角田裕毅が謝罪した。

「今日の自分のコメントについて謝罪したい。チームを批判するつもりはなかった。彼らは週末を通して素晴らしい仕事をしている。僕はただ、自分のパフォーマンスに苛立っていただけなんだ。明日は全開で攻めていく」

 いったい、彼に何があったのか。

 問題は、第4戦スペインGPの予選後に起きた。前日のフリー走行で7番手のタイムを記録していた角田は、この日の予選でQ3進出となるトップ10内を目指していた。ところが、Q1の1回目を終えて11番手にとどまった角田は、2回目のアタックで自己ベストを更新したものの、ライバルたちが角田を上回るペースでタイムを更新していったため16番手となり、まさかのQ1落ちとなってしまった。

 予選後、イギリスのテレビ局のインタビューに角田はこう答えた。

「同じセットアップで走っていても、(2人のフィードバックが)いつも真逆といってもいいくらい違う」

 じつは角田は、1週間前のポルトガルGPでも同じコメントを残していた。滑りやすい独特の路面に苦労し、終始、ポイント圏外での走行を強いられた角田は、15位でフィニッシュした後、ひとりしかいない日本人メディアの筆者に、こう不満をぶちまけた。

「チームメートとクルマに関するフィードバックが違っていて、毎回、真反対のフィードバックが来ている。(チームメートの)オンボード映像を見ていても、全然(自分とは)動きが違う。セットアップが同じなのに、真反対のフィードバックっておかしいじゃないですか」

 マシンの状況は大きく改善されず、角田の怒りは1週間後、海外のメディアを通して世界中に伝わることとなった。しかし、問題となったのはこのコメントに続いた、次のひと言だった。

「(チームメートと)同じマシンなのか少し疑問に感じる。もちろん同じだけど、マシンの特徴が違いすぎる」

ドライバーにあるまじき冷静さを欠く発言

 角田は開幕戦以降、走りだけでなく、さまざまな発言でも注目を集めていた。ルーキーにも関わらず、渋滞に引っかかったときの攻撃的な無線は、海外のテレビコメンテーターからも「アイ・ラブ・アングリー・ツノダ」(怒った角田は最高だね)と話題となったほどだった。

 しかし、そんな海外のメディアも「チームメートと同じなのか」という今回のコメントに関しては否定的だった。なぜなら、チームが2人に平等にマシンを準備するというのは、F1の根本的なフィロソフィだからだ。

 マシンやエンジンは人間が作り、組み立てるものだから、そこには若干の個体差は発生する。さらに物理的に最新パーツが1台分しか用意されない場合には、どちらか一方だけがそれを使用することはある。しかし、その場合は2人のドライバーに了解を得ることが基本であり、チームが故意に2台のマシンに差をつけることはないことは、この世界の基本的原則。角田の「同じマシンなのか少し疑問」という発言は、その基本的原則に対して異議を唱えたということで、海外のメディアが色めきたつこととなった。

大人たちに許された角田

 さらにこの日、角田はもうひとつ、謝らなければならないコメントを発していた。それは予選でQ1落ちした直後のチームに向けられた無線だった。

「I can't drive f○cking this car」(こんなク○マシンじゃ戦えないよ)

 1台のマシンを作るにはパワーユニットも含めれば、開発・製造を含めて、1000人以上が携わっている。そのステアリングを握るドライバーは、彼ら1000人の代表でもある。優勝したドライバーがサーキットで一緒に戦うエンジニアやメカニックだけでなく、遠く離れたファクトリーで仕事している多くのスタッフに向けて、感謝の言葉を送るのはそのためだ。

 そんなスタッフたちを傷つける発言を、角田はしてしまった。

 これには、角田の才能を買い、レッドブル・ジュニアチームに加入させたヘルムート・マルコ(モータースポーツアドバイザー)も「愚かな発言」と一刀両断に切って捨てた。

 ただし、マルコは同日、SNSを通してチームに謝罪した角田を「もう終わった話」と許し、決勝スタート前のグリッド上で笑顔で激励していた。

決勝レースでは7周目にマシントラブルでリタイヤ。角田にとっては散々な週末となった

 さらに、異なるマシンに乗っているのではないかと疑われたチームメートのピエール・ガスリーも冷静な対応を見せた。

「あれは、Q1落ちした直後のかなり感情的なタイミングでのコメント。精神的にコントロールできていないときの発言だと僕は受け取っている。ユウキはまだ若く、しかもルーキーだ。僕は彼がこれからいろんなことを学んで、成長していくと信じている」

 一流のドライバーを目指すのなら、コース上でのテクニックだけでなく、コース外での振る舞いもレベルアップさせなければならない。そして、それをスペインGPで最も強く味わったのが、角田だったのではないだろうか。

文=尾張正博

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