いま、女王にふさわしいのはアシュリー・バーティか大坂なおみか――。

 1位奪還を強く意識してはいないという大坂の心情をよそに、全豪オープン以降、世界中のファンや専門家が現在のWTAランキングの算出システムに疑問を投げかけてきた。昨年8月のツアー再開以降、2度もグランドスラムを制した大坂がいまだ2位に止まり、全米も全仏も欠場して今年の全豪オープンもベスト8に終わったバーティが1位に君臨し続けているのはおかしい、ランキング・システムに大きな問題があるせいだ、と。

本来であれば、大坂なおみが“世界1位”だが……

 WTAはコロナ禍での暫定的な措置として、ツアー停止が始まった2020年3月16日付けのランキングをいったん凍結し、ツアー再開後は2019年の3月以降で獲得ポイントの多かった上位16大会のポイントを合計してランキングを決定していた。本来、加算されたポイントは1年(52週)後に消滅する。しかしこのシステムのおかげで、バーティはコロナ感染のリスクと隔離義務を避けるため昨シーズン末まで全ての大会を欠場したにもかかわらず、2019年に獲得した全仏オープンやWTAファイナルズの優勝ポイントなどを失わずに保持し、1位の座を守ってきた。

 4月5日付の最新ランキングでは、1位がバーティ(9186ポイント)、2位が大坂(7985ポイント)である。しかし昨年8月のツアー再開後に獲得したポイントだけを見れば、大坂がツアーでダントツの4985ポイントで、バーティは1901ポイント。ちなみに、全米オープン準優勝のビクトリア・アザレンカは3181ポイント、全仏オープン優勝のイガ・シフィオンテクは3067ポイントを獲得している。

©Getty Images

 ツアー再開時に10位だった大坂は2位へ、58位だったアザレンカは15位に、50位だったシフィオンテクは16位へとそれぞれアップし、それなりに成績はランキングに反映されているが、バーティが1位を保っていることへの違和感が拭われるわけではなかった。

論争のなか「バーティのマイアミOP連覇」

 先週開催されたマイアミ・オープンで、大坂が優勝してバーティが準決勝までに負ければ順位は入れ替わるはずだったが、大坂は準々決勝で敗れ、バーティが優勝した。この大会は昨年中止されたため、2019年に優勝したバーティの実質連覇である。ランキング・システム論争の中で居心地の悪い立場にあったバーティにとっては、面目躍如の栄冠となっただろう。ただし、優勝会見でのコメントはあくまでも強気だった。

「ランキングについて議論があることは知っている。ただ、私は去年ポイントを失わなかったけど、獲得したポイントもない。その間にポイントを増やすことができた選手たちもいたのだから、(それでもランキングが変わらなかったということは)私がナンバーワンの場所にふさわしいのだと思ってきた。私たちチームにとってそれほど2019年はすばらしいシーズンだったし、今年再スタートしてからもいいかたちでここまできている」

 バーティは少なくともあと5週は女王の座にとどまり、1位在位期間はカロライン・ウォズニアッキの71週を抜いて74週となる。歴代女王の中では9番目の記録であり、これにもまた納得がいかないという声はあるが、後世に残る記録にはパンデミックによる暫定システム下のものだと明記すればよい。それよりも、バーティのこの優勝とプライドを見せた発言のおかげで、これからの女王争いはますますおもしろくなったことに注目したい。大坂一強といってもよかったツアー再開からの半年間だが、同じ土俵にバーティがいなかったこと、直接対決がなかったことは幾分物足りなかった。

©Getty Images

 WTAは批判の多いランキング・システムにも修正を加え、今保有しているポイントが失効するタイミングについては、コロナ禍で乱れたツアーカレンダーの下でケース・バイ・ケースのルールを定めた。それによると、2019年に獲得したポイントは、その大会が昨年行われず今年も開催されない場合を除き、獲得から104週後に失効する。つまりバーティは、2019年の全仏オープンで獲得した2000ポイントを5月に失う。ようやく緊張感のあるポイントの増減、トップ争いの変動がこれから見られそうだ。

 そこで少し気がかりなのが、マイアミでの大坂の様子である。

世界ランク25位にストレートで完敗

 昨年8月のツアー再開以来、無敗を誇っていた大坂の連勝は、23でついにストップ。この10年でセリーナ・ウィリアムズの27連勝(2014-2015年)、アザレンカの26連勝に次いで3番目の記録に終わったこと以上に残念だったのが、そのプレー内容だ。

 世界ランク25位のマリア・サッカリに0−6、4−6で完敗。第2セットは4−1から5ゲームを連取された。「今週はずっとリズムをつかめなかった」と明かし、ハードコートの中ではかなり遅いと言われるサーフェスにタイミングが合わずにミスを連発。試合を通してファーストサーブの確率がわずか40%で、そこからのポイント獲得率も50%という絶不調に、「突然にああなってしまった。どうしてなのかはよくわからない」と落胆した。

 クレーシーズンに向けての修正が課題となったが、その初戦は4月29日開幕のマドリード。第一戦に予定していたシュツットガルトの大会は欠場する。

真の女王を決めるレースは「ここから」

「自分のことを、毎週毎週試合に出て結果を出せるタイプだと思ったことはない。ホームシックにかかりやすくて、すぐに寂しくなってしまうから。遠征は場所を絞って、その大会に集中するというやり方が自分には合っていると思う。これまでの経験でそれを学んだ」

 マイアミのプレトーナメント会見でのこの発言は、シュツットガルトの欠場を決めた理由と無関係ではないだろう。ヨーロッパのクレーシーズンでは、通常なら長期間の遠征が強いられる。ベスト4だった2019年の185ポイントを失うが、ナンバーワン返り咲きへの階段を急いではいない。

©Getty Images

「ナンバーワンになることがどれほど名誉なことか、どれほど大事なことかはわかっている。でも、可能性のことをあれこれ考え続けると、私はうまくいかない」

 失敗を経験して知った〈マイペース〉。5月23日に開幕予定の全仏オープンの大幅延期案が今年も浮上する中、どの選手にとっても調整の難しい状況は続いている。誰よりもうまくこの状況に順応し、むしろプラスにしてきた大坂が、苦手のクレーでもその適応力を発揮することができるだろうか。真の女王を決めるレースは、ここからが長い見せ場となりそうだ。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images