雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は五輪サッカー代表監督にまつわる3つの言葉です。

<名言1>
日本はオリンピック予選とか本番で、ようやく本気になる。その舞台で結果を出したり、打ちのめされたりした経験を糧に一気に代表に成長する流れができているじゃないですか。それを、もっと早めないといけない。
(手倉森誠/Number879号 2015年6月4日発売)

◇解説◇
 U-23日本代表の手倉森誠監督は2014年に就任(当時はU-21代表)、その翌年のインタビューで、若手育成の遅さを指摘していた。

「世界の強豪国はFIFA U-20W杯経由A代表ですが、日本はオリンピック経由A代表。つまり、3年くらい育成部分の教育が遅れているのです」

 日本では、育成年代は勝利至上主義に走るよりも、むしろ技術を伸ばすことに主眼が置かれていた。しかし「球際が弱く、ヘディングやスライディングが苦手で1対1に勝てない」「若い世代は、戦うことを教わっていません。上手ければプロになれるという流れです」。テクニカルな指導の重要さは認めつつも、早い段階から「勝負に勝つための指導」を行うことの重要性を説いた。

 戦える選手が必要だ――そう説いた手倉森の言葉を今最も実践しているのは、遠藤航だろう。

リオ五輪の遠藤航©JMPA

 ブンデスリーガのデュエル勝利数でNo.1となった“マスター”は中盤の欠かせない軸となり、東京五輪でも田中碧とダブルボランチを組んでいる。充実一途の遠藤なら、5年越しのリベンジを果たしてくれるはずだ。

下馬評が低くても“無敵艦隊”スペインを撃破

<名言2>
ここでスペインとやれるなんて、こんな幸せなことはない。今、力を発揮しなかったらいつ発揮するんだ! 思い切ってやろう!
(関塚隆/Number812号 2012年9月13日発売)

◇解説◇
 ロンドン五輪世代のチームは清武弘嗣や宇佐美貴史らテクニカルな選手、最終ラインにも酒井宏樹らを擁し、オーバーエイジでは吉田麻也が加わってなかなかの陣容だった。しかしアジア予選でやや苦しんだことで“批判”を受け、戦前の評価も決して芳しいものではなかった。そんな中でグループステージ初戦は当時EURO連覇を果たすなど、黄金期を謳歌していた“無敵艦隊”スペインと戦うことになった。

ジョルディ・アルバと酒井宏樹のマッチアップ©Getty Images

 イスコやフアン・マタらが名を連ねる優勝候補相手に悲観ムードが流れたが――日本は大津祐樹のゴールを守り切り、1−0で撃破した。その試合の直前、監督の関塚はこんな言葉で選手たちを鼓舞した。この試合をモノにした日本は勢いに乗り、最終的にはベスト4入りを果たしたのだ。

OA枠を使えなかった北京は“失敗”だったのか

<名言3>
逆にOAを入れなかったことによって、オリンピック世代の選手がはじき出されず、そのなかから将来的に日本がワールドカップで成績を残すのに貢献した選手が出てきたからね。もしかしたら、「失敗」ではなかったかもしれない。
(反町康治/NumberWeb 2021年7月8日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/848759

◇解説◇
 五輪サッカーを勝ち上がるためのカギとなるオーバーエイジ(OA)。24歳以上(東京五輪では25歳以上)の選手を3人チームに加えられる方式だが、この招集に失敗したのが2008年の北京五輪、反町監督率いるチームだった。遠藤保仁と大久保嘉人の招集を希望したものの、選手のコンディション不良と所属クラブとの交渉不調によって、新たな戦力が加わることはなかった。

北京五輪の代表メンバー©JMPA

 若いメンバーで臨んだ本番、初戦のアメリカ戦を0−1で落とすと、ナイジェリアにも豊田陽平のゴールも実らず1−2で敗戦し、決勝トーナメント進出の可能性が2戦で潰えた。そしてオランダにも0−1で敗れ、大きなバッシングを受けたのだ。

 オランダ戦後には本田圭佑について「反町監督に対する造反があった」と報道された。ただそのことを問われると本田は「……誤解の一言ですよね。僕はソリさん、リスペクトしてます」とも発言しており、選手と監督間での信頼関係があったことは確かなようだ。そして何より、このメンバーが3連敗という惨敗を受けて奮起、飛躍したのも事実である。

2011年アジア杯©TakuyaSugiyama

悔しさをW杯、アジア杯での躍進につなげた

 2010年南アフリカW杯でのベスト16、翌年のアジア杯での劇的な優勝……このチームにおいて中核を担ったのは本田、香川真司、岡崎慎司、内田篤人、長友佑都、吉田ら北京世代だった。反町の話した通り、若くして先に悔しさを味わい、経験値を積んだことは彼らの成長を担ったといってもいいのかもしれない。

 そんな反町が日本サッカー協会技術委員長になって臨む東京五輪、森保一監督率いるチームは初戦の南アフリカ戦を久保建英のゴールで1−0とし、勝ち点3を積み上げた。

南アフリカ戦に勝利した日本©Asami Enomoto/JMPA

 25日にはグループ最大のライバルとみられるメキシコ戦が控える。期待と重圧をはねのけて、決勝トーナメント進出を――森保監督はどんな一手を見せてくれるだろうか。

文=NumberWeb編集部

photograph by JMPA(2),Takuya Sugiyama