わずか48時間で立ち消えとなった欧州スーパーリーグ(SL)構想。その後、各クラブでは何が起きているのか。イタリア、イングランド在住のライターに記してもらった。セリエAでは人気3クラブがそれぞれドタバタ状態で、プロビンチアは怒りに震えているという(プレミア編はこちら)。

「欧州スーパーリーグ事件」が発表されたとき、その創設12クラブにユベントスとミラン、インテルが名を連ねたイタリアでも、多くの批判と反対意見があがった。

 その中で、とりわけサッスオーロのロベルト・デゼルビ監督による"試合拒否発言"は波紋を呼んだ。

 4月19日の計画発表からわずか2日後の21日に、セリエA第32節でミランとの対戦を控えていた指揮官は、現場から最もストレートに激しい怒りをぶつけた。

「SLに加担するミランなんかと試合したくない」

「スーパーリーグに加担するミランなんかと試合をしたくない。サッカーは1人ひとり、万人に開かれたものであるべきだ。どこの何者であっても未来をつくれる可能性があり、より弱き者にも道を開く権利がある。それなのに12クラブがやろうとしていることは、"勉強していつかは外科医か弁護士に"と夢見る工場労働者の子供へ最初から門前払いを食らわすようなものだ。(参加クラブを選り好みして)『キミはよし、オマエはダメ』なんて、サッカーの本質を失くすのと同じじゃないか。私は本当にムカついている」

 デゼルビは試合の前日会見という公の場において、名門3クラブ相手に名指しで喧嘩を売ったのだ。指導者としての将来を閉ざすかもしれないリスクは承知のうえで、それでも物申さずにはいられなかった。

「サッカーは私の命、人生そのものだ。12クラブだけのものにされてたまるか。私は何があってもサッカーを護る」

 スーパーリーグ計画は、発表直後からUEFAやFIFA、各国協会を始め、世界中の監督と選手、OBやファンによる猛反発を招いた。

 イギリスのボリス・ジョンソン首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領に歩調を合わせる形で、イタリアのマリオ・ドラギ首相も早々に「スポーツのもつ価値や社会的機能、国内リーグを守るため、FIGC(伊サッカー連盟)とUEFAを断固支持する」と声明を発表した。

 また、ユベントスのウルトラス連合は「恥を知れ!」とアリアンツ・スタジアムに横断幕を掲げ、インテリスタのセレブたちはクラブの良心たるハビエル・サネッティ副会長へ計画撤退を訴える公開書簡を送った。

『ガゼッタ』でのアンケートでは78%が反対

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙のHPアンケートでは、圧倒的多数に相当する78%がスーパーリーグへの反対票を投じた。

ローマ市内にはユーべのアニェッリ会長の風刺画が©Getty Images

 プレミア勢の離脱が明白になった21日の昼前、計画の旗振り役の1人だったユベントス会長アンドレア・アニェッリが「計画をこれ以上進めることは不可能」と頓挫したことを認めると、正午にはインテルが撤退表明。その約1時間半後にはミランも現時点での計画実現は困難とする発表を行った。

 ミランのパオロ・マルディーニTDが「自分は蚊帳の外だった。まったく知らなかった」と強調したように、スーパーリーグ計画は各クラブのオーナーレベルでしか知り得ない極秘合意だったとされている。

ピルロ監督の表情は冴えなかった

 発表から"事件収束"に至るまで嵐のような2日半が過ぎ去った後、21日夜のセリエA第32節を迎えた3クラブの選手たちは、世界中を敵に回したような大きな戸惑いを抱えていたに違いない。

 パルマ戦に臨んだユベントスは、降格圏に沈む相手にまさかの先制点を許した。DFアレックス・サンドロとDFマタイス・デリフトの伏兵2人が3ゴールを奪い逆転勝ちに成功したが、試合後のアンドレア・ピルロ監督の表情は優れなかった。

