京都ハンナリーズは昨オフに、bjリーグ時代から9シーズンにわたって指揮を執った浜口炎前ヘッドコーチ(HC)が辞任。後任として今季は、これが初めてのHC職となる小川伸也がタクトを振っている。この指揮官の交代と歩みを合わせて、チーム編成の方向性にも変化が表れた。

 これまで京都の日本人選手は実績あるベテランが中心だったが、今季は若手主体へとシフトチェンジ。しかもロスターには寺嶋良、久保田義章、細川一輝、大庭岳輝と、大卒1年目の新人が4人も名を連ねている。彼らは全員1997年生まれ。現在NBAのワシントン・ウィザーズで活躍する八村塁と同学年の、いわゆる“八村世代”だ。昨季途中に特別指定選手として細川は群馬クレインサンダーズに、寺嶋は東海大学在学中の19年暮れに、ほかの2人は20年から京都に加入しているが、実質的には4人とも今季がルーキーイヤー。にも関わらず寺嶋と細川はスターター、久保田もセカンドユニットの一番手と、主力として起用されている。

若手の力を核として、チームを刷新する京都

 就任時に「京都ハンナリーズのアイデンティティを築く」と宣言した37歳の若き指揮官は、京都の新しい時代を作るにあたって、彼ら4人が核になるべき存在と期待を寄せる。なかでもポイントガード(PG)は経験が必要とされるポジションながら、寺嶋は1試合平均20分あまり、久保田は同10分あまり起用されている。彼らが得たプレータイムは、ベンチからの信頼の証左である。

現役時代は滋賀レイクスターズでプレー、15年に引退後も滋賀でコーチを務めていた小川。今季から京都のHCに就任 ©B.LEAGUE

 寺嶋はタテへの突破力に加え得点力もあり、一方の久保田はコートの横幅を広く使うプレーメイカーと、PGとしてそれぞれに異なる個性を持つ。とはいえふたりは若く、経験が浅い。彼らにとってシーズン序盤は、開幕4連敗を喫したチームと同じく苦難の船出だった。寺嶋は開幕戦の20得点をはじめ、開幕から4戦すべてで15得点以上をあげた。しかしその後は急失速し、年が明けるまでのほとんどの試合でひとケタ得点に終わった。当時を振り返って、寺嶋が言う。

「最初の4試合でチームは負けてしまいましたが、自分の感触としては良かったんです。だけど、そこから急に自分のバスケを見失ってしまいました。PGとしてチームを勝たせられなかった責任感もあって、自分のスタイルではダメなのかなと思って試行錯誤してしまった結果、自分らしさが出なくて……。プレーをコントロールしないといけないのかなどと迷ったり、いろいろと考えてしまいました。でもそれは、チームのプラスになっていなかった」

 久保田もまた、シーズン序盤は苦悩した。開幕2〜4戦目は20分近く出場しながらも、その後はコートに立つ時間が数分と激減。出場すらしない試合もあった。そんな現状を打破するために、自分のプレースタイルに対する意識を変えた。

「シーズン序盤はプレータイムが伸びず、思い悩むこともありました。学生時代はプレーメイクやオフェンスをメインにやっていたのですが、小川HCが重視しているのはディフェンス。なので、まずはチームでいちばんディフェンスを徹底しようと意識を変えたんです。自分にとっては、大きなモデルチェンジでもありました。そのことが、後半戦に入るにつれてプレータイムが伸びてきたことにも、関わっているんじゃないかなと思います」

 一方の寺嶋は自らの原点に立ち返ることで、序盤戦の壁を乗り越える。

「僕が自分らしさを発揮することが、チームにいい影響を与える。あらためてそう思って、それを実行したことで自分らしさを取り戻せた。そうなるまでにいろんな経験ができて、今はもう一段階レベルが上がった選手になれたんじゃないかなと思います。小川HCにも、僕が本当にダメなときに『今は我慢時だ。大変な時期を乗り越えたら、またワンランク上の選手になれるぞ』とのお言葉をいただいて、それを信じてやってきました。その結果、一周して元に戻ったというより、たとえるなら渦巻きのように広がって、少し大きくなった感じがあります」

東京出身ながら京都の洛南高に進学、東海大を経てハンナリーズ入りした寺嶋。ルーキーながら得点もできるPGとして、2ケタ得点、5アシスト以上をマークする試合も多い ©B.LEAGUE

同い年、同じポジションのライバル意識

 京都の基本的な選手起用パターンは、こうだ。寺嶋をスターターで出場させ、エース格のデイヴィッド・サイモンとともにスコアをねらう。そして試合途中にゲームメイクに長ける久保田、PGでありながらサイモンと並ぶチームの得点源レイヴォンテ・ライスを投入。セカンドユニットでは久保田がプレーを組み立て、ライスがスコアする。起用のされ方も、PGとしてのキャラクターも異なる寺嶋と久保田は、互いをどのように意識しているのか。

