劇場版シリーズの第24弾目となる『名探偵コナン 緋色の弾丸』が4月16日に公開となる。

 舞台となるのは東京で開催される世界最大のスポーツの祭典「WSG -ワールド・スポーツ・ゲームス-」。世界から注目を集める中、大会スポンサーが集うパーティー会場で、企業のトップが相次いで拉致される事件が起こる。“スポーツの祭典”と聞くと、3カ月後に開幕が迫った東京五輪を連想する人も多いのではないだろうか?

 今回に限らず、『名探偵コナン』では原作本編や劇場版などであらゆるスポーツが登場してきた。そもそも主人公・江戸川コナン(工藤新一)は、サッカー好きでJリーグにスカウトされるほどの実力の持ち主でもある。そこで、作品において「スポーツがどう描かれてきたのか」を紹介していきたい。

その1)コナンと言えば「サッカー」?

 サッカーはコナンとは切り離せないスポーツだろう。単行本7巻では作中でもよく話題に上るJリーグ所属のサッカーチーム「東京スピリッツ」が初登場する。東京スピリッツの赤木英雄選手の弟が誘拐された事件だ。その後、阿笠博士と少年探偵団がサッカーの試合やパレードを見に行く様子が時々描かれている。

 そしてサッカーといえば、灰原哀の変化についても触れておきたい。

 灰原哀は基本的に理知的で冷静な性格で、感情的になることは少なく、特に喜怒哀楽の「喜」「楽」があまり顔に出ない人物だ(物語が進むにつれ、段々と和らいだ表情も見せるようになってきているが)。サッカーにも関心は薄く、19巻の天皇杯観戦時にはサングラスをし、試合にも興味を示さず、コナンに「クールだねぇ……」と言われるほどだった。しかし、プロサッカーチーム「ビッグ大阪」に所属する比護隆佑選手との出会いでそんな灰原に変化が表れる。

冷静な灰原×サッカーで描かれた「人間らしさ」

 比護選手が初めて登場したのは34巻。比護選手は「ノワール東京」に所属していたが、異母兄である遠藤陸央をチームに入れた理由が比護を釣るためのエサだったことが発覚、「ノワール東京」は突然遠藤に戦力外通告をする。その後、比護は二人でJ1を制するという夢を叶えるために、遠藤を拾ってくれた「ビッグ大阪」に移籍をするのだが、移籍直後はサポーターからは「裏切り者」と呼ばれ、ブーイングされてしまう。

 家族を利用され、組織から抜け出し「裏切り者」とされた灰原は、境遇が似ている比護選手に自分を重ねる。そして、アウェイの状態の中でゴールを決め、ブーイングの届かない場所(スペインへの移籍を噂されていた)に行くのではなく、その場で戦う比護選手を応援するようになるのだ。

 サッカーのルールすらよく知らない灰原だったが、選手のファンになって、サッカーにも興味を持ち始める。その後は比護選手とアイドルの沖野ヨーコが熱愛中というゴシップニュースにショックを受けたり、比護選手のストラップを落として放心状態になったりするなど、以前の灰原だったら考えられなかったような顔を見られるようになった。

 試合やプレー内容に感動したわけではなく、選手の事情や背景から興味を持ち、そこからそのスポーツ自体に興味を持つ。そんなよくいる普通のスポーツファンの一面を見せたことで、「灰原哀」というキャラクターはより人間味のある魅力的な存在になっている。

その2)事件の舞台に「甲子園」も登場していた

 作者の青山剛昌先生は、『名探偵コナン』が連載される前、1991年から93年まで不定期で『4番サード』という野球マンガを描いていた。主人公は、長嶋茂雄と同姓同名の長島茂雄、高校2年生。同姓同名というだけで、サード四番打者に選ばれてしまうが、期待に応えられずに三振ばかり。ある日、沢村栄治からお金を使った分ヒットが打てるという「神様(ベーブルース)からの特別なバット」をもらい、ヒットが打てるようになる。

