筆者は永年、MLBの公式サイトを見るのが日課になっているが、今年は大谷翔平がトップ画面に出る回数が本当に多い。

 イチローがMLBに渡った2001年や、MLB記録である262安打をマークした2004年もトップ画面で何回か見た覚えはあるが、今年の大谷翔平はホームランが出るたびに、大谷の画像や動画が出る。

 外国から多くの選手を受け入れているMLBでは、日本人選手だからといって注目されることはない。活躍すれば扱いが大きくなるし、そうでなければ目立たなくなる。しかし今年の大谷翔平は「活躍することをファンが期待しはじめている」のではないかと思う。だからホームランが出ると「そら出た!」とばかりに取り上げる。

大谷の23号本塁打。低めに落ちる変化球を見事にすくい上げた©AP/AFLO

 もちろん6月20日(現地時間)の時点で3試合連続本塁打で、両リーグトップタイの23本塁打だから注目されて当然だが、二刀流という前代未聞のポジションに加えて、大谷翔平のホームランは飛距離があって爽快感がある。若くてイメージもさわやかだし、見ていて楽しい。そういう意味で大谷は本当にMLBのスターになったと思う。

 今季の打者・大谷翔平は何が違うのか? いろんな数字で見ていきたい。

フライ性とライナー性の本塁打を分類してみる

 今季の大谷は、打撃フォームが変わったと言われる。これまではレベルスイングだったが、アッパースイングに変わったと指摘されている。

 2021年6月20日まで、大谷は4シーズンで通算70本の本塁打を打っている。これをフライ性の打球と、ライナー性の打球に分けると以下の通り。

2018年 フライ性21本 ライナー性1本
2019年 フライ性14本 ライナー性4本
2020年 フライ性3本 ライナー性4本
2021年 フライ性21本 ライナー性2本

 昨年の大谷はコロナ禍で試合数が減る中、投手として故障するなど調子が上がらないままに終わってしまったが、本塁打は7本のうち4本がライナー性だった。

 二塁打が多い中距離打者であれば、ライナー性のホームランは良い打球だと言えるが、大谷のような長距離打者にとっては理想的とは言えないだろう。昨年の大谷は打球がなかなか上に上がらなかったのだ。

 今年、アッパースイングを心がけているのは「打球を上げる」ことを意識しているからではないか。

打球を飛んだ方向を見ても興味深い

 本塁打の飛んだ方向について見てみよう。

2018年
右5本(23%)右中間3本(14%)中9本(41%)左中間2本(9%)左3本(14%)
2019年
右2本(11%)右中間2本(11%)中7本(39%)左中間4本(22%)左3本(17%)
2020年
右1本(14%)右中間2本(28%)中1本(14%)左中間2本(28%)左1本(14%)
2021年
右6本(26%)右中間8本(35%)中5本(22%)左中間4本(17%)左1本(4%)

 単身アメリカに渡り、打者としてMLB一歩手前のAAAまで昇格した経歴を持つ野球指導者の根鈴雄次氏は「大谷は左中間に大きなホームランを打つようになって、MLBに認められた」と話していた。

逆方向にもっていく大谷の長打力に驚く人も多いはずだ©Getty Images

 フライボール革命とは、むやみに振り回すのではなく、バットの真芯でボールをとらえて理想の角度(バレルゾーン)でボールを遠くに飛ばすことだ。そうした打球は真ん中から打者の反対側に飛ぶことが多い。大谷はこうしたホームランが増えたことで「フライボール革命」の担い手の1人と認められたのだろう。

 しかし今季は右中間への本塁打が増えているのだ。

 大谷の打球で一番爽快なのは右中間スタンドのはるか上段に落ちるホームランだが、今季はこうした一発が急増しているのだ。

現地インタビュアーが「ウチュウカン? サチュウカン?」

 この変化にはアメリカのメディアも興味を抱いたようで先日はインタビュアーがたどたどしい日本語で「ウチュウカン? サチュウカン?」と聞いていた。大谷は「いつもセンター方向に大きな打球を打つことを意識している」と言った。偽らざるところだろう。