 どこもかしこもポジション毎の戦力が整わないうえに、C・ロナウドは音無しゲームが続く。現在4位とあって来季のCL出場権争いはまるで楽観できず、会長肝煎りのスーパーリーグが頓挫したものだから、カメラの前では晒し者扱いだ。

 スーパーリーグに関して質問が飛ぶと「それについては会長とスポーツディレクターが話しただろう」と、我関せずを貫くのが精一杯だった。

 スペツィアに遠征したインテルは、昇格組の地方クラブに足元をすくわれた。

 開始12分でFWディエゴ・ファリアスに先制され、前半の内にFWイバン・ペリシッチのゴールで追いついたが、相手の徹底したハイプレスにもう1点を奪えず終い。

 スクデット獲得はほぼ確実だけあって、選手たちの疲労も考慮した指揮官アントニオ・コンテ監督は1−1のドローでも良しとした。

会長に忖度したのかコンテはUEFAを大批判

 だが、スーパーリーグについての意見を求められたコンテは、途端にUEFA批判を展開。同計画に一度は賛同した張康陽会長に忖度したのか、「UEFAも猛省するべき。選手へ投資するのはクラブなのに、代表戦ではレモンを絞るように選手たちが酷使される。UEFAはずるい。クラブへの分け前が少なすぎる」と捲し立てた。

 スクデットを半分手中にしていても、毒を吐かずにはいられなかった。

 そしてデゼルビから直接喧嘩を売られた格上のはずのミランは、あろうことかホームで1−2の逆転負けを喫した。

 試合後のステーファノ・ピオリ監督は「(CL出場権争いに集中しているために)他のことを話すときではない。そのテーマについて、私は話すべき立場にない」と言及を避けた。

 立場上、口をつぐむ方が賢明には違いない。だが、サッカー界全体が対峙した大事件について及び腰、との印象は否めなかった。

現地メディアが称賛したサッスオーロ

"スーパーリーグ(のレベル)に相応しいのは、ミランではなくサッスオーロの方だ"

 計画へ断固反対姿勢をとった現地メディアはこぞって、デゼルビのチームを称賛した。

意地を見せたデゼルビ監督らサッスオーロの面々©Getty Images

 1点ビハインドで試合を折り返したサッスオーロは、慌てず騒がず、低く速くつないで回す円熟のパスワークを披露し、交代策も誤ったミランの守備陣を完全に崩した。

 後半19分から出場したFWジャコモ・ラスパドーリは、カルチョの殿堂サン・シーロで決めた鮮やかな2ゴールを生涯忘れないだろう。

 4月26日に第33節を終了したセリエAは、勝点68のアタランタがついに2位へ浮上。ナポリとユーベに勝点66で並ばれたミランは、直接対決の結果や得失点差によりまさかの5位へ転落した。

 61ポイントの6位ラツィオまで含め、来季CL出場権争いの行方はまったく読めない。

「欧州スーパーリーグ」計画は頓挫した。

 真夜中の計画発表から、誰もが驚くほどスピーディーにあらゆるアクションが進んだ。各国協会やリーグ機構は緊急で役員会議を実施し、コロナ禍にもかかわらずファンたちは団結して抗議活動を行った。

 デゼルビ曰く「サッカー界のクーデター」は、たった3日間で収束した。

元ラツィオ会長が明かした20年前の欧州SL構想

 事件の全貌を理解する前にいつの間にか騒ぎが終わっていた、という印象を持った日本のサッカーファンもいるだろう。

 すっかり普及したSNSやリモートワークが基礎となりつつある社会構造が、反応の高速化を後押ししたことは確かだ。ただし、それらはあくまで道具にすぎない。

 なぜ、今回の事件に対してイングランド、イタリア、スペイン、他の欧州の人びとは、あんなに迅速な対応ができたのだろうか。

「実は『欧州スーパーリーグ』計画は1998−99シーズンにはすでに存在していて、実現へ動いていた。アイデアを吹き込んできたのは、そのときもスペインのクラブだったよ」