『まじっく快斗』の怪盗キッドのように、作品のクロスオーバーが多い青山作品だが、この『4番サード』と繋がるエピソードが『名探偵コナン』コミックス43、44巻に収録されている。甲子園にやってきたコナンや服部平次たちが観戦していたのが、高校3年生になった長島がいる港南高校と、彼のライバルである稲尾一久が投げる大金高校が対戦している試合だった。

甲子園球場 ©JIJI PRESS

 この回では、コナンと平次が甲子園のスタンドで爆弾を使って自殺することを示唆する犯人を捕まえるために奔走するのだが、その一方で試合も盛り上がりを見せて、港南高校が長島のホームランで大金高校に追いつき、試合は延長戦へ突入する。『4番サード』の時にはチームメイトに心を開いていなかった稲尾の変化や「ベーブルースの記念碑」が謎に関わっているなど、『4番サード』ファン必見のエピソードにもなっているのだ。

 何より、このエピソードが伝える「甲子園は品評会じゃない」「勝つか負けるかの戦場だ」という言葉は野球ファンに熱く響く言葉だろう。多くの甲子園ファン、野球ファンに伝えたいメッセージだ。

その3)テニスのルールを駆使した事件も

 71巻から始まるロンドン編は、イギリスでの新一と毛利蘭のやりとりから、ファンの間でも人気のエピソードの一つだが、テニスの四大国際大会の一つであるウィンブルドンが事件の舞台となる。作中には、ウィンブルドンセンターコートや、スクリーン観戦ができる「マレー・マウント」ことアオランギ広場などが登場する。

 とあることからコナンは、プロテニスプレイヤーのミネルバの弟であるアポロという少年から、ある男に「誰かの運命を分ける」という暗号が書かれた紙を渡されたと聞く。ロンドン市内の地図や観光名所、シャーロックホームズの謎を解き、事件が起きる場所が「ウィンブルドン選手権の決勝」であることを突き止め、ミネルバからの"help"サーブを解読し、事件を未然に防ぐことに成功する。

 ロンドンというホームズファンの新一にとっての特別な場所で、ウィンブルドンでの事件を解決してからの、テニスのスコア「0(ラブ)」を使ったメッセージなど(ここはぜひ本編で見てほしい!)まで、読み応えのあるエピソードだった。

ウィンブルドンのセンターコートも事件の舞台になった ©Getty Images

その4)空手に剣道…登場人物たちの「身体能力の高さ」

 『名探偵コナン』におけるスポーツの描かれ方は“舞台”だけに限らない。個性豊かな登場人物の身体能力も凄まじい。

 ときに一本背負いで犯人を追い詰める毛利小五郎をはじめ、「大阪府警の人間を1人で全員倒した」という噂が広まっていたほど剣道が強い服部平次、截拳道(ジークンドー)と呼ばれるブルース・リーが考案した打撃・投げ・極めなどの全局面で戦うことを想定した総合技術体系を使う赤井秀一と世良真純。さらには、日本国内の高校生選手権大会を含む空手の全世界公式戦で400戦連勝無敗という常人離れした経歴を持つのが、毛利蘭の親友・鈴木園子の恋人として描かれている京極真である。

 何より読者を魅了し続けるのは毛利蘭だろう。踵で顎を蹴り上げ、みぞおちに連打、膝から崩れ落ちた犯人の顔を蹴り上げる。胴回し回転蹴りを決めるなど、関東大会優勝(劇場版『水平線上の陰謀』より)の器には収まらないと思われるほどだ。エピソードの中で、蘭の力によって助かる人も多い。

スポーツへの愛情・リスペクトに溢れている

 作者のスポーツへの関心やリスペクト、愛情があるからこそ、どのスポーツを舞台・背景としたストーリーも名エピソードとなっているのだろう。スポーツ好きの作者が描くからこそ、単なる舞台装置としてではなく、スポーツが物語に厚みを与えるものになっている。

 ぜひ『名探偵コナン』に描かれるスポーツにも注目して読んでみてほしい。

文=松尾奈々絵(マンガナイト)

photograph by JIJI PRESS