ロサンゼルス近郊に住むという日本人女性が聞いてきた。

「なんで大谷さんのホームランってあんなにボールが飛ぶんですか?」

 野球ファンならずとも、今や米国に住む日本人女性は年齢に関係なく大谷翔平に興味津々だ。

「いいコンタクトをしたら、勝手に本塁打になる」

 元々、背が高い、足が長い、顔が小さい。目鼻立ちもくっきりときている。誰が見てもスタイル抜群のイケメンだ。その上、今年は日本人選手が敵わなかった『パワー』でもその世界の頂点を極めようとしている。女性からすれば、かわいい、かっこういいにたくましいまで加わったのだから、よけいに目がうっとりとなるのも当然だろう。男性ファンにしても、米国で本塁打王をひた走る大谷の姿にカタルシスを感じている方も少なくない。

ホームランダービーに出場した大谷。初戦で敗退したものの、存在感を示した©Getty Images

 その中で、忘れてはならないのが、今季からメジャーではボールが飛ばないとされる低反発球が導入されているという事実だ。だが、そんなことはお構いなしに、大谷はこれまでの日本人打者からは聞いたこともないコメントを連発している。

「いいコンタクトをしたら、勝手に本塁打になると自分では思っている」

「詰まっても先っぽに当たっても、ある程度いい角度で上がれば、本塁打になると自信を持って振っている」

「良いスイングが出来れば、(投球が)高くても低くても、内でも外でも、ホームランに出来ると思っている」

大谷の”本塁打王”をイチローが予言していた!?

 自信満々。こんな言葉はメジャーで日本人最高の175本塁打を放った松井秀喜さんからでさえ聞いたこともないが、イチローさんは大谷のルーキーイヤーから本塁打王の予言をしていた。18年9月のマリナーズ戦で中堅越えの20号本塁打を放った際には「初めてホームランバッター、日本人として来たなという感じはします。センター中心にあれだけの距離を出せる選手はこっちにもなかなかいない」と目を輝かせていたことを覚えている。

 今季を迎えるにあたり、大谷には大きな変化が見てとれた。それは体格だ。キャンプ初日に目にしたその印象はとにかく「デカい」だった。

 昨季より胸板は数倍厚みを増し、上腕はムキムキ。それでいて筋肉の質は実に柔らかそう。押せば跳ね返るような弾力性を持ち合わせているように見えた。

 下半身も然り。腰回り、太もも、ふくらはぎ、いずれもが昨季より断然に大きく太い。写真を見比べればその差は一目瞭然なので是非、見比べていただきたい。

2020年の大谷©Getty Images 2021年の大谷©Getty Images

今年の大爆発に繋がった、「左膝」の強化

 メジャー4年目。これまでの3年間は常にケガと戦ってきた。1年目オフのトミージョン手術。2年目9月に行った左膝の手術。その影響で3年目までのトレーニングは常にリハビリが大きなウエイトを占めてきた。体を強化したくとも、強化することで体重が増えてしまっては、患部への負担が重くなる。強化したくとも出来なかったのが現実だったが、その状態も昨オフにようやく卒業した。強化トレーニングに徹底して取り組めたことで体は強靭さを増し、結果的に体重が増え、体が大きくなった。特に左膝は打撃の軸足であり、強化に成功できたことが今年の大爆発へと繋がった。

「やっぱり左膝じゃないですかね。実際に去年やってみてわかりましたけど、かなり重要なところだなというのは感じていますし、打撃でそこをしっかり気をつけていれば、逆にいい状態を保てるんじゃないかと思います」

大谷の打撃に備わった「天性の才」とは?

 昨季は60試合制ではあったものの、本塁打7本、打率.190。今季はM V Pや本塁打王などタイトル独占の可能性がある中で『カムバック賞』は既にもらったも同然と言える。

 最後に。

 大谷の打撃にはとてつもなく大きな長所、持って生まれた天性の才があると、ある野球関係者から聞いた。人にはそれぞれ得意・不得意な体の動きがあると言われているが、大谷の場合、「右から左」への体重移動よりも「左から右」への体重移動が格段に上手なのだそうだ。

7月9日のマリナーズ戦でのホームラン。左から右への体重移動のスムーズさが、打球に強さを伝える©Getty Images

 スムースに移動し、伝達にロスがなく、しっかり股関節で受け止め、大きな出力へと変えることができる。左打者として、これほどに理に適った動きはない。大谷も打撃状態が良い時の感覚をこんな言葉で説明したことがある。

「上体がしっかり残っている段階で、打ちにいくかどうかを下半身で決めている感じはするので、いい傾向かなと思います」

 下半身始動の体重移動と回転に後から上半身がついてくるイメージが伝わってくる。

 軸足となる左膝に不安がなくなったことで、徹底した強化トレーニングを積めたことが筋力アップを生み、体もひとまわり大きくなった。体重は開幕後に102キロほどと話していたが、今も大きな変化はないと感じる。

 アスリートにとって、健康こそ最重要テーマ。しかも彼は二刀流。コンディショニングにおいて、豊富なデータ蓄積があるメジャーリーグであっても、大谷の場合にはそれはない。

本塁打王もMVPも、“現実味”はある

「なんで大谷さんのホームランってあんなにボールが飛ぶんですか?」

 細かいことを言えば、絶妙なハンド・アイ・コーディネーションでボールの中心よりやや下にバットを入れる技術もあるだろう。だが、健康こそ、パワーの源泉。長いシーズン、好不調の波は誰にでもある。その中で健康さえ維持できれば、本塁打王だって、MVPだって、現実のものとなる。それが今季の大谷翔平だ。

7月19日、アスレティックス戦のベンチにて。体調を維持することが、後半戦最大の課題になる©Getty Images

文=笹田幸嗣

photograph by Getty Images