「大衆が創り上げたものを、金持ちどもが奪っていった。フットボールよ、安らかに眠れ」

 こうした横断幕がスタンドに掲げられるのは、今に始まったことではない。事実、すでに多くの欧州のトップクラブは、地元の人々との結びつきや歴史、慣習を知らない外国人オーナーたちの手に渡ってしまっている。しかし保有者たちの強欲が、ここまであからさまに示されたケースは、近代フットボール史上初めてのことではないか。それが前々から囁かれていたことだとしても。

創設メンバー15クラブは“降格なし”特権

 4月18日(日曜日)の英国時間23時半ごろ、ヨーロピアン・スーパーリーグから声明が出された。

「ヨーロッパを代表する12クラブは本日、週半ばに行われる新たな大会、スーパーリーグの設立に合意したことを、共同で発表する。このリーグは、ACミラン、アーセナルFC、アトレティコ・デ・マドリー、チェルシーFC、FCバルセロナ、FCインテル・ミラノ、ユベントスFC、リバプールFC、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリーCF、トッテナム・ホットスパーの創設クラブによって統治される」

 このリーグは早ければ、今年8月からの開催を目指しているという。草案によると、上記12クラブに加えて新たに3クラブが創設メンバーとなり、その15チームはどんなに成績が悪くても降格せず、スーパーリーグでプレーし続けるらしい。そこに5つの招待クラブを加え、各10チームずつのリーグ戦を行い、上位3チームずつが決勝トーナメントに進出し、それぞれの4位、5位チームが残る2つの8強の座を争うことになるそうだ。

CL準々決勝で対戦したレアル・マドリーとリバプールも12クラブの中に入っている©Getty Images

レアル、ユーべ、マンU首脳が“首謀者”に

 昇降格ナシ、プレーオフの充実、派手な対戦の連続──何よりも興行を主眼に置いたアメリカ的なフォーマットだ。それもそのはず、この案の首謀者は、マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長(ヨーロピアン・スーパーリーグの初代会長)、ユベントスのアンドレア・アニェッリ会長(同副会長)、そしてユナイテッドのアメリカ人オーナー、ジョエル・グレイザー(同副会長)なのだ。

 2005年、グレイザーは鉄道労働者たちにルーツを持つ欧州で最も気高きフットボールクラブのひとつを、レバレッジド・バイアウト(買収先を担保に資金を調達、つまりクラブそのものに負債を負わせて買収――その負債をクラブに支払わせながら、身銭を切らずにユナイテッドを手に入れたオーナー陣は、利益を吸い上げ続けている。高度資本主義のルールに則っているのかもしれないが、なぜそんなことが許されたのか、何度考えても腑に落ちない)という手法で私物化したが、彼は次のように話した。

「世界で最も偉大なクラブと選手を集め、シーズンを通して彼らが対戦し続けるスーパーリーグは、欧州フットボールの新たなチャプターとなる。そこではワールドクラスの争いと設備、より広い層のフットボール・ピラミッドへの経済サポートの増加が見込まれる」

ペレス会長が主張する「責任」とは

 またペレスは、「我々は世界中すべてのレベルのフットボールに、救済の手を差し伸べ、正しい場所へ導く。フットボールは世界で唯一のグローバルスポーツであり、40億人のファンを持つ。我々ビッグクラブには、彼らの望みに応じる責任がある」と語った。

レアルで数々の“剛腕実績”を残すペレス会長が、ESLの会長となる(2009年撮影)©Takuya Sugiyama

 シティ対バルセロナ、ユナイテッド対マドリーといった豪華なカードが、シーズンの最初から最後まで毎週のように実現すれば、どうなるだろうか。

 なかには毎回、期待で胸を膨らませるファンもいるかもしれないが、煌びやかすぎて目まいを起こす人もいるだろう。やがて食傷し、フットボールそのものから興味を失ってしまう可能性も否定できない。

メガバンクが4200億円資金提供で“参加ボーナス”も

 そもそも、彼らの聞こえの良い言葉を鵜呑みにしようとする人は、ほとんどいないと思う。すでに信じられないほどリッチなごく少数のエリートたちだけを、さらに潤わせようとしているのは明らかだ。あるいは、マドリーが抱える900億円超とも言われる負債が、その原動力になっているのか。

 アメリカのメガバンク、JPモルガン・チェイス──グレイザーによるユナイテッド買収を手伝い、現在副会長に収まっているエド・ウッドワードの古巣だ──は、このスーパーリーグへ約4200億円もの資金を提供する意向を明かしている。英『フィナンシャル・タイムズ』紙によると、創設メンバーにはウェルカムボーナスとして、約260〜390億円が用意されているという。

欧州SL参加の選手はW杯やEUROに出られない?

