8月1日から卓球女子団体戦が始まる。

 女子団体は08年の北京五輪から始まったが、ロンドン五輪では銀、リオ五輪で銅と2大会連続でメダルを獲得している。東京五輪では3大会連続でのメダル獲得を期待されるが、混合ダブルスで水谷準、伊藤美誠が中国を破って金メダルを獲得し、勢いをつけることができた。女子団体でも世界最強の中国を倒して金メダルを獲得し、自国開催に華を添えてほしいが、果たして、どんな戦いになるのだろうか。

 北京五輪、ロンドン五輪と2大会、団体戦を戦った平野早矢香さんは「中国を倒すのは簡単ではないです」としながらも中国を追い込むための、いくつかのポイントをあげてくれた――。

日本が「中国以外で注意すべき」4つの強豪チーム

 石川佳純、伊藤美誠、平野美宇と今、日本最強ともいえるメンバーが団体戦に臨むわけだが、第2シードの日本は決勝まで中国と対戦することはない。そのため、まずは初戦から準決勝までを勝ち進まないといけない。前回のリオ五輪では準決勝でドイツに敗れ、決勝進出を逃した。同じ轍を踏むわけにはいかないが、平野さんは「今回も強いチームが複数あるので要注意」と語る。

「強いのは、ドイツ、シンガポール、韓国、台湾ですね。ドイツ、韓国はダブルスが強い。シンガポールのエースのフォン・ティエンウェイ選手は経験があり、レベルが高いですし、台湾のエースの鄭怡静選手もシングルスが非常に強い。日本が対戦した場合、ともにシングルスで2試合取られると厳しい戦いになってきます」

前回のリオ五輪ではドイツに敗れ決勝進出はならなかった ©JMPA

 すでに団体戦の組み合わせが発表されており、ドイツ、韓国、シンガポールは日本と違う山に入り、日本は初戦を突破するとベスト8で台湾と対戦する可能性が高い。ここが最初の山になりそうだが、ここを乗り切り、その後も油断さえなければ決勝までたどり着けるだろう。

なぜ中国チームに丁寧がいないのか

 となれば、やはり対中国ということになるのだが、陳夢、孫穎莎、劉詩雯の中国チームは、どういうチームなのだろうか。

「今の中国で一番レベルの高い選手がメンバーに入ってきたなという感じですね」

 平野さんは、そう語る。

「ただ、これまで中国は五輪など大舞台を経験した選手をふたり、初出場ひとりというメンバー構成だったんですが今回、変えてきました。五輪の経験者は劉詩雯選手だけで、陳夢選手、孫穎莎選手は初出場になります。たぶん、昨年開催されていたら劉選手と丁寧選手という経験者を入れてきたと思うんですが、今回、丁寧選手を外してきたのは、中国国内での力が少し落ちてきていることと、私は伊藤選手との相性もあったと思います。ここ何回か、伊藤選手は丁寧選手にすごくいい試合をして勝っているので、そういうことも考えての今回のメンバーだと思います」

トップ選手ぞろい中国は「強いですけど、不安もある」

 従来の編成を変えてまでも新しいメンバーにこだわった中国だが、陳夢は世界ランキング1位、孫穎莎は世界ランキング3位で、戦績を見る限り、身震いするほど強そうだ。彼女たちに付け入る隙はあるのだろうか。

「強いですけど、不安もあると思います。今までのメンバー構成を崩してきているわけじゃないですか。劉選手しか五輪を知らないですし、基本的には右利きと左利きのペアのほうが有利なので、前までは団体戦では左利きの選手を入れてきたんですが、今回は全員が右利きです。それに五輪前、中国の選手は自国で強化していましたが、半年以上、対外試合をしていないんですよ。それが吉と出るか、凶と出るか。私は心理的にはマイナスと思いますし、金メダル獲得が絶対というなか、初出場の選手が2人いる。選手にかかるプレッシャーは非常に大きいと思いますね」

©Kiichi Matsumoto

 中国選手に中国という国から掛けられる金メダルというプレッシャー。混合ダブルスを落としたという衝撃。そこにさらにプレッシャーをかけて、中国を慌てさせるには、どうしたらいいのだろうか。

