巨大な金額にはもはや驚かされないが、驚かされたのは期間の長さだ。

 パドレスが、フェルナンド・タティースJr.との契約を延長した。新たに結ばれたのは2021年から34年までの14年契約で、総額が3億4000万ドル。総額でいうと、マイク・トラウト(エンジェルス)の12年総額4億2600万ドルや、ムーキー・ベッツ(ドジャース)の12年総額3億6500万ドル(12年)には及ばないが、延長された契約の総額としては史上3位だ。

 しかも、期間が史上最長である。

 これまでの最長記録は、ジャンカルロ・スタントン(当時マーリンズ。18年からはヤンキースに移籍)が2014年11月に結んだ13年総額3億2500万ドルという契約(2015〜27年)だった。FAまで含めると、ブライス・ハーパーもフィリーズと13年総額3億3000万ドルという契約を結んでいる。

 あとは、最初に触れたトラウトとベッツぐらいで、かつては10年を超える長期大型契約はさほど眼にしなかった。1980年、FAのデイヴ・ウィンフィールドがヤンキースと10年契約を結んだときは話題をさらったが、それでも総額は2330万ドルだった。

 契約総額が3億ドルを超えた野手は、いま挙げた選手以外では、マニー・マチャド(パドレス)しか見当たらない(投手ではゲリット・コールがいる。ヤンキースとの契約は9年総額3億2400万ドル)。マチャドは、19年から28年までの10年総額が3億ドルちょうど。あのアレックス・ロドリゲスが07年にヤンキースと契約を延長した際の条件は、10年総額2億7500万ドルだった。アルバート・プーホルス(エンジェルス。12〜21年)やミゲル・カブレラ(タイガース。14〜15年+16〜23年)といった大打者でさえ、実質10年契約の総額は3億ドルを超えない。これは、契約当時の年俸相場や貨幣価値のせいもあるのだが。

プレー期間わずか2年の大型契約に不安はないか

 もうひとつ注目すべきは、タティースの若さである。1999年1月生まれだから、彼は22歳になったばかりだ。通常、長期の契約更新が提示されるのは、25〜27歳の間が多い。トラウトやスタントンがそうだし、2001年のAロッド(当時レンジャーズ。契約は10年総額2億5200万ドル。当時は世界中が仰天した。21世紀の大型契約はここからはじまったといえる)もそうだった。いわでものことだが、大体は38〜40歳という年齢を終着駅に設定している。

 それにひきかえ、タティースは14年経ってもまだ36歳だ。先のことなどわからないとはいえ、大過なく現役生活を送れば、まだまだ第一線で活躍できる年齢だろう。

 むしろ問題は、19年にデビューして以来、2年間で143試合にしか出場していないというキャリアの浅さではないか。

 これはたしかに不安材料のひとつだ。野球史研究家のなかには、1970年代後半、当時としては異例の10年契約を結びながら大成することなく消えていった選手の例を持ち出す向きもある。

 具体的にいうと、ウェイン・ガーランドやリチー・ジスクのケースだ。

 50年生まれのガーランド投手は、76年のオリオールズで20勝をあげ、生まれたばかりのFA制度を利用して、インディアンスと10年総額230万ドルの契約を結んだ。史上初の10年契約と騒がれたのだが、その後の彼は不振だった。77年から81年までの5年間で99試合にしか登板できず、28勝48敗、防御率4.50の成績に終わっているのだ(引退後も年俸は支払われつづけた)。

 ジスク外野手(49年生まれ)も、いまひとつ伸びなかった。77年、ホワイトソックスで2割9分、30本塁打の活躍を見せた彼は、やはりFA制度を利用してレンジャーズと10年総額275万ドルの契約を結んだ。だが3年後、レンジャーズは彼をマリナーズにトレードした。現役最後のシーズンは83年。6年間の通算成績は2割7分7厘、108本塁打。悪くはないが、やや期待外れの結果に終わっている。年俸は87年まで払われつづけた。

超大型契約に根拠あり

 こういう例を引いてパドレスの決断を早すぎると見る向きもあるようだが、これはタティースの潜在能力に対する過小評価だろう。華やかなスター性や鼻っ柱の強さばかりが報道されるが、タティースは典型的な5ツール・プレイヤーだ。走攻守の三拍子に加えて、長打力や肩の強さが傑出している。

19年は2度の故障で84試合出場にとどまるも、20年は60試合中59試合に出場。いまや不動の遊撃手だ ©Getty Images

 2年間通算のスタッツを見ても、打率3割1厘、出塁率3割7分4厘、長打率5割8分2厘、本塁打39本、打点98、盗塁27という数字が並んでいる。難点は三振数(171)のやや多いことだが、これはフルスウィングする打者の宿命だろう。時代の趨勢なのか、スタントンやハーパーも驚くような三振数を記録している。例外はトラウトで、20代初めは三振が非常に多かったのだが、この弱点を徐々に修正していった。タティースは、どちらの道を歩むのだろうか。

 逆の角度から注目したいのは、パドレス側の姿勢だ。マチャドに対する未払い額とタティースへの支払い額を合わせると、合計は5億7000万ドルを超える。大盤振舞いといえばそれまでだが、長期的なチーム強化プランがなければ、この数字は出てこない。

 近い将来、ディネルソン・ラメットやマイク・クレヴィンジャーが投手陣の柱となり(ダルビッシュ有やブレイク・スネルも、まだまだ衰えないはずだ)、タティースがかつてのトニー・グウィン(ヤンキースでいえばデレク・ジーター)のような位置を占めれば、パドレスは相当に強力なチームになりうる。ギャンブルの要素がないとはいわないが、今後のパドレスが期待を抱かせてくれることはまちがいないようだ。

文=芝山幹郎

photograph by Getty Images