巨人の“第3の外国人選手”ゼラス・ウィーラー内野手の快進撃が続いている。

 今季はジャスティン・スモーク内野手とエリック・テームズ外野手の加入で、レギュラーでの起用が危ぶまれたウィーラーだが、新型コロナウイルスの影響で新加入の2人の来日が大幅に遅れて開幕から先発出場のチャンスを獲得。すると開幕のDeNA戦で2安打2打点の好スタート。さらに次カードの中日戦では本塁打を含む13打数6安打の3打点と大暴れして、新加入の2人の不在を感じさせない活躍を見せた。

笑顔も魅力的なウィーラー(2020年撮影) (C)Nanae Suzuki

 しかし好事魔多し。続くヤクルト戦でも2試合で4安打を放って好調を維持していたが、4月4日の試合前、ゲーム直前の円陣に参加しながら、新型コロナウイルスへの感染が発覚して急遽、戦線離脱が決定した。そこから約10日間の入院を経て、16日に二軍の練習に合流。ようやく一軍に戻ってきたのが、23日の広島戦からだった。

テームズが右アキレス腱断裂で途中交代

 しかし復帰したウィーラーを待っていたのは、“第3の外国人選手”としての、苦しい立場だった。27日のヤクルト戦から新加入のスモーク、テームズの2選手がチームに合流。この試合でいきなり2人が揃って先発出場したことで、ウィーラーはベンチスタートとなったのである。

 ところが3回の守備でテームズが右アキレス腱断裂というアクシデントで途中交代。テームズに代わって左翼の守備につくと、そこから今季2号を含む4安打3打点の大暴れをしてみせた。以後は5月5日の広島戦までの7試合で27打数14安打の打率5割1分9厘のハイアベレージを維持して、3日の広島戦の決勝アーチを含む3本塁打7打点と絶好調で、コロナ離脱前から自己最長の14試合連続安打も更新している。

「野球は難しいスポーツ。良くないことがあっても、常に前向きにやるしかないと思っている」

 コロナ禍を乗り越え、外国人選手の厳しいポジション争いをサバイバルしての活躍に、ウィーラーがこう語ったのは3日の広島戦後だった。

 こんな今季の困難も大きな試練だったが、ウィーラーにとっては、昨シーズン中の楽天から巨人への移籍という出来事が、彼の日本での野球人生の大きなターニングポイントになったのは事実である。

2018年、バットが下降線をたどり出した

 2015年から楽天でプレーするウィーラーは2年目の16年には140試合に出場して27本塁打、88打点をマーク。さらに17年は31本塁打82打点とチームの主軸として文句ない働きを見せてきた。加えて持ち前のポジティブなプレースタイルとチームメイトにも溶け込んだムードメーカーとして、チームの評価も高く、長く日本でプレーする下地をしっかり作り上げていた選手でもあった。

楽天でプレーしていたころ(2016年撮影) (C)Hideki Sugiyama

 だが、である。

 肝心のバットが徐々に下降線をたどり出したのは18年のシーズンからだった。この年は6月に盗塁を試みた際のヘッドスライディングで左手人差し指を剥離骨折して約2カ月間にわたって戦線離脱したこともあり、シーズン15本塁打と低迷。19年も6、7月の月間打率が1割台に低迷し、117試合で19本塁打、67打点と復活はならなかった。

 そして20年。前年に33本塁打を放ったジャバリ・ブラッシュ外野手とオリックスから移籍してきたステフェン・ロメロ外野手との争いに敗れて開幕から二軍暮らしが続いていた。

 そこで巡ってきたのが6月25日に発表された巨人の左腕・池田駿投手との交換トレードでの移籍というチャンスだったのである。

 はっきり言って、この時点でウィーラーのその後の活躍を予想していた球界関係者はそうは多くなかったはずだ。

トレード成立の巨人と楽天の“張本人”とは?

