昨年は120試合で113通り――。

 日々打線を組み替えてシーズンを戦い抜くのが、昨年のホークスのやり方だった。スタメンを考えるのは基本的に打撃コーチの役割だったが、そこには工藤公康監督の考えも大きく反映されていた。投手目線で“何をすれば相手が嫌がるか”を考えたり、データやコンディショニングを日々研究したりして最適なメンバー選びを試合毎に行っていたのだ。

 一方で、今年のホークスは打順を固定する傾向にある。

 開幕して5試合目までは1番から9番まで全く同じオーダーを組んだ。6試合目以降はグラシアルや柳田悠岐を負担軽減のためにDHで起用したことでデスパイネが外れたりしたが、打線をいじるにしても必要最低限にとどめる形をとっていた。

 今年、工藤公康監督は「野手陣については小久保(裕紀)ヘッドに任せている」と言い続けている。

 小久保ヘッドに時折話を聞くと「打順を考えているのは打撃コーチ」と返ってくるが、昨年との違いを見れば“小久保イズム”が反映されていると考えるのが間違いないだろう。

工藤監督が「動」、小久保ヘッドは「我慢」?

 この対比、非常に興味深い。

 工藤監督は強気な勝負師の一面を持つ。

 采配には「絶対」など存在しない。どんな決断だとしても成功と失敗は隣り合わせだ。ただ、そこには「確率」が存在する。工藤監督はありとあらゆる準備を大切にし、それに裏打ちされた考えに基づいて積極的に動くことで、高い成功確率を手繰り寄せてきた。

 上手くハマった時、勝負の流れは自らの手の中にある。チームはもの凄いスピードで好転していく。この方法には、即効性が期待できるのだ。

 工藤監督が「動」ならば、小久保ヘッドは「静」か。いや、違う。辛抱や我慢という表現の方が当てはまるかもしれない。

 耐え抜く時間の中には、必ず努力が存在する。小久保ヘッドはその先にある光を求めているように見えるのだ。

「1日1000スイング」&「2部練」

 今春の宮崎キャンプで話題の中心となった「1日1000スイング」もその象徴だったと考えられる。

「スイングスピードを速くしたい、強い打球を打ちたいとみんな思っているはずなんです。バッティングの技術を高めるのもそう。そのためにはバットを振るしかない。自主トレの期間に体を鍛えてきて、その体を振る力に変えていかないと良い打球は打てない。1日に1000スイングはしないと一流選手にはなれないと思う」

 1カ月間に及ぶ春季キャンプが終わり、シーズンへの調整期間のはずのオープン戦のために福岡に戻ってきても「強化する若手を中心に2部練習を行う」との方針を打ち出した。PayPayドームでナイターの場合にホークスの全体練習は午後2時頃から始まるのだが、それより早い時間に1時間近く打ちっぱなしという時間を設けた。そして、先輩たちがフリー打撃をしている間は守備や走塁の時間をたっぷりとる。キャンプは終わっていない――その言葉しか浮かばなかった。

パ最下位の「チーム打率.216」

 そういえば、小久保ヘッドは現役時代に、よくこんな話をしてくれた。

「自分の長所は不器用なことだと思っている。『これやってみぃ』と言われても、出来ないことが多かった。それが悔しかった。だから他人よりも多くの時間をかける。でもね、ずっと練習して身につけたものだからこそ、すぐには自分の中から離れていかないんだよ」

 地道に積み重ねること。なにより、そもそも技術などは一朝一夕で身につくものではない。

 今年、小久保ヘッドが就任したことで、打撃陣には新たなスターが生まれるのではないかと劇的な変化を期待する声は多かった。しかし、いざ開幕してみれば去年と連なる名前はさほど変わらない。

 もしかしたら若手たちはバテてしまったのではないかと邪推してしまうが、結局は数カ月で結果を示せるほど甘い世界ではないということが改めて証明された形となった。

 また、ここまでの戦いを見ると主力も含めた打線全体が苦戦しているように見える。

 開幕4連勝スタートをきったのも束の間、あれよあれよという間の5連敗で開幕3カードを終えたところで借金を抱えることに。この時点での「チーム打率.216」はパ・リーグ最下位である。

打撃練習、新導入の「木製台」とは?

 そんな最中だが、じつは開幕直前から練習で新たに導入されたことがある。フリー打撃の際に打撃投手たちが、木製の傾斜台の上から投球するようになったのだ。

 以前から取り入れている球団はいくつかあったようで、小久保ヘッドがチームに提案。マウンドから打席までロープを引っ張って、台の高さや傾斜の角度を測って1月末に発注して開幕前にやっと届いたという。大きな台だが、開幕後は遠征地にも持っていき使用しているとのことだ。

 目的はもちろん、打者が普段からより実戦に近いボールを打つため。思わぬ利点として小久保ヘッドは「打撃投手のストライク率も上がった」と喜んでいたが、一方で「打者は最初戸惑ったみたい。威圧感があると言っていた」とも話していた。

 その微妙な違いが開幕からの成績に影響しているのかも……、いや、それも邪推だ。

 正直、小久保イズムに即効性は望めない。だが、とてつもない爆発力を秘めた方法論だ。この考え方に基づいてやり抜いた先には、球界を代表するスター選手が誕生するのではないか。

 今年のホークスには、そんな期待を抱いている。

文=田尻耕太郎

photograph by KYODO