「これは避けられないことだった」

 ワシントン・ウィザーズのトミー・シェパードGMは、諦めの表情で語った。ウィザーズ6選手が新型コロナウイルス検査の結果で陽性と判明し、加えて3選手が濃厚接触者として隔離期間に入ったことを受けて行われた1月15日のオンライン会見でのことだ。

 始まりはその3日前。ウィザーズは、登録選手のうち八村塁とモー・バグナーの2選手が安全衛生プロトコル(NBAと選手会が定めた新型コロナウイルス対策の規定)によって、翌日の試合に出られない可能性があると発表した。ちなみに、安全衛生プロトコルによって試合に出られない理由は検査での陽性結果以外にも、検査結果判別不能の場合や、濃厚接触者などいくつかあり、この2人が対象となった理由は発表されていない。

 その後、チーム内の隔離対象選手が9人に増えたことで、1月18日までに計5試合の延期が発表になっている。隔離の9選手に加え、前十字靭帯の故障で今季全休が決まっているトーマス・ブライアントが試合に出場できないため、NBAの規定で試合を行うのに必要な最低人数(8選手)が揃えられないための措置だ。

コート上で起きたこと?

 シェパードGMが「避けられないこと」と言ったのには理由があった。何しろ、感謝祭やクリスマスの後、アメリカ中で感染者数が急増していた。NBAでも、毎週発表される感染者数は12月下旬の2回では合計2人だったのが、1月の最初の2回の発表では合計20人と増加。延期となる試合も増えたことを受けて、NBAも急きょプロトコルの強化を計ったほどだ。

 さらに、ウィザーズは年末からぎりぎりの綱渡りをしているような状態が続いていた。というのも、年末に対戦したシカゴ・ブルズに始まり、1月に入ってから対戦した3チームの中から対戦翌日に陽性の選手が出てくることが続いていたのだ。どの選手も試合当日の検査では陰性だったわけだが、だからといって、試合中に感染力がなかったと断定はできない。

 シェパードGMも、「逃げることができたとか、できないという表現はしたくないけれど、いつかは自分たちの番が来るというのは避けられないとわかっていた」と、対戦相手の中から陽性が出たことを心配していたと明かした。

 15日の時点では、コーチやスタッフなど、選手以外からは感染者は出ていなかったことから、選手は試合か練習中に感染した可能性が高いとシェパードGMは推測した。

「接触者の追跡はとても必要なことだけれど、と同時に、いつ、どこで感染するかわからないだけに難しいことでもある。ただ、選手の外には感染が広がっていないことを考えると、常識からしてコート上で起きたことではないだろうか」(シェパードGM)

昨季は“バブル”を作って成功したNBA

 昨シーズンは外の世界から隔離された“バブル”を作ってシーズン終盤とプレイオフを戦い、バブル内での感染者をひとりも出さなかったNBAだが、今シーズンはバブルや一ヵ所での集中開催はせずに、各ホームコートでの試合を行っている。バブル開催は感染の面では安全だが、家族と離れた中で長いシーズンを送ることは可能な限り避けたいというのが、関係者の一致した声だったのだ。

 今季も、感染者が増えないような対策はできる限り取っている。選手やコーチ、彼らと日常的に接するスタッフは毎日1回、試合の日は2回、検査を受けている。陽性者が出た場合、すぐに隔離されるのはもちろん、濃厚接触者も割り出して隔離する。そのために、選手やスタッフは試合以外の場ではトラッキングのデバイスの着用も義務付けられている。試合中の接触に関しては、パフォーマンスを測るために使われているトラッキングデータを活用して、選手間の接触時間を確認しているという。

現段階ではリーグ中断を考えてはいないが

 ただ、それだけの対策を取っていたのに、ウィザーズの中から一度に6人の感染者が出たことは気になる。感染者が出たのも、試合が延期になったのも、ウィザーズだけに起きていることではないが、これまでは隔離対象となった選手の大半が濃厚接触者で、1チームの選手が一度に6人感染判明するのは初めてのことだ。

 NBAでは試合中の濃厚接触者を、アメリカ疾病予防管理センターの定義に従い、6フィート(約183cm)以内に15分以上と定めているが、激しく動きまわり、激しく呼吸をする試合中での接触をふだんの生活と同じ定義で測ることに無理があるのかもしれない。感染力が高い変異種の影響もあるのかもしれない。ウィザーズの感染がすべてコート上での感染だったとすると、シーズンを中断する以外に感染を止める方法はなさそうだ。

 実際、毎日のように試合が延期されるなか、外野からはシーズンを中断したほうがいいのではないかとの声も出ている。現時点でNBAはシーズン中断を考えていないというが、専門家と相談しながら、必要なときには中断の判断をするリーグであることは昨季、どのリーグより先に中断の判断をしたことで証明している。

 シーズン前の会見で、コミッショナーのアダム・シルバーはこう言っていた。

「独立した感染例が起きる心構えはできている。プレシーズンや、バブル外で開催しているほかのリーグでの例を見ても、残念ながら感染者が出るのは避けられないと思う。様々な出来事に対して、準備ができている。

 ひとつ加えたいのは、シーズンを始めるというのは安全衛生と経済の両方を考えたうえでの判断だということだ。健康と安全はいつでも一番重要なことだけれど、と同時に、もしシーズンを始めなければ経済的な影響が大きい。直接のNBAコミュニティだけでなく、リーグに頼っている多くの仕事にも影響がある。

 しかし、シーズンを中断するかどうかを考えるときの決定木分析(ディシジョンツリー)は、安全衛生だけが基準となる。もし、ある時点でこれ以上プレーし続けることは責任ある行動とは言えないと考えたら、そのときはシーズンを中断する」

 果たして、その苦渋の判断をする必要がなくシーズンを最後まで戦うことができるのか。毎日変化する状況に日々対応しながら、NBAのシーズンは進められている。

※1月18日、ウィザーズの陽性選手は7人に増え、スタッフからも1人の感染者が出たと報じられた。

文=宮地陽子

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