笹生優花の優勝で幕を閉じた「全米女子オープンゴルフ」。大会史上最年少優勝(19歳351日)という偉業をレンズ越しに見届けたカメラマンと、試合の模様を近くで見守ったラウンドレポーターによる現地レポートをお届けする。

「SASO」と「HATAOKA」

 第76回全米女子オープンゴルフ最終日プレーオフ。リーダーボードには笹生優花(19歳)、畑岡奈紗(22歳)の2人の名前が堂々と表示されていた。昨年と違って有観客となった会場には、2人のショットに拍手と歓声が巻き起こり、時折に「Yuka!!!」や「Nasa!!!」と声援も飛んだ。

 初代世界アマチュアランク1位で、同大会を放映したWOWOWのラウンドレポーターを務めた片平光紀は、史上初のプレーオフ日本勢対決となった要因を“ラフからのマネージメント”に挙げた。

 全米女子オープンの戦いの舞台となったオリンピッククラブ・レイクコース(6457ヤード、パー71)は、名門難コースとして知られる。そこでもっとも選手たちを苦しめたのが“深いラフ”だった。

「ラフに入ったボールを近くで見ると、埋まっているというか。もう、どうやって出すんだろうと思うぐらいの深いラフで……」(片平)

 多くの選手は一度ラフにボールを置くと、まずはしっかりと脱出することだけを考える。ところが笹生と畑岡は違った。たとえボールがラフに入っても、積極果敢にバーディチャンスを作っていったのである。

多くの選手たちが悩まされた深いラフ ©︎Shizuka Minami

パワーがあるから、攻めることができた

 それはスタッツにも表れていた。下記は、4日間通じた2人の「ドライバーの平均飛距離」、「フェアウェイキープ率」、「パーオン率」、「平均パット数」の数値とその順位である。

《笹生優花》
251.3ヤード/24位
59%/43位タイ
65%/8位タイ
28.25/8位タイ

《畑岡奈紗》
259.1ヤード/10位
57%/48位タイ
63%/19位タイ
28.00/6位タイ

 注目したいのはフェアウェイキープ率だ。2人とも約半分以上のホールでラフからのショットを強いられている。

「女子ゴルファーは男子ほど力がないため、下からボールをあげる打ち方(払いうち)をする選手が多いんです。払い打ちだと、フェアウェイに出すだけになりがちです。一方で、両選手はしっかりフェースのコントロールをして、ボールを上から打っていました。つまりパワーがあるから、ラフからでもグリーンを攻めていけたんです」(片平)

5番、ラフからショットを放つ笹生 ©︎Shizuka Minami

 プレーオフでもそれは顕著だった。1ホール目、ティショットを左サイドのラフに置いた畑岡は、プレッシャーがかかる2打目をピンまで約5mの位置につけた。笹生も3ホール目でラフから果敢にグリーンを攻めたことが、結果ウイニングパットに繋がっている。

 では、2人の勝敗の分かれ目は何だったのか。

「ボールの落下地点の弾み方だったり、本当に小さな差、もはや運だと思います。(畑岡も)フェースのコントロールやドローとフェードなど打ち分けもしっかり出来ています。(敗れたからといって)今の畑岡選手に技術的な面で足りないところは感じません」(片平)

 実際に畑岡は試合前に「(ゴルフの)調子がいい」と笑顔を見せていた。前週のマッチプレーをきっかけにグリップを変えたことで、スイングの感覚が戻ってきたという。昨年から悩んでいたテークバックがしっくりくるようになった。

 正直でストイックな性格な畑岡が「良い」と言い切るのはすごく珍しい。畑岡が17歳でプロに転向したルーキー時代からずっと見てきた片平は「(本人から)『手応えを掴んでいる』と聞いたのはプロ5年目して、初めてだったかもしれないです」と思い返す。

