本社の経営方針により、55年の歴史に幕を下ろすことになったラグビー・トップチャレンジリーグのコカ・コーラレッドスパークス(福岡市)。最後の新人となったロック野田響(23)は4月27日、初めて出席した全体ミーティングで首脳陣からその衝撃的な知らせを聞いた。

 今年いっぱいで廃部になる――。

 この4月、帝京大から新入社員としてチームに加入したばかりだった。何が起こったのかを受け止めきれず、ショックでしばらく部屋を出ることができなかった。

 その3日後、チームの年内活動終了の知らせが外部にも公表された。

 その日、野田は自身のツイッターにこう記した。

『僕自身このような結果になってしまったことに対してなんと言えば良いか正直わかりません
短い間ではありましたがレッドスパークスのメンバーの一員になれたことはとても誇らしく光栄でした』

(一部略、原文ママ)

最初はプロップ「ラグビーだけは熱中できた」

 九州男児の野田にとって、コカ・コーラはあこがれのチームだった。

 福岡県大牟田市出身。日本代表SHの流大(サントリー)らが育った熊本・荒尾高校(現・岱志高校)でラグビーを始めた。中学までは柔道をやっていたが、入学時に184センチ、124キロもあった巨体が徳井清明監督の目にとまり、熱心に誘われた。

 最初のポジションはプロップ。ハードな練習で体が絞られていく。ロックに転向して突破役を任されるようになると、ラグビーが徐々に楽しくなった。

「今まで色々なスポーツをやってきたけど、何をやっても熱が冷めてしまっていた。でも、ラグビーだけは熱中できた。上を目指したいって思えた」

 高みを見すえ、6学年上の流らが活躍した帝京大に進んだ。

 当初は才能あふれる同級生らとのセンスやスキルの差に劣等感を抱いた。それでも気持ちを腐らせず、自分の強みは何か考えた。出した結論は「ボールを持ってぶつかることだけは外国人選手にも負けたくない」。

 環境に慣れた3年夏のジュニア選手権は今も忘れられない。ボールキャリアとしてグラウンドを走り回り、その後の関東大学対抗戦や大学選手権出場へとつなげた。岩出雅之監督は「4年になったら主力になれる」と、飛躍を楽しみにしていたと振り返る。

帝京大時代の野田響 ©︎Teikyo sports

 しかし、大学最後の夏に右足の甲を骨折。その後もケガを繰り返し、不完全燃焼のまま大学ラグビーを終えた。サイズと将来性を見込まれ、コカ・コーラの一員になったが、リハビリ中でまだ全体練習に加わっていなかった。そこに、チームがなくなるというニュースが飛び込んできた。

こういう時だからこそ、ポジティブに

 向井昭吾部長兼監督らとの面談では、ラグビーを続けるために移籍したいと希望した。向井監督も全面的なサポートを約束してくれた。モヤモヤは少し晴れた。

「現実は変わらない。くよくよしていても仕方がない」

 コカ・コーラでの実績はゼロ。でも、できることから積み重ねよう。まずはリハビリ。そして、1人でもできる筋力トレーニングやランを欠かさず続けようと決めた。

 周りも、チームでたった1人の新人を気にかけてくれた。帝京大の2学年上にあたり、気心知れたプロップ長谷川寛太は、いつだって親身に相談にのってくれた。サンウルブズの「廃部」を経験したSH木村貴大は、個人練習の後で苦しい時の立ち振る舞い方を教えてくれた。

「人として、どうありたいのか、どうなりたいのか。誰かに慰めてもらおうと、ネガティブな発言をSNSでしても状況は変わらないよ。こういう時だからこそ、ポジティブな発信をしよう」

 不安を口に出していた野田の姿勢は変わった。廃部になるからといって、マイナスのことばかりじゃない。コカ・コーラはなくなっても、新たなチャンスは自分の前に広がっている。ラグビー経験や実績は足りなくても、伸びしろは周りより大きい。そんな風に自分の可能性を探せるようになった。自分たちだって苦しいのに、笑顔でサポートしてくれるコカ・コーラの仲間たちのおかげだった。

「今は自分が選手としてどれくらいまでやれるのか、限界を見てみたい気持ちです」

 帝京大で主将を務め、同じロックだった2学年上の秋山大地(現トヨタ自動車)は、野田が目標としてきた選手だ。プレーの力強さだけでなく、誠実な人間性を尊敬している。でも偉大な先輩をまねようとしすぎて、以前自分を見失ったことがある。「キャパオーバーになって。それからは自分らしくあろうとしています」。

 3人兄弟の末っ子。長男は吹奏楽部、次男は国見高校のサッカー部のゴールキーパーだったという。家族で唯一ラグビーの世界に身を投じた三男は、ビッグヒットを受けても、「ナイスタックル」と笑顔で返せるのが「自分らしさかな」とほほえむ。「とても素直な子。ポテンシャルは大きいよ」と岩出監督は期待する。

 あこがれの場所は突如、理不尽な形で奪われた。この先、彼にどんな道が待っているか分からない。でも、前向きな姿勢を失わなければ、誰かの心に響く生き方がきっとできるはずだ。

文=野村周平(朝日新聞スポーツ部)

photograph by Coca-Cola Red Sparks