邊についてこう語っていた。
「彼はシュートがとてもうまい。スタッツに出ている以上だ。一番重要なことは、彼はバスケットボールを正しいやり方でプレーしていることだ。私たちがやってほしいようなやり方でディフェンスしている」
「最低40%以上」と言い切る渡邊
もっとも、だからといってスタッツがどうでもいいわけではない。特に3Pシュートの成功率は重要だ。3Pシュートを決められない選手がいると、ディフェンスが下がって中を固められてしまい、フロアバランスが悪くなる。どれだけスタッツに表れないところでいいプレーができていても、必要な場面で3Pシュートを決められない選手はコーチとしては使いにくいというのは、この数年のNBAの常識になってきている。
渡邊も3Pシュートの重要性はよく理解しており、キャンプ前から「NBAに入るためには3Pシュートを最低40%以上決めなくてはいけない」と言っていた。これは、かなり高い基準だ。昨シーズンのNBAで、3Pシュートを規定数以上打ち、40%以上決めていたのは28人だけ。渡邊のGリーグでの3P成功率は2年前より昨季のほうが向上しているが、それでも36.4%だった。
それだけ高い基準にも関わらず、「最低40%」と言い切るところに、彼なりの自信と覚悟が感じられた。
昔から人一倍シュート練習をしてきたという自負。シュートを自分の武器にできないと、NBAという高いレベルに食い込むことはできないという覚悟。
「今、本当に自信を持って打てていると思いますし、チームのなかでほかの部分でも色々評価してもらえている分、より落ち着いてシュートが打てているところはあると思います。今シーズンは、今まで以上に高確率で決めていきたいですし、決めなければ自分がここの世界で生き残っていく道はないと思っています」
両親も手伝ってくれた早朝練習
NBAでの契約を勝ち取るために、昨シーズンが終わった後、渡邊はシュート練習に力を入れていた。一時帰国し、故郷香川に戻ったときには、父や母がシュート練習を手伝ってくれたという。コロナ禍で体育館を押さえるのも難しかったため、どうしても練習時間は早朝になる。それでも仕事前に体育館に行き、シュート練習を手伝ってくれたのだという。
「本当に、感謝しかないんですけれど、5時半とかにいっしょに起きてくれて、体育館にいっしょにいって。2人とも仕事前なんですけれど、僕のシューティングを手伝ってくれました」
渡邊にとって、子どもの頃に父と近所のゴールで早朝のシュート練習をしたことは、選手としての原体験でもある。NBA選手になってもそうやって両親と共に練習していると、子どもの頃を思い出すこともあったという。
「やっぱり昔からずっとやってくれていたことなんで、思い出しましたね。ただ、2人とも年も年なんで、今まで以上に身体は動いていないですし、目の前にきたボールとかも肩が上がらないとか言って取れなかったりするんですけれど(笑)、それでも文句も言わずに僕の練習にずっとひたすらつきあってくれる両親がいるっていうのは、本当にありがたいです。なので、2人のためにも今シーズン、よりシュートを決めたいと思っています」

契約形態だけ見ればこれまでと同じ2ウェイ契約だが、間違いなく進化し、メンタル的にもひとまわり強くなった渡邊雄太が、NBA3年目に挑む。
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文=宮地陽子
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