2020年から2021年(対象:12月〜3月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト3を発表します。プロ野球部門の第1位は、こちら!(初公開日 2021年2月27日)。

 巨人は変わらなければならない――セ・リーグ連覇を果たしながら、日本シリーズではソフトバンクの前に2年連続で4連敗。球界の盟主の座を譲り渡した巨人・原辰徳監督は、就任3年目のキャンプで新たなチーム改造へと乗り出している。「ソフトバンクに勝つためには全ての面でのレベルアップが必要」と語る指揮官を直撃した全3回のインタビュー。第1回はチーム改造の切り札となる桑田真澄投手チーフコーチ補佐就任の全真相を聞いた(全3回の1回目/#2、#3へ続く)。

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「オーナーも即座に『それは賛成だ』と」

――桑田コーチの就任は正直、驚かされました。まず桑田コーチに白羽の矢を立てた理由を教えてください。

「ここ数年、私の中では野球界全体が止まっているような、そんな閉塞感のようなものを感じる部分があったんです。実際に私が監督として巨人に戻ったことも、どこかに先に進んでいないというものもある。もちろん私自身の中では、自分が監督に戻ったことでそういう野球界に一石は投じたという自負はあります。ただ、その中でジャイアンツを動かし、次に繋げるという意味で、非常に気になる人がいた。ここ数年の野球にたいする言動も含めて非常に注目する存在がいた。それが桑田真澄だったということです」

現役時代(1995年撮影)

――具体的にはいつごろから動き出して、どういう経緯で実現したのでしょうか?

「昨年の12月29日だったと思います。山口(寿一)オーナーにお目にかかって、そこで私が『実はオーナー、私は野球界で非常に気になっている人が一人だけいる。それは桑田真澄なんです。彼をスタッフとして迎え入れたいと思っていますが、いかがでしょうか?』と聞いたんですね。するとオーナーも即座に『それは賛成だ』と言ってくれた。そこで次に宮本(和知投手チーフコーチ)に『ミヤ、こういう形で真澄をジャイアンツの一員に迎え入れたい。俺自身も興味あるし、スタッフになってもらおうと思うけどどうだい?』と聞いたら彼も『僕も勉強になるし、ぜひともお願いします』と。その2人だけでしたね、相談したのは」

――そこから桑田コーチ本人にコンタクトをとって、話はとんとん拍子に進んでいったということですか?

「大塚(淳弘)副代表が二軍マネージャー時代から桑田との信頼関係があった。そこでまず、副代表に電話してもらって、それで僕が暮れの30日か31日だったかな、直接電話で話して1月の5日に会う約束をしました」

――就任はその場で決まったのですか?

「話は早かったですね。『僕は野球人として桑田真澄という存在が非常に気になる。あなたはジャイアンツのOBだし、選手に強い影響力を与えて欲しい。あなたの野球観、人生観、そういったものをスタッフの一員として思い切って選手たち……選手だけでなく私に対しても伝えてくれ、暴れてくれ』と話しました。それと『何かあったら必ず、全責任は私が取る。責任を持つし、応援もする。そこは心配しないでくれ』と話しました」

「お金の話、契約の話は一切しなかった」

――就任の条件とかそういう話は出なかった?

「お金の話、契約の話は一切しなかったですね。それでも彼は『嬉しい』と。それを素直に表現してくれました。桑田真澄というのはやっぱり私の思っていた野球人でした。実は私自身は、最初から彼が素晴らしい野球人だとは思っていなかったですよ。でも近年の彼の言動や様々な発信の中で、非常に彼自身がしっかりしたものを築き上げて、それを伝えられるようになっているというのを感じていました。もちろんジャイアンツには色々な立派なOBの方がいらっしゃいます。しかし今、このジャイアンツを次の世代へとつなぐ上で、秀でているのは桑田真澄ということです」

――彼の野球観、野球理論に原監督が共鳴する部分はどこですか?

「まず彼は色んな番組やメディアを通じて、高校生の投げすぎの問題や少年野球での過度なトレーニングの問題について反対の意見を言っていますよね。少年野球や高校野球の現状を知らない人は、プロ的な球数制限で選手を守るなんて、何を高校生に言っているんだという声もある。あるいは根性論も大事なのに、そういうものを度外視しているという意見もあると思います。そのことについて『どう思っている?』と聞くと『実は私はまだ身体が未完成の人たちに対して強い練習、強い投球、球数の多さはマイナスだと思っている。しかしプロ、あるいは身体が出来上がっている選手はボールを投げないとダメです。特に斜面で』という意見なんですね」

「真澄曰く、平面で投げるのはピッチャーじゃない、と」

――斜面で……マウンドでということですか。

「真澄曰く、平面で投げるのはピッチャーじゃない、と。そこの部分を彼は重視しているんですね。だから今は身体の出来上がっている投手が、試合で投げる球数が少ないと思っている。少なくとも135という球数は先発の義務、責任だろうと言っていました。そういう強い主張を話してくれたんですね」

――原監督も先発投手は中6日なら130球前後は投げてもらわないといけないし、100球で交代するなら中4日でローテーションを回すことも考えると話していました。

「そう。それで真澄の話を聞いてなるほど、と。僕も前からそういう感想を持っていたけど、ただ僕はピッチャー出身じゃない。そう思っていても、なかなか強くは言えない。そこをズバッと彼が言った訳ですね。まずそこが、ああ強い仲間が加わってくれたなと思う一つですね」

――野球以外の取り組み方とかそういう考え方でも共鳴する部分はありますか?