 だがトレードを成立させた巨人と楽天の2人の張本人たちは、ウィーラーの爆発の可能性を、ある意味、そのときから“予感”していたのである。

楽天でプレーしていても「おそらく難しかった」

 1人はウィーラーを出した張本人の楽天・石井一久GM(現在は兼任監督)である。

楽天・石井一久監督兼GM (C)JIJI PRESS

「あのままウチでやっていても、おそらく難しかったと思うけど、リーグが変われば、また違う可能性が出てくるとも思っていました。ウチは左ピッチャーの補強というのがあったし、彼(ウィーラー)のチャンスを広げる意味もあって(トレードを)決断したんですね」

 石井GMが語ったトレードの背景だ。

 それではなぜ、あのまま楽天でプレーしていても「難しかった」と思ったのか。その理由を石井GMはこう説明していた。

「やっぱりパ・リーグでは、かなり攻め方を覚えられてしまっていました。そう考えるとむしろ今のウィーラーには、セ・リーグの野球の方が合うんじゃないかというのがあったんですね」

原監督の評価「非常にうまく変化球を拾うことができる」

 一方、もう1人、爆発の“予感”を抱いて獲得に動いた張本人が、巨人の原辰徳監督だった。

巨人・原辰徳監督 (C)Hideki Sugiyama

 ウィーラー獲得直後の原監督の評価。

「もちろん長打力が魅力だが、彼のバッティングは対応力がある。外国人選手特有のイチ、ニ、サンではなく、イチ、ニのサンの“の”の間がある。だから非常にうまく変化球を拾うことができる」

 そしてこの2人の張本人の話を掛け合わせると、ある1つの答えが見えてくるのである。それはリーグ間の野球の違い、パ・リーグの野球とセ・リーグの野球の違いということだった。

 もちろんこれが全てとは言わない。しかしここ数年でより鮮明になってきた両リーグの野球の違い。パワー野球をベースにするパ・リーグに対して、セ・リーグは相手の弱点を突く細かい野球という構図がある。それが最も顕著に出るのが、投手の打者への攻め方だった。

 真っ直ぐ主体に力で押してくる投手が多いパ・リーグに対して、セ・リーグの投手は変化球を含めて相手の弱点をしっかりと突けるピッチングの精度を求める。何度も言うが、これが全てに当てはまるわけではないが、傾向としては明らかに両リーグの違いがそこにはある。

 石井監督の目にはここ数年、真っ直ぐに対して力負けするウィーラーの姿があり、一方、原監督の目には変化球にもしっかり粘って拾えるウィーラーの姿があった。トレードを成立させた時点で、2人の当事者の間にはセ・リーグの野球にフィットできるウィーラー像というのが、ある程度、“予感”として刻まれていたことで、あのトレードは成立したということだったのである。

 もちろんウィーラーが力のあるストレートを全く打てないという意味でもない。事実として昨年の日本シリーズでは、第2戦で石川柊太投手の真っ直ぐを弾き返して、シリーズで巨人唯一の一発となった右越え本塁打を放ってもいる。ただ、これも逆方向に放った技ありの一打で、力でねじ伏せて引っ張ってスタンドまで運んだホームランではなかったのも事実だった。

昨年の日本シリーズ第2戦でのウィーラー (C)Nanae Suzuki

「彼は本当の意味でのパワーヒッターではないからね」

 原監督は言う。

ウィーラー「右中間というのは自分の強み」

 しかしそうやって逆方向へのバッティングや変化球への対応でまだまだ長打を打てる力はある。そういう意味ではパ・リーグよりもセ・リーグの方が活躍の場は広がるというのが、2人の張本人がトレードを成立させた背景だった。

 そしてその期待に応えてウィーラーは、確かにセ・リーグで水を得た魚の如く、溌剌としたバッティングを見せているわけだ。

「しっかりとタイミングがとれている。右中間というのは自分の強みだし、そっちに打てているのは調子がいい証拠。7年間も日本にいるので、それはもう色々なピッチャーを見てきてタイミングを合わせるのがうまくなっていると思う」

 本人がこう語るように3日の広島戦の決勝アーチは、森下暢仁投手の外角真っ直ぐを右中間席へ打ち込んだ。やはりウィーラーの技が光った一撃だった。

 あのままパ・リーグにいたら、二軍で埋もれて今季は日本でプレーしていなかったかもしれない。トレードを決断した2人の張本人の慧眼。そのチャンスを生かし、コロナ禍や様々な困難を乗り越えた本人の力。その2つがあってウィーラーは生き返った。

 この活躍は決してフロックではないということである。

文=鷲田康

photograph by Sankei Shimbun