 19歳で米ツアー初優勝を挙げて以降、メジャー制覇を目標にアメリカを拠点に活動してきたが、あと一歩、ビックタイトルに届かなった。その悔しさは容易に想像できるが、勝敗が決まった瞬間、ともに激戦を演じた笹生をハグで祝福した。最後までスポーツマンシップを見せたところに精神的な成長も感じる。この悔しさをバネにさらなる飛躍を期待したい。

悔しさが募るシチュエーションでも、優勝した笹生を祝福した畑岡 ©︎Shizuka Minami

安定していた笹生のゴルフ

 一方、笹生は4日間を通して69/67/71/73と1日たりとも大幅にスコアを崩すことはなかった。勝ち切った要因を片平はこう語る。

「ラフからのコントロールが上手くて、グリーン周りの技をいっぱいもっています。ラフのライ(地面の状態)であまり悩む素振りがなく、笹生選手自身のイマジネーションで打ってるような印象を受けました。ジュニアの頃から海外の試合に出場し、様々なコースや芝に対応していたことがメジャーを制した勝因の1つだと思います」

 父のゴルフ練習についてきた笹生が「プロになりたい」と口に出したのは8歳の頃。ポーラ・クリーマー(米国)が全米女子オープン(2010年)で優勝したシーンをテレビで見たことで、その思いを強くしたという。父親の正和さんから「プロになるには他のことをいっぱいあきらめないといけないよ。これから楽しいこといっぱいあるから、今から選ばなくてもいいのに」と諭されても、ゴルフをさせてほしいと涙を流して懇願した。

 娘の熱意に動かされた正和さんは、妻の故郷であるフィリピンへ1カ月ほど連れて行ったことがある。それは日本よりも金銭面で安くゴルフができるからだった。

「ほんとは月曜日休みなんだけど、頼んで毎日ゴルフ場へ行きました。子供って飽きて帰りたいって言うもんだけど、『お腹減った』とか、『帰る』とも言わずに、ずっとやっていたから、これはほんとに好きなのかなと」(正和さん)

 その後、本格的にゴルフをするためフィリピンに移住した。その翌年にフィリピンの予選会に受かり、USキッズの試合に出たことを皮切りに、この11年間で16カ国へ転戦し、年間約32〜36試合に出場した。全米女子オープンにはアマチュア時代を含めて、今回で3度目の出場だった。まだ19歳とはいえ、アメリカのコースやセッティングの経験をかなり積んでいたのだ。

優勝を実感し、涙ぐむ笹生 ©︎Shizuka Minami

 笹生はホールアウト後のインタビューに英語で応じ、「優勝できるとは思っていなかったです。とにかくここにいられること、ここでプレーができることがうれしいと思っていました。本当に信じられません。とにかく家族に『ありがとう』と言いたいです。家族がいなければ、私はここにいなかったです」と話し、涙を堪えきれなかった。そして、言葉を詰まらせながら「もっともっと、これからも頑張りたい」とさらなる活躍を力強く誓った。

 片平は、改めて両選手を讃える。

「全米女子オープンは、今の女子ゴルフ界で最高峰の大会。女子ゴルファーなら誰もが憧れ、獲りたい栄冠。だから、最終日の途中まで首位だったレキシー・トンプソン(米国)がだんだんナーバスになり、それがゴルフにも影響してスコアを崩してしまいました。そんなプレッシャーがかかる状況で、両選手ともメンタルをコントロールし、素晴らしいプレーをしたと思います」

プレーオフ前に説明を受ける2人。メジャー最難関と呼ばれる全米女子オープンを盛り上げた ©︎Shizuka Minami

 わずか約半月後には、今季3つ目のメジャー「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」が開幕する。畑岡、笹生はもちろん、今回予選落ちを喫した渋野日向子らも出場する。

 今年は松山英樹がマスターズを、そして笹生優花が全米女子オープンを制した。その前には17歳の梶谷翼がオーガスタ女子アマチュアを制している。相次ぐ日本勢の快挙に沸く、ゴルフ界。次回のメジャー大会にも、つい活躍を期待してしまうのは筆者だけではないだろう。

文=南しずか

photograph by Shizuka Minami