出産し、二児の母になりました。

 2586gの長女と2606gの次女。1分差で出てきた双子の我が子の産声を聞いた瞬間、「やっと会えた」とただただ嬉しくて、涙が止まらず、「かわいい、かわいい」としか言葉に出きませんでした。

 妊娠や出産は、私には無理なんじゃないかと思うこともありました。そのせいか今でも「本当に私が産んだのかな」と信じられない気持ちで、母になった実感は半々。授乳とオムツ替えの繰り返しで、1日、1週間が過ぎるのはあっという間ですが、とにかく「この子たちを元気に育てたい」と必死に毎日を過ごしています。

 妊娠、出産という初めての経験は学ぶことばかりで、改めて気づかされることばかり。今はまさに、さまざまな変化の真っただ中にいます。

情報は自分で求めなければいけない

 現役選手だった頃は、自分から積極的に情報を求めなくても、トレーナーさんなど専門のスタッフが必要なことを教えてもらえる環境でした。引退してから「恵まれた環境だった」と思うことは何度もありましたが、妊娠、出産、育児を通して、情報は自分から求めなければ入ってこないということを改めて実感しています。

 たとえば、私の居住地域では妊娠、出産、育児に対する支援の一環として『産後ドゥーラ』という家事、育児支援サービスがあります。産前産後を支えるための知識と技術を習得、認定を受けた専門家が、申し込みをした家庭に赴き支援してくれる公共サービスです。

 私は17年に母を亡くしており、ましてや産まれてくるのは双子。妊娠中から、1人さえも育てたことがないのに同時に2人も育てられるのかと不安ばかりが募り、夜泣きしたらどうしようとか、考えれば考えるほど余裕がなくなっていきました。

 産まれてからも、赤ちゃんに何を着せればいい? 部屋の温度は? とインターネットでひたすら調べる毎日。だから専門知識を持った方々がサポートしてくれるのは本当にありがたい。しかも公共サービスなので助成金の対象でもあり経済的。本当に素晴らしい取り組みなのですが、出産前に保健所へ行き、渡された資料を見るまでこんな支援事業があることすら知りませんでした。

 実際、まだまだ認知度が低く、ドゥーラさんにも限りがあるため、予約も殺到しています。特にコロナ禍で里帰り出産がかなわなかったり、親御さんの助けを借りられず、産褥期で本当に大変なお母さんが同じサービスを受けられているかと言えばきっとそうではない。私の場合、近くに住んでいる妹夫婦がサポートしてくれることや、双子共々お風呂に入れればそのまま寝てくれる手のかからない子どもで、出産前の不安が嘘のように恵まれた環境です。

 それでも2人が産まれて家に戻った直後は、寝ている顔を見ながら「息をしているかな」と心配になったり、一瞬でも目を離すのが怖くてトイレに行く時間を削るために、水分を摂らないこともありました。

 産まれて来てくれた我が子はとにかくかわいいですが、「かわいい、かわいい」だけでは子育てはできません。常に与えられる環境にいた経験があるからこそ、より一層知ること、必要な情報を自ら求めていくことの大切さを実感しています。

走る、跳ぶなど想像もできない

 身体も変化しました。

 出産までに体重は20キロ増量。もともと高身長の妊婦の双子なので16キロ増まではOKと言われていましたが、それでもプラス4キロ。出産の3週間前に切迫早産で急遽入院したため、病院食で体重もコントロールすることができましたが、あのまま自宅で出産直前まで過ごしていたら、と考えると本当に恐ろしい(笑)。

 今は体重も戻ってきましたが、まだ腹部や骨盤、股関節は緩んだまま。出産から間もなく4カ月になりますが、未だに腹筋は1回もできず、起き上がることすらできません。

 自分の身体が想像以上に変化して、実感したのは、出産を経て復帰を果たすアスリートがどれほどすごいか、ということです。

 高校の同期でもある(荒木)絵里香は、妊娠中や産前、産後も近くで見てきて、ブロックジャンプで尿もれすると話していた時は「大変だね」と笑いながら聞いてきましたが、自分が妊婦になり、出産して、腹筋すら1回もできない今となっては、走る、跳ぶなど想像すらできません。

