阪神タイガース前監督の金本知憲がワイン通の一面を持つことは、あまり知られていない。自宅にはワインセラーも保有。特にお気に入りは、白ワインよりも熟成された赤ワインだ。監督業を離れて、はや3年。野球のことを考えずにグラスを傾ける日も増えただろう。現在は野球評論家、解説者としてネット裏から白球を追う。

「今年は阪神が好調だな」

 そんな野球ファンの声は前監督の耳にも届いているに違いない。

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 2021年、日本のプロ野球は昨年に続いてコロナ禍でスタートした。開幕前には多くの野球評論家たちが順位を予想。セ・リーグの優勝候補には3連覇を狙う巨人と阪神の2チームが多く挙がった。その見立て通りの戦いがシーズン序盤から展開された。

 3月26日の開幕から1カ月が経った4月26日時点で阪神は25試合を消化して18勝7敗で勝率.720を誇った。順位は堂々の1位。一方、リーグ2位のヤクルトは25試合を消化して13勝8敗4分けで勝率.619だ。3位の巨人は27試合を消化して14勝9敗4分けで勝率.609。首位とはわずか3ゲーム差で追走していた。

 阪神は開幕3戦目の3月28日のヤクルト戦(神宮)で2019年3月30日以来729日ぶりの単独首位に躍り出た。4月4日の中日戦(京セラドーム)で再び単独首位に返り咲くと、その後は首位を堅持。見事なロケットスタートを切った。

20勝一番乗りに喜ぶ阪神ナイン(4月30日)©KYODO 

「やはり巨人と阪神の2強ですね。選手層、戦力を比較すれば巨人よりも阪神の方があると思いますね」

 評論家だけでなく、他球団のスコアラー陣も戦力は阪神の方が「上」と評価していた。15年間もリーグ優勝から遠ざかっているチームがシーズンに入っても「好調」をキープ。その要因は何か? 当然ながら選手の活躍がチーム成績に直結していることは明らかな事実。その選手たちの多くは近年のドラフトで入団した若虎たちなのだ。

 ここで開幕スタメンに名を連ねたメンバーを紹介する。

 ジェフリー・マルテ、ジェリー・サンズの外国人選手を除くと、開幕スタメンの中で最年長は捕手の梅野隆太郎で29歳。最年少は外野手の佐藤輝明で22歳だ。助っ人も含めたスタメンの平均年齢は27.3歳。確実にチームが若返ったことは数字でも裏付けられている。この新生タイガースを支える若手選手の多くが金本監督時代に入団してきた。

<2021年阪神の開幕スタメン>
(中)近本光司/26歳
(二)糸原健斗/28歳
(一)マルテ/29歳
(三)大山悠輔/26歳
(左)サンズ/33歳
(右)佐藤輝明/22歳
(捕)梅野隆太郎/29歳
(遊)木浪聖也/26歳
(投)藤浪晋太郎/26歳

※年齢は開幕戦(3月26日)時点

「他球団の情報に振り回されるようなことになってしまうとおかしくなる。信念をもって、監督の力を借りて。選手を見る目は、慧眼(けいがん)であるし、十分フロント、スカウト陣と意見を合わせて(やっていく)」

 当時の坂井信也オーナーはドラフト戦略においても金本に全幅の信頼を置いていた。歴代オーナーの中でも突出してドラフト候補となるアマチュア選手にも精通。毎年、ドラフト会議では将来を見据えた指名と、即戦力として指名する2つのバランスが重要となる。勝敗の責任を負う現場トップの監督としては即戦力となる選手の指名を求めたがる傾向にあるのは当然だ。しかし、金本の考えは監督就任当初から一貫。将来を見据えた指名を最優先に、まさに球団と一丸となり戦略を練った。

交代を命じる金本監督と矢野コーチ(写真は2017年) ©Kiichi Matsumoto

整った選手よりも「可能性」

「最低3〜5年後を見ないといけない。(生え抜き選手中心で勝つためには)1、2年では難しいと思う。でも、目指すところはそこだと思っている。いい素材を獲ってきて鍛えて育てて、そこを目指してほしいと(球団からも)言われている。僕もそう思う。そのために(監督に)選ばれたとも思っているから。便利屋といいますか、そこそこの整った選手というよりは、やっぱり将来、大きな大木になり得る、可能性をもった選手を指名していきたい」(金本)

2015年秋季キャンプ ©Nanae Suzuki

 監督としての意向などをトップダウンでスカウトに伝えることは簡単なことだ。しかし金本は舞台裏で動いていた。ドラフト会議の前夜には必ずホテルの自室で球団とスカウトが中心となり、リストアップした候補選手の映像を深夜までチェック。その作業を夜明けまで続けて本番に臨んでいたという。

 また、クロスチェックを目的に球界の人脈を生かして監督自らが他球団のスカウトに「この選手は、正直なところ、どう評価しています?」などと冷静な評価を求めることもあった。

 ペナントレース中の多忙な合間を縫って、実際に候補選手の試合を極秘視察していたこともあった。時にはトレーニングの専門家にも助言を仰ぎ、候補選手の筋肉量など肉体面などの細かい数値もチェック。阪神の歴代監督の中でも、ここまでドラフト戦略に時間を割いた監督は少ない。球団にとって長年の課題でもあった「チームの中心となる生え抜き選手」の獲得、育成に尽力した。

「1、2年では難しいと思うが、(生え抜き育成の見本として)目指すのは球団もそこ(広島)だと思っている」(金本)

 阪神と前監督が描いていた青写真は実現しつつある。

 今年、球団としては47年ぶりに外国人選手以外、すべて生え抜き選手が開幕オーダーに並んだ。入団5年目の大山悠輔は負傷を理由に現在は戦線離脱しているものの、開幕から31試合に4番として出場。5年目の糸原健斗、6年目を迎えた青柳晃洋らの主力を筆頭に5年目の小野泰己、4年目の馬場皐輔、6年目の坂本誠志郎、6年目の板山祐太郎、4年目の熊谷敬宥らが一軍で活躍。また、6年目の高山俊、4年目の高橋遥人なども二軍でスタンバイしている。すべて金本政権で誕生した選手たちだ。

 1年を通してアマチュア選手を追う、スカウトの仕事と意見を最大限に尊重しながら「将来の阪神を担う」逸材を数多く指名してきた。

2017年ドラフトで仙台大・馬場皐輔の交渉権を引き当ててガッツポーズを見せる金本前監督 ©KYODO

 5月13日時点でも阪神は首位に君臨している(25勝10敗2分、勝率.714)。その裏で改めて金本の“眼力”は注目されており、周囲からは改めてスカウト能力を評価する声が聞こえてくる。

「特に糸原や青柳などは、金本監督ではなかったらプロにはなっていないかもしれない」

 そう振り返る関係者もいる。

「最低3〜5年後を見ないといけない」

 金本の言葉通り、期待の若手たちは入団から数年の時を経て確実に“熟成”。阪神は2005年以来となるリーグ優勝を目指してトップを走っている。チームの中心にいる“金本チルドレン”の活躍が悲願達成のカギを握っているかもしれない。

 勝利の陰で前監督の功績もクローズアップされている。

文=豊島和男

photograph by Nanae Suzuki