南野拓実は、悔しさを募らせたことだろう。

 イングランド伝統の過密スケジュールによる連戦が続いた年末年始、南野の出場機会は増えると思われていた。おりしも、クリスマス前に行われたクリスタルパレス戦(12月19日)でプレミア初ゴールを奪取。コンディションの良さを買われて起用されると見られたが、12月27日のウェストブロムウィッチ戦からの4試合で、南野の出場は1試合のみに終わった。

 ピッチに立った唯一の試合は、1月8日に行われたFA杯3回戦のアストンビラ戦。リーグ戦より優先順位の落ちるカップ戦で、先発のチャンスが与えられた。

 ユルゲン・クロップ監督は日本代表FWを4-3-3の左FWとして先発メンバーに組み込み、国内リーグ前半戦で2−7の惨敗を喫したアストンビラの対策を試合前から練っていた。ところが、アストンビラに新型コロナウイルスのクラスターが発生し、ディーン・スミス監督とファースチーム全員が自主隔離となるアクシデントに見舞われた。一時は試合延期も検討されたが、アストンビラが23歳以下の若手選手を送り出すことでどうにか開催にこぎつけた。

アシストしたものの味方が南野を生かせず

 結論から先に言えば、南野はこの試合で十分なアピールができなかった。後半17分の交代間際にアシストを記録したものの、内容としては「あまり効果的ではなかった」(英紙デーリー・ミラー)。

 アストンビラが平均年齢18歳294日という超若手チームで臨んだからか、84%のポゼッションを記録したリバプールは、ゴール前に近づくとアタッカー陣が半ば強引にシュートを打った。南野としては周囲との効果的な崩しからシュートチャンスを引き寄せたかったが、その前に味方がゴールを狙ってしまう。4−1で勝利したFA杯は、そんな一方的な試合だった。

 地元紙リバプール・エコーが「特に前半は存在感が希薄で、アピールできなかった」と日本代表に厳しい評価を下したように、どこか歯車が噛み合わない不完全燃焼の一戦となった。

 試合後、目についたのがスポーツサイトの『ジ・アスレティック』でリバプール番を務めるジェームズ・ピアース記者のコメントだった。同記者は次のように記した。

「南野の序列は、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネよりも下。だから、彼の出場機会は増えていない。だが、不名誉なことではない。南野はスカッド・プレーヤー(=バックアッパー)として、リバプールにやってきたのだから。ただし、南野がクリスタルパレス戦でリーグ初ゴールを決めた勢いを、リバプールが年末年始の試合で生かせなかったのは残念。2分1敗に終わったリーグ戦で、出番を与えられるべきだった」

ザルツブルク時代の恩師もポリバレント性を評価する

 似たような評価を下したのが、ザルツブルクでスポーツ・ディレクターを務めたラルフ・ラングニック氏である。「南野は非常に優秀な選手。イングランド代表のデル・アリ(トッテナム)やドイツ代表のカイ・ハバーツ(チェルシー)と同じように、攻撃的なポジションならどこでもこなせる」とポリバレントな能力を評価しつつ、リバプールでの立ち位置について次のように語った。

「チャンピオンズリーグ(CL)とプレミアリーグのビッグマッチで、リバプールの主力がフィットしていれば、おそらく南野はスタメンに入れない。サブとしては連れていけるだろう。下位チームとのリーグ戦やカップ戦なら、いつでもスタメンに入れる。リバプールにとって貴重なスカッド・プレーヤーだ」

やはり優先起用はサラー、マネ、フィルミーノ

 南野が籍を置くのは世界王者のリバプールである。チームのレベルがこれまでにないほど高いことも、選手層が分厚いことも、南野本人が一番よくわかっているだろう。

 だが2人の言葉は、現状を言い表している。

 実際、クリスタルパレス戦でゴールを決めた後も、クロップ監督の中では序列が上がっていない。その証拠にサラー、マネ、フィルミーノのレギュラー陣は、連戦による疲労の影響でパフォーマンスが見るからに低下していたが、それでもドイツ人指揮官はこの3人を優先的に起用した。