日本代表のキャプテンを務める荒木絵里香 ©YUTAKA/AFLO SPORT

 それは絵里香だけでなく、ほぼ同時期に出産したゴルフの(横峯)さくらちゃんも同じで、出産直前まで試合に出ていたうえ、つい先日には復帰戦に出場しました。今の私にはただただすごいな、としか思えず、どれほどの努力が必要だったのか、改めて尊敬することしかできません。

 ただ、勘違いしてほしくないのは、それが決して当たり前ではない、ということです。

 妊娠、出産を経て、ましてや驚くほどの短期間で復帰を遂げる選手たちは、専門家のきちんとした指導のもと、トレーニングや身体の管理を行っているからこそ、為せるものでもあります。

 そんな背景も知らず「横峯選手はもう試合に出ているのに何で動けないんだ」「同じ産後でもトレーニングしている人がいるのに、お前は甘えているんじゃないか」と言うのは大きな間違い。むしろ動けないぐらい身体がきついのが当たり前で、それを驚異的な精神力で乗り越えていくアスリートたちが本当に素晴らしいのだと、きちんと理解していただきたいと思います。

リゾートトラストレディスを復帰戦に選んだ横峯さくら

今でも変わらない「スポーツ」への思い

 これまでは当たり前だったバレーボールの現場に足を運ぶことがほとんどなくなり、春高をテレビで見ながら「私はまた現場に戻れるのか」と不安になったこともあります。

 今も少し時間ができれば、ネーションズリーグを観ることはありますが、以前のように戦術や選手起用について目を向ける余裕はない。今は子どもたちに目と心と身体、すべてを向けて、可能な範囲のお仕事をするのが精いっぱい。何より、子供たちと離れる時間が想像できない。

 それもまた、母となった今も第一線で戦う絵里香のような選手たちを改めて尊敬するばかりです。

 一方で、母として子どもを第一に考えるのはもちろんですが、春高の現場から遠ざかり「寂しい」と感じたように、私はスポーツの現場も好きで、やりたいこともある。それは出産を経ても変わりません。

 これまでも子どもたちがいつまでもスポーツを楽しめる環境をつくりたいと思い、いろいろな活動に参加させていただきましたが、今ももちろんその思いは同じ。むしろ母親になったことでより一層、いつか我が子もスポーツをやりたい、バレーボールをやりたい、と言い出すことがあれば、いつまでも楽しくスポーツを続けることができる環境づくりをしていきたいと強く思うようになりました。

 今、スポーツは決してポジティブな報道ばかりでなく、むしろスポーツが悪者のように扱われるたび胸が痛い。ここまで必死で頑張って来たアスリートが、応援されない環境で戦うことがどれほど苦しいか、私には想像もできません。

 でもその反面、母親となった今、楽しみにしていた運動会やさまざまな学校行事が中止になっている子どもたちの思いや、試合が中止になる学生の気持ちを考えれば何が正しいのかどころか、なぜこうなっているのかを説明することすらできないのも現実です。どれだけ考えてもなかなか答えは見つからず、それぞれの目線で見え方も感じ方も違う。その中で自分に何ができるのか、その答えも今はまだ見つかっていませんが、1つ言えるのは、産まれて来たこの子たちが幸せで、元気で、笑顔で過ごせる未来であってほしいということ。

©Miki Oyama

 ずっと会いたくて、やっと出会えた我が子だけでなく、すべての子どもたちが心豊かに暮らせる、優しい社会であってほしい。そのためにスポーツを通して、私自身もできることをできる限り、探し、続けていこうと思います。

(構成/田中夕子)

文=大山加奈

photograph by Miki Oyama