──Earned, not given.(与えられたのではなく、勝ち取った)

 4月19日朝、トロント・ラプターズは渡邊雄太とNBA本契約を交わしたことを発表した。契約を発表するツイッターの投稿には、この言葉とともに、渡邊が契約書にサインする場面、そしてGMのボビー・ウェブスターと握手を交わす場面の写真が添えられていた。

 与えられたのではなく、勝ち取った契約。それは、まさに今回の渡邊の契約にふさわしい言葉だった。

 3年前にNBAの世界に一歩踏み込んだ渡邊だったが、以来、これまではずっと、NBAチームでの活動日数や試合数に制限があり、マイナーリーグのGリーグとの間を行き来する立場のツーウェイ契約選手だった。3シーズン目の今季にいたっては、去年12月にラプターズのトレーニングキャンプに参加した時点では、開幕ロスターに残る保証もなく、競争相手より不利だと見られていた。そこからツーウェイ契約選手として開幕ロスターに残り、そしてシーズン中の活躍が認められて、今回の本契約へとつながった。

“特例”が作られた今シーズン

 ラプターズとしては、今シーズンの渡邊の契約を本契約に切り替えなくてはいけないわけではなかった。当初、ツーウェイ契約選手の今季NBAベンチ登録は50試合までと上限が定められていたが、コロナ禍でロスターに余裕を持たせるため、シーズン途中で上限を撤廃することが決定された。通常ならツーウェイ選手は出場できないプレイオフも、今シーズンに限って出場できるという特例が作られた。

 このルール変更によって、チームからしたらツーウェイ選手をあえて本契約に切り替える理由がなくなった。渡邊は2月に故障欠場して登録外になった4試合を除くと、開幕から毎試合ベンチ登録をされており、元々のルールなら4月11日のニックス戦で登録50試合目を迎え、その後、試合で起用するために本契約に切り替えられていたはずだった。しかし、ルール上その必要がなくなったことで、一見、ずっと目標としてきた本契約から遠ざかってしまったように見えた。

 ルール変更が報道された3月にそのことについて聞くと、渡邊は、ルール変更で本契約が遠ざかったことについては気にしていないと語った。

「自分自身、影響がないわけではないんですけれど、気持ち的にそんなに大きな変化はないかなと思っている。その理由は、仮に今シーズン、50試合というそのままのルールでいったとしても、そのあとの50試合以降の帳尻合わせの本契約だと、別にそれは意味ないと正直思っています。ツーウェイのままずっと行って活躍すれば、来シーズン以降、絶対に本契約はもらえるんで。50試合のルールがあろうがなかろうが、しっかり試合に出て活躍すれば、先につながる話なんで、それに関しては全然気にはならなかったですね」

 いつでも本質を追い求める渡邊らしい考え方だった。

 その点で今回の本契約は、ラプターズ側からしたら、試合に出すために必要だからやったことではなかった。だからこそ、渡邊にとっては自分のプレーが評価された証だと感じられたのだと言う。

 4月20日、ラプターズの本契約が発表された翌日の会見で、渡邊はこう語った。

「50試合の制限があるなかで、50試合ベンチにいたから(本契約に)コンバートするのではなく、しっかり僕のパフォーマンスを認めてもらった上でのコンバートなんで、そこは本当に素直に嬉しく思います。だからある意味、僕としては、(50試合制限の)ルールがなくなってよかったなというふうに思っています」

3Pシュートを決めて喜ぶ渡邊。課題としていたオフェンスでも成長をみせている ©AP/AFLO

ナースHC「少し前から話していたこと」

 もっとも、本契約とはいえ、今回、渡邊がラプターズと交わした契約は、決して将来が保証されたものではない。契約は来シーズン末までの2年契約だが、来季の契約金は現時点では保証されていない。万が一、今季終了直後に解雇された場合は、来季分のサラリーは一切もらえない。

 ただ、それでもラプターズ側が渡邊を来季も残したい選手の1人と考えていることは、契約のタイミングからもうかがえる。今回の契約を交わさなかった場合、渡邊は夏には制限付フリーエージェントとなる。期限付なので他チームのオファーにマッチできるとはいえ、条件によっては引き留めるのが難しくなる。それを避けるためにも、ラプターズとしては今回の契約を交わす必要があった。

