名手の好騎乗によって、マイル界に将来が楽しみなニューヒーローが誕生した。

 昨年につづいて無観客で行われた第26回NHKマイルカップ(5月9日、東京芝1600m、3歳GI)で、クリストフ・ルメールが騎乗する2番人気のシュネルマイスター(牡、父キングマン、美浦・手塚貴久厩舎)が優勝。外国産馬による同レース優勝は2001年のクロフネ以来20年ぶりで、キャリア4戦での勝利は12年のカレンブラックヒルに並ぶ最少タイ記録となった。

「ペースが速く、シュネルマイスターには忙しかった」

 この日の東京芝コースは3勝クラスのマイル戦で1分32秒0の時計が出る高速馬場。NHKマイルカップも同じくらいかそれ以上に速い時計で決着することが予想された。

 そうしたなか、ゲートが開いた次の瞬間、ハナを切ると見られていた3番人気のバスラットレオンが躓き、騎手が落馬した。もし観客が入っていたら、場内が騒然としていただろう。

 残った17頭のうち、最も速いスタートを切ったのはランドオブリバティだった。体半分ほど抜け出したが、鞍上の石橋脩は手綱を引いて抑え、外のピクシーナイト、ホウオウアマゾンらを先に行かせた。

 川田将雅が手綱をとる1番人気のグレナディアガーズはそれらから2馬身ほど遅れた好位の6番手。

 クリストフ・ルメールが騎乗する2番人気のシュネルマイスターは、さらに3、4馬身離れた中団につけている。

「馬にプレッシャーをかけたくなかった。いいスタートを切ったけど、ペースが速く、シュネルマイスターには忙しかった。でも、だんだん流れに乗ってくれました。呼吸も、手応えもよかったです」

 ルメールがそう話したように、バスラットレオンがいなくても前半800mが45秒3というハイペースになった。後半800mが46秒3だったから、前半のほうが1秒も速かったわけだ。こうなると、前のほうにつけた馬は最後に苦しくなる。

ソングラインがちょうどいい目標に

 ピクシーナイトが先頭のまま3、4コーナーを回って行く。

 コーナーを回りながらポジションを上げたグレナディアガーズが楽な手応えで外から進出し、先頭に並びかけるほどの勢いで直線に向いた。2馬身ほど後ろに池添謙一のソングラインがおり、さらにシュネルマイスターがつづく。

 ラスト400m付近でグレナディアガーズがスパートし、その外にソングラインが併せに行く。ラスト200m地点でソングラインが前に出た。

 ルメールは、その攻防を後ろから見ながらゴーサインを出した。

「エンジンがかかるのにちょっと時間がかかりましたけど、池添さんの馬(ソングライン)がちょうどいい目標になりました」

 完全に抜け出したソングラインの外から、シュネルマイスターが猛然と末脚を伸ばす。1完歩ごとに差を詰め、内のソングラインに並びかけ、そして、鼻差だけ前に出たところがゴールだった。

「馬がやわらかくて、子供っぽいところがありますが」

 勝ちタイムは1分31秒6。レースレコードにコンマ2秒及ばないだけだった。シュネルマイスターは重賞初勝利をGI制覇で飾った。

「2着の馬はちょっとモタれていたと思いますので、そのぶんかわすことができました。届いてくれてよかったです」

 そう話したルメールは、あれだけ激しく追いながら、内のソングラインの僅かな動きまで冷静に観察していたのだ。

「まだ馬がやわらかくて、子供っぽいところがありますが、能力があります。さらにパワーアップしたら、もっと上のレベルでも勝てると思います」

種牡馬としての成功が約束された感も

 弥生賞で2着となり、皐月賞の出走権を獲得していたのに、距離適性を優先してNHKマイルカップを選んだ陣営のファインプレーも見逃せない。

 父キングマンは英愛仏でマイルGIを4勝した名マイラーで、母セリエンホルデはドイツオークス馬という世界的良血だ。

 気の早い話をすると、サンデーサイレンスの血が入っていないシュネルマイスターは、日本の生産界に数多くいるサンデー系の繁殖牝馬とのアウトブリードが可能なので、すでに種牡馬としての成功が約束された感がある。

桜花賞15着から大きく巻き返したソングライン

 2着のソングラインは、桜花賞15着から大きく巻き返して力を見せた。桜花賞でも序盤の不利がなければ、勝ち負けできていたのかもしれない。この馬が好走したことにより、3歳牝馬世代のレベルの高さが証明され、ダービーに挑戦するサトノレイナス(桜花賞2着)の走りを見る楽しみがさらに膨らんだ。

 3着のグレナディアガーズは、ハイペースを追いかけ、直線で早めに動いたぶん、伸び切れなかった。勝ちに行く競馬をした結果のことだからやむを得ないだろう。

 本稿のプレビューで本命にしたランドオブリバティは、逸走しそうな気配も見せず、最後まで走り切った。が、序盤、中盤と掛かり気味になり、エネルギーを小出しにすることになったのが惜しまれる。もう少し長い距離のところで行き切るか、このくらいの距離で序盤から促さずに抑えて、溜める競馬をすれば弾けるかもしれない。いずれにしても、今後も注目したい。

文=島田明宏

photograph by Kyodo News