 端的に言えば、大谷自身は右中間を特に意識しているわけではないが、その方向の飛距離が前年までより伸びているのではないか。アッパースイングとの関係もあるだろう。

 もともと大谷は、内角の速球に右ひじをたたんで反応することができる器用さを持っていた。今季はそうして打った打球がホームランになる確率が高まっているのではないか。

23号本塁打を放ってガッツポーズ©Getty Images

「バレルゾーン」率も打球速度もスゴい

 MLBの公式サイトの記録欄は、「STATSCAST」というサイトにリンクしている。

 このサイトにはBrls/BBEという項目がある。バットに当たってインプレーになった打球(BBE)のうち、何%が本塁打になるための理想の角度(Brls=バレルゾーン)だったかという比率だ。

<ア・ナ両リーグ打者のBrls/BBEのベスト5 ※6月19日時点>

1.大谷翔平(エンゼルス) 24.2% 39/161
2.タティスJr.(パドレス)20.9% 29/139
3.アクーニャJr.(ブレーブス)19.2% 33/172
4.ジャッジ(ヤンキース)18.6% 31/167
5.デバース(レッドソックス)17.9% 33/184

<バットに打球が当たった瞬間の速度である打球初速(Exit Velocity)の最高値のベスト5> ※単位はマイル(MPH)

1.大谷翔平(エンゼルス)119.0(191.5km/h)
1.ジャッジ(ヤンキース)119.0(191.5km/h)
3.ゲレーロJr.(ブルージェイズ)117.4(188.9km/h)
4. アクーニャJr.(ブレーブス)117.2(188.6km/h)
5.メルセデス(ホワイトソックス)116.8(188.0km/h)

 大谷は「フライボール革命」の「核心」とも言うべきバレルゾーンで打球をとらえる技術が、MLBの打者の中で最も優れている。そしてバットスピードもMLBでトップなのだ。

第20号の低空弾丸ライナー弾。打球速度が速いからこその一撃だった©Getty Images

「ホームランを打つ技術」でも「パワー」でも、大谷翔平はMLBでも飛びぬけた存在だと言える。

 最後にもう1つ、今季の大谷は波が少ない。

 打率こそ3割に乗ることはないが、.250を割ることもほとんどない。打率が下がりそうになれば、マルチヒットで盛り返したりする。特に目立つのは「バントヒット」だ。

時おり見せるバント安打。俊足でもある大谷だからこその芸当だ©Getty Images

 大谷は昨年まで、バントは1回しか記録していない。結果は凡退。しかし今年は3回試みてすべて成功。3打数3安打、バント安打率10割だ。

イチローの通算バント安打率も驚異の.591だが

 近年のMLBでバントヒットの名手と言えばイチローだ。イチローは通算137打数81安打、打率.591という驚異のバント安打率を記録しているが、10割は2015年の2打数2安打の1回だけだ。

イチローもバント安打の名手だった©Getty Images

 圧倒的な長距離打者のイメージがある大谷だけに、バントは効果的ではある。大谷自身は打率をキープする目的もあってバントをしているのだろうが、その成功率も驚異的なのだ。

 コロナ禍ではあったが「打者大谷」は一冬を越えて明らかに進化している。そのうえ彼の場合は、「投手大谷」のパフォーマンスも加わるのだ。

 MLBが大谷翔平に注目し続けるのは「イメージ」「ユニークさ」だけでなくデータ面でもとびぬけた存在だからだろう。

 7月12日、オールスターゲーム前日の「ホームランダービー」に、大谷翔平は日本人選手として初めて出場する。ここで豪快な打球を見たいとは思うが、ゆめゆめ怪我などしないように、慎重にトライアルしてほしいと思う。

文=広尾晃

photograph by USA TODAY Sports/REUTERS/AFLO