プロ入り5年目。佐々木千隼投手が一軍マウンドで存在感を見せている。セットアッパーとして6月8日時点で4勝1セーブ。チームの躍進に大きく貢献をしている。

 ストレート、シンカーに加え、中でも大きな武器になっているのが特殊な曲がりをするスライダーだ。マスクをかぶることが多い柿沼友哉捕手はこのスライダーを「奥行きのある変化球」と証言をする。

「スライダーが普通とは違っていて、奥行きがあります。スラーブといえば、いいのでしょうかね。カーブに近い感覚の球。バッターはタイミングが合わせにくいと思いますよ」

 スライダーを武器に凡打の山を築く。ただ、そこにはもちろんピッチングの大前提がある。ストレートあっての変化球だ。

「今年はストレートに例年以上に強さがあります。スピードガンよりもはるかに速く感じます」(柿沼)

昨季はわずか5試合登板のみ

2016年ドラフト、交渉権を獲得して右手を上げるをロッテ・山室晋也球団社長 ©Sankei Shimbun

 2016年のドラフトにて、“外れ1位”ながら異例の5球団競合の末、鳴り物入りでマリーンズへやってきた佐々木千。1年目こそ先発で4勝を挙げたものの、翌18年は右ひじを手術して一軍登板ナシ。19年は2勝、20年は春季キャンプで右肩を痛め大きく出遅れ、わずか5試合の登板で未勝利に終わった。

 勝負の5年目――先発ではなくセットアッパーとして再出発した。

 セットアッパーとしての可能性を見出した吉井理人投手コーチは「ドラフト1位の実力ですよ」と前置きをしながら語り出す。

「本来は体が強い子。去年、1年間しっかりと体を作って今年は春のキャンプから中盤に投げる形を試していた」

 当初は外国人のホセ・フローレス投手とのポジション争い。2月18日に沖縄本島で行われた東北楽天ゴールデンイーグルスとの練習試合(金武)では2回を無失点に抑えると、その後も練習試合、オープン戦を通じて結果を出し、アピール。一軍の切符を手に入れたのは背番号「11」だった。

「彼が自力で勝ち取ったポジション。練習試合、オープン戦を通じて投球内容を見ていて中盤をロングで任せられるいいピッチャーが見つかったぞと思ったね」と吉井コーチ。

 そして柿沼と同じようにスライダーを評価した。

「なかなかああいうスライダーはない。130キロ台でギューンと曲がる。横のカーブに近いね」

 そして、なによりも佐々木千にはマウンドでの独特のセンスの良さがあると同コーチは言う。

「勝負勘のある子。ストレート、スライダー、シンカーの3つでうまく抑えている。駆け引きの出来る子。相手の狙っている球とかを瞬時に見抜く力がある」と全幅の信頼を寄せる。

首脳陣からも全幅の信頼を置かれる佐々木千隼 ©Chiba Lotte Marines

重宝される「逆転」へ導くピッチング

 マウンドに送り出す井口資仁監督も強い信頼感を口にする。

「肩、ひじに不安がないということもあって今年はしっかりと腕が振れている。だからストレートは走っているし変化球もキレがある。自信をもって投げ込めている。ずっと先発をして、こうやって中盤で投げるようになって投球の幅が広がっている。元々、スライダーはよかったけど、ストレートが走っているから、打者は絞りにくい。ストレートを基点にしてスライダーが威力を発揮している。ここまで負けているパターンで彼が投げて流れを変えるという投球をしてくれた。彼の投球によって逆転できるチームになっているのは大きい」

 マリーンズでは07年ドラフトで1位入団をした唐川侑己投手が18年からセットアッパーに転向し存在感を増した。佐々木千も同じように環境を変える事によって力を発揮できるようになった。可能性が広がった。

 佐々木千自身にも、ここまでの投球を分析してもらった。まずは誰もが評価をするスライダーについて。

「大学時代はもうちょっと曲がりも小さくて、スピードも速くなかった。独学で握りをちょっと変えてから今の感じになった。人差し指をボールの縫い目にかけて、人差し指で押し込む感覚。スライダーでファウルをとれるようになったのは大きい。それでストライク先行の投球が出来るようになった」

 ここまでのピッチングに関しても充実感が漂う。

「まだまだな部分はありますが、充実しています。狙いすぎなくなったこともいい方向に来ている。ボール、ボール、ボールとなると流れが悪くなる。いいところに投げると考えずにポンポン投げることを意識している」

「ドラ1」のプレッシャーと怪我

 大きな期待をかけられてプロ入りをしたが、その後の道のりは紆余曲折だった。1年目の春季キャンプでは連日、マスコミの注目の的となった。

 本人は当時の事を「ドラフト1位だから、もっと頑張らないといけない。これでは駄目だと、自分で自分をただ苦しめていた。結局、どんどんマイナス思考になっていった。メディアも沢山いて、気負っていた。今思うとなんであんなに追い込んで悩んでいたのかなあと思う。もっと気楽にやればよかった」と振り返る。

 気負った投球に襲い掛かる怪我。苦しい日々だった。それでも怪我をしたことで学べたこともある。肩のトレーニング方法やケアをしっかり見つめ直し、肩の状態は徐々に回復。今は万全の状態にある。

「痛めた事で学んだ。色々な人と出会い、話を聞き、自分の身体を見つめて知る事が出来たと思う」

 試合前には入念にストレッチやケアを行い、試合後も夜、寝る前まで入念に繰り返す。今までにはないほどしっかりと手入れを行い備えることで肩のコンディションは見違えるほど良くなった。

怪我を乗り越えて、たくましさを感じさせる佐々木千隼 ©Chiba Lotte Marines

 安定感抜群のピッチング。テンポいい投球で試合の中盤を支配する。ビハインドの場面で逆転が生まれるのは決まって佐々木千が投げた後であることは決して偶然ではなく必然。その投球がチームに勢いと活気をもたらしている。

 過去4年間、苦しみ悩み抜いた分、今の飛躍がある。背番号「11」はキレのあるストレートと独特の横に曲がるスライダーを武器にマリーンズを勝利に導いている。その投球は苦労人だからこその渋さがある。

文=梶原紀章(千葉ロッテ広報)

photograph by Chiba Lotte Marines