「例えば選手の喫煙の問題もあります。そういうことも含めて、選手というのは野球に関して限られた年数で、個人事業主として“お店”を開いているんですから、その限られた時間の中で野球にマイナスになることだけは避けさせたいし、1年でも長く強いパフォーマンスが出るようなことを彼と共に伝えることが大事だと思いますね」

「とにかく人の話をよーく聞きます」

――キャンプで実際の指導を見て指導者・桑田真澄に感じたことは?

「すごく緻密です」

――細かい?

「いや、言葉が適切かどうかは分からないですけど、選手へのアプローチを見ていても、最初は非常に用心深い。言葉を換えれば、我慢強さを持っていますね。とにかく人の話をよーく聞きます。そこから始まる。選手との話の内容を僕に報告したりするときも、やっぱり彼自身の感想や話は、最初には言わないですよ。まず相手に言わせます。質問が来るような環境を作ります。そこは彼も東大の野球部であったり、少年野球であったり、様々な場所で選手と接してきている。そういうところで学んで、さすがだなと思いましたね。非常に我慢強さがあります」

――指導者としての資質?

「コーチ、監督も含めて指導者というのは忍耐力が非常に大事です。僕自身はコーチを40歳くらいで、監督を43歳くらいからやっていてね、やっぱり最初は結論から言いたくなる。何年かして、選手に話をさせる、あるいは聞く忍耐を持つことが、選手本来の良さを引き出し、あるいは欠点も見えてくることにつながると気づくんですね。でもそれを彼はプロの指導者になって最初から分かっているように見えます。動きの中でも選手の側にジーッといますよ。今日もブルペンで見ていると、例えばバッターボックスだとか余計なところには行かない。ずっと同じところからピッチャーを観察している」

――選手もそれだけ見られているというのは感じるでしょうね。

「それと喋り方が、僕みたいにペラペラペラっと喋らない(笑)。あの感じですから。俺は4拍子かもしれないけど、向こうは3拍子のワルツだからね! そこは選手にとっては違ったものを感じるかもしれないですね」

戸郷翔征、直江大輔をエースに育てるための人事?

――桑田コーチがスタッフに加わると聞いた時に、まず思ったことは戸郷翔征、直江大輔投手という同じ右投げの2人がターゲットかな、ということでした。彼らをエースに育てるための人事ではないか、と。

「もちろんそれはありますよ! 技術的なこともそうですし、何より桑田というのはデビューが15歳ですからね。15歳から脚光を浴びて、高校野球、プロ野球とずっとやって40歳くらいまでマウンドに立ち続けてきた。こんな人はいないですよ。そういう経験をしっかりと彼らに伝えて欲しいし、そこは大いに期待するところですね」

――戸郷や直江に何を伝授して欲しいですか?

「これは僕の固定観念もあるかもしれないですけど、やっぱり昔の野球があって、いまの野球、よく現代野球と言われるものがある。もちろんさまざまな環境の変化もあり、そこに合わせてアップデートしていかなければならない部分も当然ある。昔の野球に固執して立ち止まるのも、ある部分ではこれも悪です。でも根本的な質というか、変わっていないところは変わっていないとも思う。そういう部分をうまくミックスして伝えて欲しい」

全てはパ・リーグのパワー野球に対抗するために

――具体的には?

「例えば分業制というのは昔からある。しかしその一方で昔は先発が完投する。先発はまず完投、完封を目指して試合に入っていた。いまは分業制が先にある。7回になったらバトンを渡すことが先発の前提になっている。そういうのは嫌だな、違うなと思っています。分業制は昔からあったけど、先発投手のそういう本質的な強さというのを真澄も求めている。僕も求めています。この2年間、宮本もそういうものへのジレンマを持っていた。

 しかし本当の意味でそのことを力強い声で伝えられるという点では、僕は真澄がうってつけだと思っている。それが先発は135球で完投を目指すというものだった訳ですね。ピッチャーだけではない。全てとは言わないですが、そういう強い野球を目指すのが今年の巨人です。そうしなければとてもパ・リーグの、ソフトバンクの野球に太刀打ちできない。そこを変えていくのが今年のジャイアンツの大きなテーマになります」

 桑田コーチの加入も全てはソフトバンクを含めたパ・リーグのパワー野球に対抗するためのものだった。第2回ではそのチーム改革の具体的な姿を語ってもらう。

(続きを読む。下の関連記事からもご覧になれます)

2020-21年 プロ野球部門 BEST3

1位:原辰徳監督が明かす桑田真澄コーチ就任の真相「最初から彼が素晴らしい野球人だとは思っていなかった。でも…」
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2位:他球団スカウト「その目は節穴かと言われました」 5年前、なぜ他の11球団は“ドラフト9位”佐野恵太を指名できなかった?
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3位:巨人・桑田真澄コーチ「9回完投135球」論の本質 “昔の俺たちは凄かった”的OBと似て非なるワケ
https://number.bunshun.jp/articles/-/847922

文=鷲田康

photograph by SANKEI SHINBUN