 これは御年81歳になる元ラツィオ会長のセルジョ・クラニョッティが、20日付の一般紙『メッサッジェーロ』において語ったコメントだ。

シメオネらと歓喜を共にする当時のクラニョッティ会長©Getty Images

 当時、ラツィオは紛れもなく欧州列強の一角だった。敏腕投資家だったクラニョッティが98年5月にイタリアで初めてクラブ株式を公開し、市場からの資金調達に成功。巨額の補強を実現したラツィオは、欧州カップ戦で暴れまわった。

「我々の時代のスーパーリーグ構想では、20チーム以上が参加するフォーマットだった。イタリアからは、ラツィオを含めた6クラブだ。欧州だけに限らず、広く他の大陸からも参加させる形だったよ。大会の出資元となる投資銀行などはなかった。我々はただTV放映権料を吊り上げたかっただけなんだ」

「国ごとに存在するリーグを殺してしまっては」

 昔から名優クリストファー・ウォーケンを思わせる顔立ちのクラニョッティは、計画が倒れた理由にも触れた。

「クラブ会長同士で何度も話し合ったよ。だが、最終的には『国ごとに存在するリーグ戦を殺してしまっては何にもならない』という結論に達した。計画はそこで潰えたんだ」

 とはいえ、"国境を超えたエリートリーグ構想"が何度も報道される内に、サッカーを愛する人々は考えざるをえなくなった。

 スーパーリーグという名の怪物は、小さな町のクラブの存在意義を潰しかねない。その潜在的危機意識は、少なくとも20年以上もイタリアの隅々に息づいている。

 だから彼らは欧州スーパーリーグ計画が発表された瞬間、"これはヤバい"と直感した。すぐに動かなければ、権力者の望むように押し切られる。つまり、これははっきりとした階級闘争だったのだ。そして彼らは、抗うべきときに抗った。

「ミラン戦の前に選手たちと話したんだ」

 欧州サッカークラブの歴史は、タイトルの数やメモリアルゲームだけじゃない。今回、欧州社会とファンが見せた"クーデター阻止"のような勝利こそが、しっかりと綴るべき重要な1ページだろう。

 サッスオーロのデゼルビ監督が熱を込めて訴えたのは、そういうことだ。彼には、CLの舞台で思う存分采配を振るいたい、という指導者としての夢がある。

 相手すらしたくない、とまで苦言を呈したうえに逆転勝ちして面子まで潰したのだから、金輪際、彼にはミランから監督就任の誘いはかからないかもしれない。たとえ、ミランがデゼルビにとって少年時代の7年間を捧げた愛着ある古巣であっても……。しかし、彼に後悔は微塵もないのだ。

「ミラン戦の前に選手たちと話したんだ。『人生には、自分の立場をはっきりさせるべきときがある』とね。もし、私が将来(欧州スーパーリーグの創設)3クラブの監督になれなくても問題ない。イタリアでも外国でも、自分で道を切り開くさ」

 セリエAからの離脱を目論んだ3クラブに対して、処分の軽重はまだ決まっていない。残る過半数クラブの反感は強く、感情的しこりはしばらく残るに違いない。

ミハイロビッチ監督はお得意の皮肉調で

「出ていきたいなら、どうぞ出ていってくれ。残った17クラブでリーグ戦をやるさ」

 ボローニャのシニシャ・ミハイロビッチ監督は、お得意の皮肉調で事件を振り返った。旧ユーゴスラビア内戦で本物の死線をくぐり抜けた男は、彼一流のアイロニーの中にいつも傾聴すべき金言を込めている。突き放しながら予言した。

「残念だが、もうここから先はファンがどうこうできるレベルの話でもないし、モラルの問題ですらなくなった。見てるがいい、欧州スーパーリーグ計画は3、4年もしないうちに再び姿を現すかもしれんぞ……」

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文=弓削高志

photograph by Getty Images