「ヨシアキは僕とはまた違うプレースタイルの選手なので、得られるものがたくさんある。そう思って、彼からも学ぼうと意識しています。彼が僕のことをどう思っているかはわからないですけど(笑)、僕としては互いを高めあうライバルですね。僕にないものを彼が持っているので、彼の良さを吸収していきたいと思っています」(寺嶋)

「リョウが出ている時間帯は、ディフェンスから速い展開というシステム。僕が出る時間帯ではシューターや得点を獲れる選手がいっしょに出ているので、そこを生かすようにゲームメイクして、周りを生かすように意識しています。速いテンポと遅いテンポの変化が付けられるのは、チームにとってプラスかなと思います。リョウが活躍すると、自分もやらないといけないと思わされる。同じポジションで同級生だし、日ごろから負けたくない気持ちはあります」(久保田)

福岡出身、折尾愛真高から九州共立大学へ進学し、昨年1月、特別指定選手としてハンナリーズに。1試合平均で出場時間11.2分、2.1得点、1.6アシスト(3月31日現在) ©B.LEAGUE

HCがチーム再建を若手に託す理由

 寺嶋と久保田は主力として起用されているが、実質的にはプロ1年目のルーキー。コート上で成功と失敗を繰り返しながら、成長の過程にある。そんなふたりを、小川HCはこう評する。

「寺嶋は本当に真面目で、ひた向きに努力できる選手。周囲の人に対しても気が利くし、周りを見られていますね。それが彼の良さでもあり、副キャプテンに指名しました。チームとして足りないことがあれば周囲に対して発言ができますし、リーダーになれるタイプの選手だと思います」

 真面目であることは長所であるが、裏返すと短所にもなりかねない。寺嶋のプレーを見ていると実直な彼の性格が表れている反面、もう少し遊び心があっても良いのではと思う場面もある。

「そうですね。それは間違いないと思います。真面目がゆえに、僕がこうしろと言ったことを120%でやってくれるんですよ。でも試合中に、状況は変わるじゃないですか。僕としては『この状況のときに、こうしろよ』と言ったのに、彼はそれに関わらず、言われたことを全力でやろうとする。そこを本人がどう上手く噛み砕いて、自分のものにしていくか。それが、今後の成長につながるんじゃないかなと思います。僕としても、彼に対しての発言は気を付けるようにしています。でも大卒1年目であれだけできるのは、本当に素晴らしいですよ」

 チームを統べる者として小川HCは、選手にコミュニケーション能力を求める。久保田に関してはプレーの質と同じくらい、その能力の高さを買っている。

「僕は彼がいちばん、コミュニケーション能力があると思っています。若手のなかではだれよりも、自分が言いたいことをチームメイトに言っています。プレーももちろん上手いのですが、PGにはそういったコミュニケーション能力が欠かせません。久保田は日ごろからチームメイトに対して、彼らが持っているものを引き出そうとする質問をしています。だからこそ、仲間からはいっしょにプレーしたい選手だと思われるでしょう。僕は彼の伸び代は、すごくあると思っています」

 そんな久保田の課題は安定感。10分台以上のプレータイムを得る一方で、それ未満の出場に終わる試合も少なくない。

「だいぶ減ってきましたが、彼には波があるんですよね。それは本人にも、伝えています。練習中でも、今日は気持ちが入っているなという日はすごいんですけど、そうではない日はダメ。そういうことを、なくさないといけない。プレーも自分でいけると判断したときはいいのですが、これはダメと簡単に諦めてしまうこともある。そういう姿が見えてしまうのが、君の課題だよと伝えています。でも最近は、そういったことが減りましたね」

チームを牽引する若手の決意

 京都は今、変革期にあるといっていいだろう。これまで安定したベテランの日本人選手を中心にチーム作りをしてきたが、今季から若手主体のチームに生まれ変わった。ルーキーながら副キャプテンを任された寺嶋に、チームの中心を担う意識はあるかと問うと、曇りのない眼差しでこう答えた。

「ありますね。スターターとしての責任もあるし、長い時間プレーさせてもらっているので、そういった意味で責任感は本当にあります。自分たちの世代で、チームを引っ張っていきたい。今後もシーズンごとに大変なことや、良いことを経験するでしょう。それを継承していけば、かなりいいチームになると感じています。僕らが京都の新しい時代や文化の土台になれる世代ではないかなと、それは確かに思います」

 シーズンは終盤戦。現実的に、京都のチャンピオンシップ進出は厳しい状況にある。チームとしての目標が未達に終わってしまったとしても、その代わりに若い力が、実戦でしか得られない経験値を積み重ねた。昨季の京都は1試合平均10分以上プレーした30代の日本人選手が4人いたが、今季はふたりへと半減していることに、それが表れている。コートを離れると月に一回は同級生4人で焼肉を食べにいくというほど仲が良い彼ら1997年生まれ組が、これからの新しい京都の礎となるはずだ。

文=カワサキマサシ

photograph by Masashi Kawasaki