東京五輪のマラソンのテストイベントとして5月5日、札幌市で男女約80人が参加してハーフマラソンが行なわれる。男子マラソン日本代表の中村匠吾、服部勇馬、女子マラソンの前田穂南、鈴木亜由子、一山麻緒もコースの下見を兼ねて出場予定だ。

 東京五輪のマラソン開催地は、当初予定されていた東京都内から、酷暑を避ける目的で札幌に変更された。市の中心である大通公園を発着点とし、約20キロを1周、約10キロを2周する周回コースで争われる。

 今回のコースで多くの識者が勝負のポイントになると指摘しているのが、3度通過することになる北海道大学構内(約2.1キロ)だ。中でも前半にあるクランク状のジグザグ道が非常にクセモノ。ここをどのように乗り切るかが勝負のカギを握ることになりそうだというのだ。

「五輪のようなレースなら転倒もありえる」

 そこで、日頃から北大構内で練習をし、コースや気候を熟知している北海道大学陸上競技部員を取材した。5月5日のテストイベントの男子ハーフマラソンに学連推薦選手として出場する川瀬育夢さん(薬学部5年)、昨年の日本陸上選手権男子1500m5位の高橋佑輔さん(理学部4年)、次期キャプテンの宮瀬陸さん(理学部3年)の3選手に攻略ポイントを尋ねると、興味深い見解を聞くことができた。

左から宮瀬陸さん、高橋佑輔さん、川瀬育夢さん

 識者がこぞって注目するジグザグ道は、前述の通り北大構内の前半部分にある。約1キロの距離に、左右交互に訪れる直角の曲がり角が7か所。ここは道幅が約7メートルしかないうえに、曲がり角の間隔が30メートルほどしかない場所もある難所だ。1キロ3分のペースで効率よく曲がるには、コツが要りそうである。

「カーブでは位置取りによって2、3mの差がついてしまう。足も使う。それに、五輪のようなレベルの高いレースなら転倒もありえる」

 そう指摘するのは、川瀬さんだ。練習では接触を避けるためにコースを譲り合うが、五輪本番となればそうもいかない。「国の威信を懸けて走るので、コースを譲れないこともあるでしょう。そうすると体の接触がありえると思う」と言う。

ライバルの余力が見えそうなジグザグコース

 1500mのベストタイム3分42秒32を持ち、ユニバーシアード出場を目指す高橋さんも、「カーブに苦手意識を持っている人もいるので、キーポイントになると思う」と言う。さらに、高橋さんは「曲がった後が建物に遮られて見えない箇所が多いので、曲がった先でスパートをかけて引き離すという戦略にも使えそう」と指摘する。この作戦を使うと、後ろの選手が曲がり角にたどり着いた時には前の選手との差が広がっているので、ダメージを与えることにもなる。

ジグザグ道の一部。正面の第二農場に突き当たり、右折する

 高橋さんは「1キロ3分を切るペースの時、曲がり角では身体を斜め45度くらいに傾けないと減速してしまうかなという感覚」とも指摘する。特に、陸上トラックと逆向きの右カーブを嫌う選手が多いので、そこで失速する選手が出てくるかもしれないと予測している。

 1500m3分58秒07のベストを持つ宮瀬さんは、「カーブで減速するのが苦手な選手は、そこで体力を取られてしまう」と言う。さらに「曲がる時のコース取りを観察して、内側のぎりぎりを攻めているようだと疲れてきているのかなとか、精神的に余裕がないのかなということを推察できる」と加えた。ジグザグ部分ではライバルの余力がどれくらいなのかが見えやすいというのだ。

勝敗を分けるのは「メインストリート」?

 ここまでは注目度の高いジグザグ道について述べてきたが、実は北大陸上部の3選手が勝敗を分けるカギを握ると見ているエリアが別にある。ジグザグ道を終えた後にある約1キロの直線(通称「メインストリート」)だ。この道は両脇に背の高い木々が生い茂り、直射日光を浴びることがほとんどなく、スピードアップをしやすい状態だ。

北大メインストリートは約1キロの直線

 しかも川瀬さんによると、風の影響がありそう。「メインストリートを北から南に向けて走る時は経験上、追い風になることが多く、追い風ならここで急にペースアップする可能性がある。ここで離されてしまうのか、ついていけるのか、自分がペースを上げて離すのか。3パターンあると思う」というのだ。

20、30、40キロ地点もメインストリートに

 また、メインストリートのちょうど中間あたりに20キロ地点、30キロ地点、40キロ地点となる場所があることも、ここでレースに動きが出るかもしれないと予想する理由になっている。「30キロでの仕掛け。40キロでのラストスパート。そういうシーンがあれば、北大生としてはうれしいですね」と川瀬さんは言う。

 宮瀬さんは「40キロ地点だとスピードも上げやすいので、そこでスパートが来ると思う。ただ、カーブで足を使ってしまった人は対応できないのではないか。ここで離されると前がしっかり見えるのでつらいし、離されて単独走になるとよりしんどくもなる」と加えた。

 一方で気候に関しては、「意外と走れるぞ、という感覚になるのではないか」(川瀬さん)という予想を立てている。五輪本番のレースは女子が8月7日、男子が8日で、いずれも朝7時スタート。冬場のマラソンほど好条件ではないにしても、札幌は東京に比べれば涼しく、湿度が低い。コースが平坦なこともあり、スローペースにはならないだろうと見ている。

優勝タイムの予想は「2時間5分」

 北大体育会の学生有志は、昨年11月から新型コロナウイルス対策として大学側が体育会所属の運動部の大会参加や遠征を禁止したことに対して「厳しすぎる」とし、制限の緩和を求めて7000人の署名を集め、4月上旬に大学へ提出した。体育会顧問の有志もこの活動を側方から支援した。その結果、大会参加制限は大幅に緩和され、4月25日には高橋さんが「兵庫リレーカーニバル」に出場し、3分48秒25で4位になった。表彰台に届かなかったのは悔しいが、今季初戦だったことを踏まえるとまずまずの結果でもあった。

北大陸上グラウンドでウォームアップをする陸上部員

 さて、高橋さんと宮瀬さんに男子マラソンの優勝タイム予想を聞くと2時間5分という答えが返ってきた。獣医学部を右手に見て走るジグザグ道での位置取りや、「Boys,be ambitious!」のメッセージで知られるクラーク博士像に向かって走るメインストリートでの仕掛けなど、多くの見どころを楽しんでレースを観戦したい。

メインストリートの

文=矢内由美子

photograph by Yumiko Yanai