 攻撃陣の停滞が目立ったチームは、リーグ戦で2分1敗。そのうちの2試合は無得点で終わっただけに、南野としてもアピールしたい気持ちが強かったことだろう。

 だからこそスカッドメンバーの立ち位置から、いかに序列を引き上げていくか──。ここが、シーズン後半戦の最大のテーマになる。

 筆者が思い出したのは、レスター在籍時代の岡崎慎司である。

「個の力が化け物みたいな選手」の中で

 在籍1年目の2015-16シーズンに「奇跡のリーグ優勝」を成し遂げ、翌シーズンは欧州最高峰の舞台であるチャンピオンズリーグにも出場した。レスターでのキャリアは順風満帆に映ったかもしれないが、「個の力が化け物みたいな選手ばかり」(岡崎)というプレミアリーグにおいて、岡崎の試行錯誤は在籍4年の間ずっと続いた。

 レスターとリバプールでは当然、クラブと選手のレベルが大きく違い、一概に比較はできない。だが、ポジション争いに揉まれながら結果を残そうと奮闘した岡崎の戦いぶりは、プレミアリーグに挑戦する日本人選手にとって間違いなく大きな財産だ。

やるべきことを徹底して貫いた凄み

 岡崎の凄みは、自身の長所を客観的に捉え、やるべきことを徹底して貫いたことだ。チームにとって何が必要か、そして自分のアピールポイントはどこか。常に思考を張り巡らせながら4、5人のFWとポジションを争って結果を掴んできた。

 加入当初から誤算続きだった。入団時には、岡崎の獲得を決めたナイジェル・ピアソン監督が開幕直前に突如解任された。ドイツのマインツから動向を追い、レスターに必要な人材だと補強を決断したイングランド人指揮官がいなくなり、FWのポジション争いはゼロからのスタートになった。

「他にやっている選手がいない」ハードワーク

 当時のレスターには、スピードのジェイミー・バーディー(イングランド)、高さのレオナルド・ウジョア(アルゼンチン)、技のアンドレイ・クラマリッチ(クロアチア)、岡崎の合計4人のFWがいた。

 個の力ではライバルたちに勝てないと判断した日本代表は、「ほかにやっている選手がいなかったから」との理由で、ハードワークと前線からの守備でアピール。ディフェンスに重きを置くイタリア人のクラウディオ・ラニエリ新監督の信頼を掴み、開幕戦からレギュラーに抜擢された。

 だが、先発メンバーに名を連ねるようにもなっても、絶対的な立ち位置を築くことができなかった。自身のプレー内容に関係なく、チームの調子が悪いと真っ先に交代を命じられたのが岡崎だった。

 では、代えの利かない選手になるのはどうすればいいのか──。岡崎は攻撃面での危険なプレー、例えば、敵を背負った状態から強引に前を向くターンの練習を重ね、実戦でトライを続けた。

 また、ドイツのブンデスリーガに比べ、プレミアリーグの当たりの激しさは桁違いだったという。対処できるようにと、体のキレを失わないようにしつつ、上半身を中心に肉体改造を行った。

 その結果が、「奇跡のリーグ優勝」であり「CL準々決勝進出」だった。

クロップは「タキのカウンタープレス」を買っている

 振り返ると、ザルツブルク在籍時代の南野も、決して順風満帆ではなかった。特に3年目の16-17シーズンはベンチを温める試合もあり、絶対的な立ち位置を築けなかった。だが、最終的にレギュラーの座を奪い、後のリバプールへの移籍につなげた。

 これまでのところクロップ監督は、「タキ(南野)のカウンタープレスが素晴らしかった」「守備のリズムを作ってくれた」と語っているように、前線や中盤で守備のインテンシティが必要になった際に、南野を起用する傾向が強い。一方で追いかける展開になると、南野を差し置いて、他のアタッカーが真っ先に起用されている。そう考えると、得意のターンや積極的なプレーを増やし、攻撃面でのアピールを大きくしていきたい。

「チームでやっている以上、常にベストなものを目指す必要がある。僕の解釈だと、その答えはやっぱり結果なので」

 以前、南野は囲み取材でそう語っていた。結果を出すためには、ピッチに立たないことには始まらない。そのためには何が必要か。

 16日で26歳になった南野の挑戦は、これからも続いていく。

文=田嶋コウスケ

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