 この報を受け、UEFAのアレクサンデル・チェフェリン会長は翌日に会見を開き、ひどく立腹した様子で辛辣な言葉を並べた。彼はビッグクラブの要請に沿う形で、チャンピオンズリーグの拡大案を進めていたのだ。

「UEFAと世界のフットボール界は団結し、数少ないクラブの強欲によって導かれた、利己的で恥ずべき提案に断固として反対する。我々のこの競技は、開かれた競争、高潔さ、スポーツ的な美点によって、世界でもっとも偉大なスポーツに発展してきた。これを変えることは絶対に許されない。この冷淡なプランは、フットボールを愛する人々や社会の顔に唾を吐きかけるものだ。

 私は過去に24年間、司法弁護士を務めていた。だからこれまでに多くの物事や人物を見てきたが、こんな人々(スーパーリーグの首謀者たち)は見たことがない。彼らの強すぎる欲は、すべての人間的な価値観を無にしてしまう。彼らはすでにカネで満たされているというのに、もっともっともっと欲しがるのだ」

 チェフェリン会長は、このスーパーリーグに参加した選手たちが「W杯や欧州選手権に出場できなくなる」こともあらためて強調した。各国協会やリーグ機構との共同声明では、「この提案に同調しなかった他国のクラブ、とりわけドイツとフランスのクラブに感謝する」とも記している(バイエルン・ミュンヘンとボルシア・ドルトムント、パリ・サンジェルマンは勧誘を断ったという)。

バイエルンとPSGは勧誘を断ったとされる©Getty Images

今季CLからの“締め出し”も視野に

 またデンマークのメディア『DRスポーツ』によると、UEFA役員も務めるデンマーク協会のイェスパー・メラー会長が、来週に予定されている今季のチャンピオンズリーグ準決勝から、マドリー、チェルシー、シティを締め出す意向を示している。ヨーロッパリーグの4強に残っているユナイテッドとアーセナルの処遇を含め、今週中に審議される模様だ。

 競技発祥地イングランドでも、当然、非難の嵐が吹き荒れている。

 元ユナイテッドの人気解説者ギャリー・ネビルは、スカイ・スポーツの番組で以下のように怒りを露わにした。

「本当に腹立たしい。特にマンチェスター・ユナイテッドとリバプールには、嫌気が差す。リバプールは『You'll never walk alone』と歌い、民衆やファンのクラブのふりをしているということなのか。マンチェスター・ユナイテッドは100年以上前に、労働者たちが創り上げたクラブだ。そんなクラブが、競争原理のないスーパーリーグに参戦するのか? 心から恥ずべき行為だ。(彼らの動機は)強欲以外の何ものでもない」

C・ロナウドをねぎらうネビルの現役時代©Takuya Sugiyama

 なおリバプールのユルゲン・クロップ監督は「チームや選手たち、そして私は、(この提案に)一切関わりがない。それなのに、人々は私たちに厳しい言葉をぶつけてくる」と回答している。またジェイムズ・ミルナーもリーズ戦後に「その提案は好きになれないし、実現しないことを願う」と言っているように、それはきっと本当で、こちらもアメリカ人のオーナーが独断で決めたことなのだろう。

英国紙は「戦争だ」「ファンに対する刑事事件」

 声明の翌朝、英国の朝刊には「これは戦争だ」や「フットボール界の内戦」、「ファンに対する刑事事件」といった見出しが躍った。また国会でも議題に上がり、政府も全力でイングランドのクラブがこの大会に参加することを阻むと誓った。オリバー・ドウデン文化大臣は、「フットボールは私たちの国のDNAだ」から始まる口頭声明で次のように話した。

「フットボールクラブは、ビジネスだけのものではない。国中のコミュニティーを形成するものだ。だからおそらく皆さんと同じように、昨夜にいくつかのクラブが独立したヨーロピアン・リーグを設立するという提案を聞いて、私はゾッとしている。これらの6クラブはこの決定を、協会や政府に一切相談することなく決めた。だが最悪なのは、それぞれのファンともまったく対話することなく、決定を周知したことにある」

 これらの反応を受けてか、マンチェスター・シティ、リバプール、アーセナル、トッテナムが公式サイトで離脱への正式な手続きを行ったと発表。「BBC」によるとロマン・アブラモビッチがオーナーを務めるチェルシー、そしてユナイテッドも追随するようだ。

オーナーたちの利益追求と地元軽視に拍車が

 近年、ビッグクラブのオーナーたちが、筋金入りのファンや地元サポーターを軽視していることは、日に日に明らかになっている。

 特にクラブの地元と縁もゆかりもないビジネスマンたちは、クラブを世界的なブランドとしか見ず、自らの利益やイメージアップばかりを追求してきた。そしてパンデミックが起こり、観客不在でもテレビ放映権料があれば、ビジネスが成り立つことがわかり、それをさらに突き詰めるべく、この決定に至ったのではないだろうか。

レスターのような“奇跡”があるからこそ

 今回物議を醸した12クラブのオーナーのなかには、出生地のアメフトクラブを買収した後に利益が少ないとみるや、フランチャイズを他所に移して地元民の強烈な怒りを買った人物や、ハゲタカファンドの頭領などもいる。彼らにとって、すべての基準はカネなのだ。

 だがフットボールを観る人々は、視線の先に別のものを求めている。

 チームとの密接なつながり、感情の爆発や揺らぎ、弱者が強者に挑んで時に打ち負かす姿──。このスポーツはアップセットが起こりやすく、それが大きな魅力のひとつにもなっているのだ。

レスターのようなジャイアントキリング、CLでの大躍進が見られなってしまうのか©Getty Images

 もしスーパーリーグが実現してしまえば、今季のプレミアリーグで現在、3位のレスター・シティや4位のウェストハム・ユナイテッドが来季のチャンピオンズリーグで、格上の強豪に立ち向かう姿が見られなくなる。それはあまりにも寂しい未来ではないか。

フットボールは、誰のものか──。以前から折々に問われるこのクエスチョンが、かつてないほど切実に響く。

文=井川洋一

photograph by Getty Images