3月早々に飛び込んできた、巨人・田口麗斗(投手)とヤクルト・廣岡大志(内野手)のトレードには驚かされた。

 田口は2016、17年に先発として10勝10敗、13勝4敗を挙げ、先発投手としての地位を確保。19年の国際大会「WBSCプレミア12」では初めてジャパンのユニフォームを着て3試合にリリーフ登板、無失点に抑えているなど先発、リリーフともに実績はある。

 一方の廣岡といえば、過去5年間の通算成績は236試合に出場して安打101、本塁打21、打点54、打率.214。これまでのキャリアハイは19年の打率.203、安打41、本塁打10、打点25。このときは「翌年の一軍定着」を予感させたが、その20年は試合数の減少(前年143試合→120試合)があったとしても、打率.215、安打26、本塁打8、打点15と下降線を描いてしまった。智弁学園高校の1学年先輩である岡本和真(巨人)と同じ長距離打者の素質が見込まれていただけに、覚醒を期待したヤクルトファンには物足りなかっただろう。

 この廣岡と田口の“不釣り合い”にも見えるトレードの真意はどこにあるのか。巨人の思惑を中心に考えてみた。

ソフトバンクにあって、巨人になかったもの

 巨人が昨年オフ、セ・リーグに指名打者制度を導入しようと理事会に再三働きかけたことはよく知られている。2年続けて日本シリーズで4連敗を喫した原辰徳監督の頭の中にあるのは打倒ソフトバンクへの執念である。指名打者制度のもとで公式戦を戦うことでリーグ全体のレベルアップを目指し、来るべき日本シリーズでソフトバンクを叩く――。田口を放出してまで廣岡を獲得した意図は、私にはそれしか考えられない。

 今季の巨人スターティングメンバーを見てみたい。助っ人外国人勢が不透明な状況下とはいえ、有力視されている顔ぶれは、捕手=大城卓三*、一塁手=スモーク+、二塁手=吉川尚輝*、三塁手=岡本和真、遊撃手=坂本勇人、左翼手=テームズ*、中堅手=丸佳浩*、右翼手=梶谷隆幸*(名前横の*は左打ち、+は両打ち)。8人中6人が左打ち(うち両打ちが1人)で、少しアンバランスなことがひと目でわかる。

 もし指名打者制度が導入されたら、ここに入るのは実績で見れば亀井善行、あるいはテームズを指名打者に置き、空いた左翼に松原聖弥を入れる形か。注目を集める“2m”ルーキーの秋広優人も含めたとしても、スタメンには左打者6人が並ぶことになる。

 巨人のライバル、ソフトバンクはというと、捕手=甲斐拓也、一塁手=中村晃*、二塁手=周東佑京*、三塁手=松田宣浩、遊撃手=牧原大成*、左翼手=グラシアル、中堅手=柳田悠岐*、右翼手=栗原陵矢*、指名打者=デスパイネという布陣。右打者4人、左打者5人という好バランスで、牧原の代わりに今宮健太が入れば右5、左4になる。

好打者が左右バランス良く並ぶソフトバンク打線 (c)Hideki Sugiyama

 昨季のウィーラー獲得も然り、先発要員の田口を放出してまで右の強打者を欲しかったのは、左打者の偏重が目立つ打線のアンバランスさを正そうとする先を見据えた狙いがうかがえる。

トレードを用いてドラフト結果を調整?

 ドラフトの視点でも考えてみよう。現在の巨人にいるFAやトレードでの移籍加入組(日本人選手に限る)は、廣岡以外にも中島宏之、陽岱鋼、炭谷銀仁朗、梶谷、丸、立岡宗一郎、石川慎吾、香月一也がいる。彼らはすベて高卒野手だ。同じ条件で投手を見ると、6人のうち、4人が大学卒または社会人出身だった。私にはパ・リーグの基盤を作ったと言える積極的な高卒野手の指名に、巨人はトレードを用いて近づけようとしているようにも見えるのだ。