 ラプターズのニック・ナースHCは、契約に関してはフロントの判断だと断ったうえで、「(渡邊との本契約は)私たちが少し前から可能性として話していたことだ。彼はそれに値するプレーをしている。間違いなく、この先チームに残る選手の候補として考えている」と語った。

 一方で渡邊も、ラプターズに残りたいという気持ちが強かった。そのこだわりがなければ、保証されていない来季の契約を受け入れる必要はなかった。4月に入ってからのようなプレーを見せれば、今オフにはいくつかのチームからオファーが提示された可能性は高い。中にはラプターズよりいい条件を提示するチームもあったかもしれない。しかし、渡邊は契約の保証や額とは関係なく、ラプターズに残りたかった。

 それだけラプターズは自分の持ち味を理解し、実力を認めてくれ、このチームでならさらに成長できるという確信があったからだ。

「このチームに来てから、本当にすごく成長できていると思いますし、出場機会もたくさんもらえて、経験を得ることで、自分のよさっていうのがコート上でどんどん出せてきている部分がある。僕はこのチームに残って、少しでも長いキャリアを過ごせたらなと思っています。なので、(本契約の)オファーがあったときはすごく嬉しかったですし、来シーズンはまだ保証はされていないんですけれど、今後もしっかりアピールして、来シーズンに結びつけるように頑張っていきたいなと思っています」

オンライン会見で笑顔をのぞかせた ©KYODO

ラプターズが提示した来季の契約条件

 そんな渡邊に対して、ラプターズ側もできる範囲で配慮した条件を出している。スポーツウェブサイト『ジ・アスレティック』のラプターズ番記者、ブレイク・マーフィーによると、渡邊の来季の契約には、二段階の契約保証期限が設けられているのだという。

 最初の期限は夏の契約モラトリアム期間(契約交渉や口頭での合意はできるが、正式に契約書にサインすることはできない期間。今年は米東部時間8月2日18時から9日12時1分まで)が終わって3日後。その日を過ぎれば来季の契約金(176万2796ドル)のうち、37万5000ドルが保証される。さらに、トレーニングキャンプの競争を勝ち抜いて開幕ロスターに残れば、サラリー全額が保証される。

 もしラプターズが夏の補強の結果、渡邊が必要ないと判断して、最初の期限の前に渡邊をカットした場合でも、NBAのFA補強が始まったばかりのタイミングで、渡邊にとっても新チームを見つけやすい。開幕ロスターに残れば、万が一、シーズン中にカットされても全額サラリーを得られる。ツーウェイ契約からのし上がってきた弱い立場の渡邊にとって、決して悪くない条件だ。

 本契約になっても、渡邊自身は気を抜くこともなく、さらに上を目指す姿勢は変わらない。

「契約は変わったけれど僕がやらなくてはいけないことは変わらない。これまでやってきたことを、これからもやり続けるだけ。コート上で多くのエナジーをもたらし、ディフェンスをし、リバウンドを取り、アグレッシブにプレーする。来シーズンはまだ保証されていない。自分ができることを見せ続けるしかない」

 そうやって努力してきたなかで、本音ではやめたくなったこともあったと明かす。そういうときには、メディアやファンに向けて努力し続ける姿勢を言葉にすることで、自分の気持ちにハッパをかけていたという。

「正直、逃げ出したくなるときもたくさんあった。そういうときにメディアの皆さんに伝えて、それを、時間をかけて記事にしてもらって。それを読んでくれる人たちがいるんで、言ったからにはやれよ……じゃないですけれど、自分にハッパをかけてやっていた部分もある。どうしても自分の中で自分を奮い立たせるのが難しくなっていた時期って、正直、すごくあったんで、順序は逆ですけれど、一時期は言ったからやらなきゃいけないという状況を作っているときもありました」

 それだけに、今回のように目標としてきたことを達成できたことは、自分自身のモチベーションにも繋がる。

「個人的に、NBAで長いキャリアを築いていきたいと思っているなかで、もっともっとアピールしなきゃいけない立場だと思っている。努力を続ければ、何かしらの形でご褒美をもらえるっていうのを自分自身で証明できたかなと思うので、今後もしっかり続けていかなきゃなと思っています」

文=宮地陽子

photograph by USA TODAY Sports/REUTERS/AFLO