それは2月半ば、ワシントン・ウィザーズがニューヨーク・ニックスに敗れた翌日のことだった。

 この時点でウィザーズの成績は6勝17敗でイースタン・カンファレンス最下位。プレイオフ進出を目標にシーズンをスタートしたチームにとって予想外の低迷だった。途中、新型コロナウイルス感染でチームの活動が中断した影響があったとはいえ、全員がラインナップに戻っても勝利につながらないことに、チーム内外には危機感が漂い始めていた。巷では、ヘッドコーチのスコット・ブルックスの声が選手に届かなくなったのではないか、そろそろ首も危ないのではないかと噂されるようになったほどだ。

 そんな中、チーム練習前のミーティングで、ベテラン・リーダーのひとり、ラッセル・ウェストブルックが若いチームメイトたちに、「それぞれ、このチームでの自分の役割が何なのかを話してみろ」と言った。それぞれがやるべきことを自覚し、チームメイトと共有することで、責任意識を強くするというのが狙いだったようだ。

若手選手に自らの役割の説明を求めたウェストブルック (c)Getty Images

「1番から5番まで守れるのは塁、お前だけだ」

 ウェストブルックの問いかけに対して、八村は「自分はディフェンスで1番(ポイントガード)から5番(センター)までを守ることと、オフェンスで積極的に行くこと」と答えた。

 特に新しいことを宣言したわけではなかった。八村自身も以前から幾度となく、「自分はガードもビッグマンも守れる」と言ってきていた。大学のときも、ガードの選手が相手でも守れるとコーチから認められ、そのことを意識するようになっていた。

 しかし、口でそう言うことと、実際に試合でやることは別物だ。その素質があることと、NBAの試合で求められるレベルで毎試合やってみせることもまったく別物だ。だから、この八村の言葉に対してウェストブルックやブラッドリー・ビールらベテラン選手は「そう言うなら、そのディフェンスをコートの上で見せてみろ」と八村にチャレンジした。八村にできるかどうか疑問に思っていたわけではなく、できると信じているからこそのチャレンジだった。実際、ウェストブルックはシーズン序盤にも八村に対して、「このチームで1番から5番まで守れるのは塁、お前だけだ」とハッパをかけていたのだ。

 宣言し、それに対して挑まれた八村は、責任の大きさを感じていた。

「僕も言ったからにはやらないといけないですし、チームとしても、僕のディフェンスがどれだけ必要か、チームのディフェンスにとって僕が鍵になっていると言われている。そういうプレッシャー、逆に言ってみればチームから大事な役割をやるように言われているのは本当に光栄なこと」

好調の要因に挙げられた八村のディフェンス

 このミーティングの後から、明らかにチームの流れが変わった。ホームで3連勝した後、西地区遠征に出て4試合中3試合に勝利。しかも、西地区の上位を争うポートランド・トレイルブレイザーズ、ロサンゼルス・レイカーズ、デンバー・ナゲッツ相手に勝利し、敗れたロサンゼルス・クリッパーズには、ホームに戻った後の試合で勝利をあげている。

 好調のなかで、注目されたことのひとつが八村のディフェンスだった。

 たとえば2月20日、西地区遠征初戦のブレイザーズ戦に118対111で勝利した後、ブルックスHCは試合後のロッカールームで、八村のディフェンスを称賛した。

「塁、きょうの君はディファレンスメイカー(違いを作り出す選手)だった。この2週間、ディファレンスメーカーだった。1番から5番まで守っていた。君は1番から5番まで守れるんだ。この調子で頑張れ」

 実際、この試合で八村はスイッチでオールスター・ガードのデイミアン・リラードを守り、八村が守っている間にリラードはフィールドゴール4本を打ったものの、1本も決められなかった。

リラードのシュートを防ぐ八村 (c)Getty Images

レブロン・ジェームズとのマッチアップ

 その次の試合、西地区遠征2試合目で八村が担当したのは、リーグMVP候補のレブロン・ジェームズ。力強さ、サイズ、クイックネスを兼ね備えたジェームズにマッチアップできる選手はリーグ中でもあまり多くない。ウィザーズのなかでは八村が最も適任という判断だ。

 ジェームズは、2年目の八村の実力を測るかのように、ローポストから力で押し込んでみたり、トップからドライブインを仕掛けていた。ジェームズは試合を通して31点、13アシストをあげたものの、8つのターンオーバーを犯しており、そのうちの1つはオーバータイムの勝負どころで八村とダービス・ベルターンズがダブルチームでプレッシャーをかけたときのものだった。結局、試合はオーバータイムの末にウィザーズが勝って、5連勝目をあげた。

 この試合後、ブルックスHCはまた八村のディフェンスを称賛した。

「塁は私たちのディフェンスが向上した大きな理由だ」とブルックスHC。

「どんなチームでも色々なスタイルの選手にスイッチして守ることができる選手がいる。ビッグマンだけでなく、3ポイントシューターだけでなく、ドライブする選手だけでなく。塁はそれができる選手だ」

レブロン(右)からターンオーバーを奪うなど、勝利に貢献 (c)Getty Images

もちろん、まだうまくいくことばかりではない。

 もちろん、まだうまくいくことばかりではない。

 2月17日、ホームでのナゲッツ戦では残り5.9秒、3点リードの場面に、シュート力があるガードのジャマール・マレーをマークしていたが、ハーフコート近く、ゴールから遠い位置にいたからと、間を詰めずに3ポイントシュートを楽に打たれて同点に追いつかれた。その後、ビールが相手のファウルを誘い、フリースローを決めて勝利したことで勝敗に関わるミスにならなかったが、「あそこはもっと間を詰めるべきだった」と後からブルックスHCに指摘されている。

 翌日、そのことについて聞かれた八村は言った。

「チームとしては、彼にレイアップをさせるような守り方をするプランだったけれど、遠くにいたので近づくことをしなかった。そしたら(センターサークルの)ロゴから打たれて決められてしまった。

 最近はガードの選手はロゴから打ってくる。僕からすると難しいシュートのように思えるけれど、彼らにとって、特にああいう状況では簡単なシュートだ。抜かれることを考えて、近づけなかったけれど、あの後コーチとも話して、そういった状況には間違いなくアジャストしていかなくてはいけないと思っている」

 こうやって実戦のなかで経験することで、八村は1番から5番まで守る責任がどんなことなのかを、身をもって学んでいる。

「1番から5番まで守るというのは難しいことだ」とブルックスHCは言う。

「1番から5番まで守るということは、自分がマークしている選手のことだけでなく、コートにいるほかの4人の選手の特徴も把握していなくてはいけない。それを、ゲームのスピードの中で見て、反応し、吸収し、実際に実行しなくてはいけない。彼は、それを見始めているんだ。それはすごいことだ」

 シーズンの序盤、ウェストブルックらが、個々の選手が自分の役割に責任を持つことの大事さを繰り返し語っていたとき、八村はこう言っていた。

「ラッセルが入って、チームもオールスタープレイヤーが2人いるということで、僕らも若い選手が多いチームなのでまだ学んでいるところはいっぱいあるんですけれど、その中で、自分の仕事を見つけて、自分でしっかりやるっていうことは大事じゃないかなと思います」

ディフェンスで着実に評価を得る八村 (c)Getty Images

 NBA2シーズン目も、折り返し地点を迎えた。八村は今、自分がやるべき大きな仕事を見つけ、チームのためにその役割を責任もって果たせるような選手になるために、日々努力を続けている。

文=宮地陽子

photograph by Getty Images