「岡本以上」の声もあった高校時代

 廣岡のセールスポイントは長打力である。入団時には「岡本(和真)以上」「将来のクリーンアップ候補」という評価がよく聞かれたが、私は時間がかかると見ていた。

 確かに甲子園での数字を見れば、その評価は的外れではない。14年春のセンバツ大会1回戦の三重高戦では3番・岡本のあとの4番に座り、好左腕の今井重太朗からヒットを放ち、2回戦の佐野日大高戦では1番に座って大会ナンバーワン左腕・田嶋大樹(現・オリックス)から第3打席でセンター越えの二塁打を記録。同年夏の甲子園大会1回戦では大会屈指の好投手・岸潤一郎(明徳義塾高校、現・西武外野手)から9回表にレフトへソロホームランを放った。

智弁学園時代の廣岡。3年夏は県予選2回戦で強豪・天理に敗れたが、その才能を評価され、ヤクルトにドラフト2位指名された ©Sankei Shimbun

 だが、16年版の『プロ野球 問題だらけの12球団』(草思社刊)では、こんな寸評を記させてもらった。

「少し前に流行ったバッティング理論なら『遠心力を用いて』と表現したいところである。大きいフォロースルーに特徴があり、ミートポイントは投手寄り。捕手寄りでボールを捉え、押し込んで右中間方向に大きい打球を飛ばす岡本とは真逆のバッティングスタイルと言っていいだろう」

 左右両方向に打てる岡本に対して廣岡はレフト方向一本やり。また、岡本がボールに向かってバットのヘッドが最短距離で出て行くのに対して、廣岡はボールの行方を探るようにヘッドが蛇行して向かっている、そんなふうに見えた。

対応力が優れていた高校生・岡本和真

 廣岡は田嶋との対戦では第3打席の二塁打以外、3本が三塁ゴロ、1本が遊撃ゴロという内容。一方、岡本は試合前に「真っ直ぐで押してくる」との監督の助言に沿って備えていたが、試合では案に相違してスライダー中心で攻められた。岡本はそこで試合中に修正した。

「2、3打席目は立ち位置を変えて、ここだったらスライダー当たるかな、ここだったら当たらないかなと前や後ろに立って確かめて、第4打席は前に立って『もうこれで打てるな』と思った」(巨人入団直後の本人談)

 修正した岡本は4打席目で内野安打を記録。学年が1つ下ということもあるが、当時の廣岡は岡本の安定感や対応力という面で少し見劣りしていたのだ。

先輩・岡本との再会、内川聖一という先例

 ただ、前述したように甲子園で評判を取った今井や岸、そしてプロで実績を残しつつある田嶋から長打を打っている素材は申し分ない。巨人へ移籍したことで、先輩・岡本とのプレーから何かを感じ取り、一気にブレイクする可能性も大いに秘めているバッターだ。

 それではこれまで一軍と二軍を行き来していた廣岡が今後、巨人で一軍に定着することができるだろうか。

 私が一軍定着の目安にする野手の数字の1つに「シーズン100安打」がある。セ・リーグの主な高卒野手では坂本勇人(巨人)、村上宗隆(ヤクルト)の2年目の到達が最も速いが、前述の通り、廣岡は19年に記録した「41」が最高である。

 ただ、内川聖一(ヤクルト)の6年目、高橋周平の(中日)7年目、梶谷隆幸(巨人)、平田良介(中日)の8年目のような遅咲きの例も少なくない。さらに、通算2171安打を放っている内川に至っては、満25歳までに放った安打は414本だけで、26歳以降に1757安打しているのである。今季6年目、24歳を迎える廣岡(現時点での通算安打数は101)にとっては勇気づけられる先例だろう。

11年ソフトバンク加入以降も着実に安打を積み重ねてきた内川。今季からヤクルトへ加入した ©Hideki Sugiyama

 高校時代から持ち越しているボールを迎えに行く悪癖をどう矯正していくのか。自分の間(ま)でボールを待つことができるかどうか、それが今後の廣岡の野球人生を左右することは間違いない。

文=小関順二

photograph by Sankei Shimbun