大会史上最年少の19歳351日での優勝――笹生優花(さそう・ゆうか)が大激戦となった畑岡奈紗とのプレーオフを制し、76回の歴史を誇る「全米女子オープン」で日本人として初制覇を達成した。日本人女子のメジャー制覇は樋口久子、渋野日向子に次ぐ3人目。さらにフィリピン国籍も有する笹生の優勝は、フィリピン勢としては男女通じて初のメジャー制覇となった。
 そんな偉業を成し遂げた19歳は、一体どんな選手なのだろうか。昨年、国内ツアー初優勝を飾った後に配信した記事を特別に再公開する(初出:2020年8月18日)

「夢はアニカ・ソレンスタムの記録に迫ることです」

 堂々とそう言ってのけるのは、国内女子ツアー2戦目の「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント(軽井沢72ゴルフ 北コース)」で初優勝した19歳の笹生優花(さそう・ゆうか)だ。

 アニカ・ソレンスタムといえば、米女子ツアー通算72勝、そのうちメジャーは10勝と圧倒的な強さで、女子ゴルフ界をけん引したプロゴルファー。賞金女王も8度と輝かしい経歴の持ち主でもある。

 そんな伝説のゴルファーの記録に迫りたいと本気で思っているのだから、その思考からして“規格外”だ。

魅力は“規格外”の飛距離

 もっとも“規格外”なのは頭の中だけではない。近年の日本の女子プロゴルフ界では珍しい剛腕でもある。

 19歳にしてドライバーショットの平均飛距離は260ヤードと規格外。特にNEC軽井沢72の最終日、16番パー5でのプレーが圧巻だった。

 ドライバーでのティショットが追い風に乗り283ヤード地点に止まる。男子プロも驚くビックドライブだ。そして残り195ヤードのところで、選んだのはなんと6番アイアン。一般男性なら6番アイアンでの距離は約150ヤードといったところだろうか。それよりもはるかに飛ぶということになる。実際に放った2打目はピンの手前約2.5メートルにつくと、これを沈めてなんなくイーグルを奪取。

 笹生がこれまで経験してきたものが、このホールに集約されていたような気がした。

プロ2戦目にして初優勝を飾った笹生優花(2020年)©︎Getty Images

 最終的に1イーグル、7バーディ、ノーボギーの63(コースレコードタイ)で回り、通算16アンダーで2位タイの若林舞衣子、藤田さいきに4打差をつけての優勝だった。

 プロテスト合格後から門下生として指導を仰ぐ師匠のジャンボ尾崎からも、まずは1勝したということで「パワーとスピードを兼ね備えた体を作りあげた。本人の努力以外になし。アメリカでトップになりたいと意識をしていたが、見えてきたのではないか。まずは1勝。良かった」とメッセージを受け取った。

 笹生自身も日本ツアーでの優勝はまだ通過点に過ぎず、「いずれ米ツアーQT(予選会)を突破して、アメリカへ渡る」という強い気持ちでいる。

14歳まで徹底した下半身強化

力強いスイングで“最高難度のメジャー大会”と言われる全米女子オープンを制した笹生優花 ©︎Getty Images

 笹生は日本人の父とフィリピン人の母との間に生まれた。4歳のころに来日し、そこからゴルフを始めた。ゴルフの楽しさにのめりこむと、本気でプロを目指したいと思い始める。

 8歳のときに「プロになりたい」と父・正和さんに嘆願したというが、本気でプロになるためには環境のいい場所でゴルフをする必要があった。

 そこで正和さんは一念発起。再びフィリピンへ向かい本格的にゴルフを始めるように勧めた。娘が本気でプロの世界でやっていくためにも、みっちりと過酷な練習とトレーニングを娘に課した。朝5時から足におもりをつけてのランニングと自転車こぎ。さらに80kgのバーベルを担いでのスクワットなど、下半身強化に努めた。これを14歳まで徹底的に続けたというのだから驚きだ。

 そんなトレーニングもあってか、飛距離は伸び続け、いつしか世界に通用する選手へと成長する。

 14歳のときはプロのフィリピン国内ツアーではアマチュアながら優勝し、2016年の世界ジュニアでは2位(畑岡奈紗が優勝)の成績を残した。さらに'18年のアジア大会では、団体と個人で金メダルを獲得。'19年の第1回オーガスタナショナル女子アマでは安田佑香と並ぶ3位タイに入って、日本でもその名をとどろかせたのは記憶に新しい。

 彼女は英語も堪能で、5カ国語を話すという。国際感覚が豊かで、ゴルフの才能もある。彼女の思考が世界に向くのもうなずける。

 ただ、彼女の人生設計に少し狂いが生じたのは、昨年の米女子ツアーのQT(予選会)に失敗したことだろう。今ごろは米ツアー出場権を得て、アメリカに渡っていたはずだが、すぐには叶わなかった。だが、日本のプロテストに合格し、QTも28位で突破。今季前半戦の出場権を手にしたことで、日本ツアー参戦の道が開けたのだ。

プロ2戦目でV、自粛の影響もなし

 そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本女子ツアーは中止が続き、6月の「アース・モンダミンカップ」から開幕。ここで笹生は5位タイに入って好調を維持。2戦目のNEC軽井沢72で優勝したのだからたいしたものだ。

 父・正和さんは娘とのここまでの道のりについてこんな話をしてくれた。

「3月から試合の中止が続き、ジャンボ(尾崎)さんのところにも新型コロナの影響で行けない日が続きました。なのでほとんどコースに出て実戦ができなかったんです。家にある鳥かごに打ち込んだり、トレーニングをしたりして過ごしていました」

 実戦から遠ざかったせいで、調子を狂わせる女子プロゴルファーも多い。だが、笹生は新型コロナによる影響を微塵も感じさせない堂々としたプレーだった。

 自分のゴルフを実戦で発揮できた要因について、正和さんはこう語る。

「知り合いのツテで、長野県の蓼科にあるゴルフ場で3泊4日で、12〜13ラウンドくらいみっちり実戦ができたのは大きかったと思います。それにラウンドできなくても、日頃から試合を想定した調整を本人が考えてやっていたんだと思います。

 あとは(優勝の要因は)飛距離です。アース・モンダミンカップのカメリアヒルズカントリークラブは全長6622ヤード、NEC軽井沢72ゴルフの北コースも全長6710ヤードと比較的長いコース。距離が長ければ必然的に飛ぶ選手が有利になります。今までの経験と実績、ゴルフに対する考え方やアプローチの仕方が大きかったのだと思います」

 子どものころからゴルフを教えてきた父だからこそ、娘の長所がよくわかる。正和さんは「(優花は)アスリート的な思考でゴルフを捉えている」と言っていた。

 笹生の憧れでもあるタイガー・ウッズもゴルフ界に“アスリート”という概念を生んだ選手である。笹生はプロゴルファーという職業が、世界でどのような存在であるべきかをすでに理解しているということだろう。

掲げていた「壮大な夢」

 そういう意味では、笹生にとって日本ゴルフ界はすでに狭い世界なのかもしれない。正和さんが続ける。

「優花も優勝したあとまったく泣いていませんでしたよね。彼女にとって優勝はうれしいことだと思いますが、本当に通過点でしかないんだと思います。アメリカのツアーで活躍することが目標ですから」

 アニカ・ソレンスタムの記録を超えるのは並大抵なことではない。だが、これからも続けていく努力と思考は、笹生の壮大な夢を少しずつ現実へと変えてくれるに違いない。

2020年時点では「壮大な夢」だった米ツアー優勝をメジャー制覇という形で達成した ©︎Getty Images

文=キム・ミョンウ

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