中日の新人が、1月9日にナゴヤ球場で合同自主トレをスタートさせた。その2日前には隣接する「昇竜館」に入寮。支配下6人、育成3人の中で、ひときわ注目度が高かったのはドラフト1位の高橋宏斗である。

 新型コロナの感染拡大により、春夏ともに甲子園は中止となったが、開催されていたら優勝候補の本命に中京大中京を推す声が多かったことだろう。そんな最強チームの中心にいたのがエースの高橋。高校の先輩である浅田真央がCMに出演している高級寝具を寮の自室に運び込んだ。

 最速154キロを誇る本格派右腕。地元で育った世代最強投手の1位指名を、中日はドラフト会議前には公表した。高橋自身が進学からプロに進路を切り替えたことに、スムーズに対応。ところが、球団の一部には異論があったとも聞いた。その理由は高橋の能力に疑問があったわけではなく、他の候補者がいいという類いの意見でもなかった。なんと「うちで育てられるのか?」という声だった。

 にわかには信じがたかったが、実際に調べてみると、なるほど……。高校からダイレクトで指名し、入団した投手が「育ってはいなかった」のである。わかりやすいのが「高卒投手の最新規定投球回数クリアシーズン」。高橋のように先発タイプなら、数年後には到達してほしい基準である。

「うちで育てられるのか?」は自虐でも暴論でもない

 2020年は千賀滉大(ソフトバンク)、山本由伸(オリックス)、高橋光成(西武)、涌井秀章(楽天)、西勇輝(阪神)がクリア。西や涌井のように移籍選手だと育成には当たらないので、生え抜きに絞って過去へとさかのぼっていく。DeNA(三浦大輔)とヤクルト(八木亮祐)の2013年で11球団が消えた。つまり、最後に残ったのが中日だった。

 さらに4年さかのぼって2009年の朝倉健太が、中日の高卒投手では最後の規定投球回数達成者。ちなみに球界が再編され、交流戦が導入された2005年以降、中日では朝倉の3度(2006、07)と昭和に入団した山本昌(2006)だけ。「うちで育てられるのか?」は、自虐でも暴論でもなかった。

かつての中日は高卒選手が支えるチームだった

 朝倉が入団したのが2000年。その翌年から今年の高橋(同期の4人含む)まで、34人の高卒投手(育成5人)が入団している。中には通算532試合に登板した高橋聡文や、現役で50試合登板以上のシーズンが4度ある岡田俊哉など、リリーフとして成功した選手はいる。先発でも規定投球回数こそ達していないが、2015年に10勝した若松駿太や開幕投手も務めた小笠原慎之介がいる。ただ、昨シーズン限りで戦力外通告した鈴木翔太(阪神に移籍)も将来を嘱望されたドラフト1位だった。総じて言えばやはり育てられてはいないという印象だ。

 しかし、かつての中日は屋台骨を高卒選手が支えるチームだった。エースの今中慎二、山本昌に捕手が中村武志、立浪和義、山崎武司と好打、強打のタレントがそろっていた。率いていたのは星野仙一。闘将と呼ばれた男は、選手に雷も拳骨も落としたが、次の日に必ず試合で使うことでも有名だった。

「胸を張って初勝利を飾れ!」

「僕以来、高卒の投手が育っていないんだとすれば、僕なんかは軽く超えていってもらいたいと思います。僕は(外れ1位だったので)河内(貴哉)に負けたくない一心でやっていました。3年目に勝つことができましたが、その前の年に星野監督から言われたことが今でも頭に残っています」

 最後の教え子ともいえる朝倉は、2002年にプロ初勝利から一気に11勝。だが、ブレイクにつながる「きっかけ」は、その前年、0勝5敗に終わった年のある試合だという。先発し、失点は重ねたが味方の援護に恵まれ、勝ち投手の権利はすぐそこに見えていた。ところが星野監督は投手交代。そして朝倉を呼んでこう言った。

「おまえ、こんな打たれた試合が初勝利でええのか? しっかり抑えて、胸を張って初勝利を飾れ!」

 非情ではなく愛情。その使い方を間違えては人は育たない。同じく闘将の薫陶を受け、沢村賞投手に羽ばたいた今中氏は、高橋の能力を高く評価している。その上で大きく育てるためのキーワードを2つ口にした。

「放置と外禁。特に高橋は地元だから」

未成熟な18歳を育てる“放置と外禁”とは

 放置とは指導者への戒めだ。高卒投手がなぜ育たないか。例えばストライクゾーンが違う。高校までは格下の同学年相手に、ワイドなゾーンで投げられた。ところがプロでは「ボール」と言われる。そこで四球を叱られると、いつしか強い球で打者を打ち取ることより、とにかくストライクを取ることが優先されるようになる。四球は容認、フォームも当面はいじらない。それが放置だ。

 外禁とはここでは外出というより外食の禁止。放置の逆に思えるが、これは周囲への戒めだ。日本ハムが大谷翔平や清宮幸太郎にそうしたように、寮を出ての会食を球団が制限、把握するのだ。休日の息抜きショッピングがダメだというのではない。中日のような老舗球団には、古くからのタニマチがいる。地域密着は悪いことではないが、あの人の誘いには応じて、この人は断るというわけにはいかない。地元のスター候補生ともなれば、先輩選手も後援者との会食に連れていこうとする。コロナ禍ではこうした席そのものが激減しているが、収束後はその反動で増えるだろう。全て断る。これは球団の方針だと言えば、角も立たない。大人扱いは愛情ではないということだ。

 18歳はアスリートとしても人間としても未成熟だ。過度な指導があれば消化しきれずパニックになるし、接待が続けば勘違いもする。根尾昂、石川昂弥と3年続いた地元の星。ごく近い将来「高橋がドラゴンズの高卒投手では2009年の朝倉以来、○年ぶりの規定投球回数に到達しました」というニュースが流れると信じたい。

文=小西斗真

photograph by Kyodo News