またしても「一強」が敗れ、波乱の結末となった。

 GI馬6頭の豪華競演となった第71回安田記念(6月6日、東京芝1600m、3歳以上GI)で、川田将雅が騎乗する8番人気の伏兵ダノンキングリー(牡5歳、父ディープインパクト、美浦・萩原清厩舎)が優勝。

 単勝1.5倍の圧倒的1番人気に支持されたグランアレグリアは頭差の2着に敗れた。オークスでのソダシ、ダービーでのエフフォーリアにつづき、マイル界の絶対女王も勝利を手にすることはできなかった。

閉じ込められたグランアレグリア

 波乱の気配は、道中の位置取りからも感じられた。

 ダイワキャグニーがハナに立ち、トーラスジェミニが2番手。主導権争いが激しくなれば、もっとペースが速くなっていただろうが、ゲートから1ハロンほどのところで先行集団の馬順は固定された。

 向正面なかほどで、先頭から最後尾までは10馬身あるかどうか。前半800m通過は46秒4。稍重だった昨年の45秒7、今年と同じく良馬場だった一昨年の45秒8よりかなり遅い流れになった。

 ダノンキングリーは先頭から5馬身ほど離れた中団。クリストフ・ルメールが騎乗するグランアレグリアは、そこから2馬身ほど後ろにいて、外を他馬に塞がれている。

 スローな流れのなか、後方で閉じ込められたままでは、突出した瞬発力を持つグランアレグリアといえども苦しくなる。3、4コーナーでも外には出ず、そのまま馬群のなかを進んで直線に向いた。

 直線入口、グランアレグリアの前には分厚い他馬の壁が形成されていた。

 まったく行き場がない状態だったのだが、グランアレグリアの首を押すルメールの手はずっと動きつづけており、手綱を引いてブレーキをかけることなく、前が開くのを待っている。このあたりの冷静な手綱さばきはさすがというべきだろう。

ダノンキングリーの前は綺麗にひらけて

 進路を見つけられずにいたグランアレグリアとは対照的に、外に持ち出したダノンキングリーの前は綺麗にひらけていた。

「道中のリズムがよかったことで、トモの動きもよかったですし、そのぶん、いい雰囲気で溜めることができました。これなら動いて行けるという感触を得ながら直線に向くことができました」

 そう話した川田は、そこから真っ直ぐダノンキングリーをスパートさせた。

 ラスト400m地点でも、まだグランアレグリアの前は塞がっていた。この時点で、ダノンキングリーは、グランアレグリアより馬2頭ぶんほど外の、首か半馬身ほど前に出ているように見えた。

 ラスト300m付近で、ルメールは右ステッキを入れてグランアレグリアを内に誘導した。内に切れ込みながら鋭く伸び、ラスト200m付近で、インディチャンプとトーラスジェミニの間に進路を取った。ようやく目一杯追える状態になった。

 ラスト100m付近でインディチャンプが先頭に立った。その内からグランアレグリアが凄まじい脚で伸び、インディチャンプを競り落とした。連覇達成かと思われたが、外からダノンキングリーが川田の右鞭を受けて猛然とストライドを伸ばす。

 内のグランアレグリアと外のダノンキングリーが馬体を離したまま、ほぼ横並びでゴールを駆け抜けた。

 1分31秒7の勝ちタイムで、ダノンキングリーが頭差の勝利をもぎ取った。

皐月賞3着、ダービー2着の実力が戻ってきた

 テン乗りで、相棒に初めてのGIタイトルをプレゼントした川田はこう話す。

「素晴らしい走りをしてくれました。これまでたくさんともに競馬をしてきましたし、ずっと見ていましたので、いろいろとイメージして競馬を迎えました。なかなかGIで結果を出せずにいましたが、こういうメンバーでも勝ち切れるのがこの馬の本来の姿だと思います」

 昨年の天皇賞・秋で最下位の12着に敗れて以来7カ月ぶりの実戦だった。これは安田記念がGIに格付けされた1984年以降、最長レース間隔での勝利である。

 勝ち鞍を挙げたのは、昨年3月の中山記念以来。その中山記念では、ラッキーライラック、ソウルスターリング、インディチャンプといった錚々たるメンバーを負かしている。さらに遡ると、デビューから3戦全勝で一昨年の共同通信杯を勝ち、皐月賞3着、ダービーでは首差の2着と世代屈指の力を見せていた。川田のコメントのとおり、本来の姿に戻ったというところだろう。

シュネルマイスターやサリオスは

 一方、グランアレグリアは、ルメールが「いいポジションを取れませんでした」とコメントしたように、あえて控えたわけではなく、ヴィクトリアマイルのときのような活力がなく、思ったよう立ち回れなかったようだ。やはり、デビュー以来初めての中2週という詰まったローテーションだったため、馬に気持ちが乗り切らなかったのか。今回は、ルメールの腕と地力で2着を確保した。

 3着には3歳馬シュネルマイスターが飛び込んできた。斤量差があったとはいえ、一昨年の覇者インディチャンプ(4着)に先着したのだから、やはり強い。

 3番人気のサリオスは8着。課題とされていたトモの踏ん張りが利かず、理想的な競馬をすることができなかった。これまで見せてきた強さと、力を出し切れずに苦しむ現在の姿は、昨年のダノンキングリーに重なる。本来の姿を取り戻し、復活する日を待ちたい。

文=島田明宏

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