牛タンが、お気に入りだそうですね?

「イエーース!」

 もう、この太陽みたいな笑顔を見ただけで、シマオ・マテがベガルタ仙台の仲間とファンから愛され、来日わずか2年目でキャプテンマークを託された理由がわかる気がする。

「ヨーロッパにいる頃から、日本食が大好きで。仙台に来てからは、いつでも日本食が食べられるからすごく嬉しいんです。牛タンは、初めて食べたときからすごくおいしかった。実はひと口食べた後に、『これは牛の舌なんだよ』と教えられて、2口目はちょっとだけ躊躇したんですけどね(笑)」

 モザンビークに生まれた守備の達人は、2007年に19歳でギリシャの名門パナシナイコスへ加入し、5シーズンを過ごした。そこで「日本に行くことが夢」とまで語るイタリア人妻と出会い、30歳で妻の夢を叶えた。

日本語で『待て』という意味らしいですね

 マテ。その名前と裏腹に、彼の最大の魅力は“待たない”ことだ。自分がマークする相手に、時間と空間を与えない。縦パスが送られれば、がつんと体を寄せて、ボールと敵の隙間に足を潜り込ませる。

 身長は180cm。センターバックとしては決して長身ではないが、空中戦でも判断に“待ち時間”はなし。ヘディング自慢のストライカーよりも一足先に落下地点を見極め、しなやかなジャンプでボールを頭にヒットさせる。

 このハードな守備を武器に、2019年にはJリーグ優秀選手賞を受賞した。

「マテは、wait。日本語で『待て』という意味らしいですね(笑)。私がこういう“待たない”守備スタイルになったのは、ヨーロッパに行ってからです。いつも相手を待ち構えているだけでは、良い守備はできない。自分からアクションを起こすことの大切さを、徹底的に教え込まれました。

 なぜならヨーロッパのストライカーは、僕よりも背が高い選手たちばかりです。特にズラタン・イブラヒモビッチ選手やクリスティアーノ・ロナウド選手とのマッチアップは、印象的でした。2人は高いうえに、強くて、速くて、うまい。彼らのような選手に対抗するためには何をすべきかを考え続けた結果が、現在のプレースタイルです」

レバンテ時代にクリスティアーノ・ロナウドとマッチアップするシマオ・マテ(2015年) ©︎Getty Images

 実はこのインタビュー取材は、2020年のJリーグ開幕直前に行われた。リーグ序盤のプレーぶりとともに、彼の考えを紹介するつもりだった。ところが、掲載は随分と“待つ”ことになった。新型コロナウイルスの流行により、リーグは開幕後すぐに中断。さらに6月10日、トレーニング中に右膝内側側副靭帯を損傷した。6日後に手術を受け、全治8週間と診断された。復帰後も、本来の体のキレを取り戻せず苦しみ、17位に沈んだチームをベンチから見つめる試合も多かった。

 慣れない国での自粛生活、そんな中で負った大ケガ。それでも、きっと彼は復活すると信じている。インタビュー時に、こんなエピソードを教えてくれたからだ。

「実は、私をギリシャに連れて行ってくれたのは、コロンビア代表監督(当時)のカルロス・ケイロスさんなんです。彼のおかげで、私はパナシナイコスに加入することができました。ところが移籍から4カ月ほどは、ほとんど試合に絡むことができず、出場できても終了間際の2、3分間でした。ある日、私はカルロスに電話をして『もう、家に帰りたい。試合に出られないから、帰りたいよ』と伝えたんです」

20年までコロンビア代表監督を務めていたケイロス。ポルトガル領東アフリカ(現在のモザンビーク)出身の名将だ ©︎Getty Images

 ケイロスは、落ち着いた声で聞き返した。

「本当に帰りたいのか?」

「はい」

「お前は、クリスティアーノ・ロナウドを知っているか?」

「はい」

「クリスティアーノがマンチェスター・ユナイテッドに移籍した当初は、3カ月が経ってもほとんど試合に出られなかった。それでも今、彼は世界ナンバーワンの選手になっている。もし、お前が本当に家に帰りたければ、帰ってもいい。ただし、世界のトップ選手は常に前を向いている」

 マンチェスター・ユナイテッドのコーチとして、実際にロナウドを指導した人物の言葉は、シマオ・マテの芯の部分を変えた。

「過去」よりも「未来」を見るべき

「あの言葉をもらって以来、家に帰りたいと思ったことは一度もありません。試合に出られなくても、いつかはチャンスが来ると信じるようになった。私が、あのメッセージから汲み取ったのは、過去を忘れて、常に前を向いているべきだということ。過去も大事ですけど、未来で、自分が得たいものに集中して、努力していきたい。ベガルタや、日本の若い選手たちにも、自分が将来どうなりたいかを想像して、それに向かって努力してほしいと思っています」

“待たず”に守るマテが待ちきれない

 20年12月28日、ベガルタ仙台はマテと契約延長したことを発表した。

「来シーズンもベガルタ仙台の一員として、プレーすることとなりました。私はこの特別なクラブ、ユニフォームのために全力を尽くします。ファン、サポーターみなさんの存在はとても重要であり、勝利するためには必要不可欠です。来年もタフなシーズンになる事が予想されますが、選手、スタッフ、サポーター、クラブに携わるすべての人力を合わせればどんな困難も乗り越えられるはずです。また共に戦いましょう。それでは良いお年をお迎えください。カニマンボ」

 カニマンボは、モザンビークの現地語で“ありがとう”の意味。昨年の取材時、彼はインタビューの最後にこう言っていた。

「できることなら、ずっと仙台でプレーしたい」

 この言葉は嘘じゃなかった。“待たず”に守るマテ。彼が最高のコンディションでプレーする姿を見る日が、待ちきれない。

手倉森新監督のもと新たなスタートを切るベガルタ仙台。守備の要としてマテへの期待は大きい ©︎J.LEAGUE

文=松本宣昭

photograph by Kiichi Matsumoto