日本が狙うべき「3つの勝機」

「ダブルスで先手を取ることです。今のところ劉詩雯選手と陳夢選手がダブルスで孫穎莎選手がシングルスで来るのかなと思いますが、最初のダブルスを取って、2試合目の伊藤選手と孫選手につなげられるとすごく面白くなります。対戦成績では孫選手が勝っていますが、伊藤選手は毎回いい試合をしていますし、大きな試合の経験値があります。孫選手は若いので、付け入る隙があると思うので、ここで伊藤選手が勝って2-0になると中国に相当のプレッシャーをかけられる。日本に勝つチャンスが出てくると思います」

 中国は、何のプレッシャーもない状態で戦うとミスが少ない上にパワーとスピードがあり、日本の選手をはるかに上回る力を発揮して勝利するだろう。だが、中国選手も人間である。メンタル的なプレッシャーをかけ続けていけば、それが勝敗に影響し、さらに後続の選手にも伝播していく可能性がある。

「自分の試合で相手にプレッシャーをかけるだけではなく、自分の試合で次の相手にもプレッシャーをかけていく。試合で勝つのがベストですが、今回の日本はかなり手ごわいと思わせる。そういうプレッシャーのかけ方をしていくこと大事ですね」

伊藤が中国選手に強い理由

 そのプレッシャーをかけた上で何ができるか。

「まずは、ラリーに入る前のところで、いかに崩すか、ですね」

 平野さんは、そう強調する。

「ダブルスは、サーブ、レシーブがあって3、4球目までにだいたい勝敗が決まるんです。ラリーに入る前に普通にサーブ、レシーブで入ると中国の選手は上手いので、ポイントを獲るのは難しくなります。伊藤選手が中国の選手に勝てるのは、サーブの変化、多彩なレシーブ、早い段階でスマッシュを打つとか、普通とは違う変化をつけた攻撃ができるからなんです。ラリーの前にいかに崩して、プレッシャーをかけられるか。でも、これだけでは勝つのは難しい」

©AFLO

 いつもと異なり、変化をつけて戦う上に、さらに必要なことがあるという。

「中国は、ひとつのことで全部が崩れるほど甘くないので、いろんなことを連続してつづけ、揺さぶっていくことが重要になります。例えば、相手が普段戦っているプレーゾーンでプレーをさせないようにすることですね。選手によっては例えば台との距離20cmが居心地いいという人がいますが、その位置を崩していくんです。本当は前でやりたいけど、うしろに下がらざるを得ない状況を作る。得意なプレーゾーンでできない回数を増やすと、そんなに強いボールを打ち返してこられないですし、コースが甘くなってきます。それを繰り返してメンタルを消耗させて、ようやく城みたいな頑丈な壁を崩していくことができるのかなと思います」

「悲願の金メダル獲得」の可能性はどのくらい?

 中国に勝つのは、改めて容易ではないということがよく分かった。世界ランキング2位の日本と3位以下のチームには差があると言われているが、日本と1位の中国の間にはそれ以上に大きな差があることが分かる。そんな中国を倒し、日本が金メダルにたどり着く可能性はどのくらいあるのだろうか。

「正直なところ、中国の優位は動かない。対戦成績でいうと伊藤選手は陳選手に勝ったことがないですし、孫選手にも分が悪い。劉選手は18年の団体戦で勝ってから負けていないですが、今回ダブルスに出るというオーダーになるとエースに孫選手、陳選手を当ててくると思うんです。ただ今回、混合ダブルスで劉選手が敗れているため、リザーブの選手が出場してくる可能性もあるかもしれませんね。

 ダブルスを取って、つづく伊藤選手は孫選手との試合で勝っておきたい。その後につづくシングルス3試合すべてに勝つのは相当厳しい。中国に勝つためには、シングルスの前に2-0にしておくことが重要です。こうなると日本はメンタル的には中国を上回って、余裕を持って残りのシングルスを戦うことができます。ここまでもっていけたらベスト。最悪でも1-1ですね」

 先手必勝が中国戦では何よりも重要になってくるが、勝負はどう転ぶかわからない。ましてや今回は五輪が舞台だ。2-0が理想だが、0-2になる確率も決して低くはない。

「0-2になると相当厳しくはなります。ただ、五輪なので何が起こるかわからない。私も北京五輪の時、香港の選手と3位決定戦進出を賭けて戦ったんですけど、それまで1回も勝ったことがなかったんですよ。その相手がミスを連発して五輪で初めて勝てたんです。そういうことが起こり得るのが五輪なので、日本にいい方向にそれが出ると嬉しいですね」

日本卓球界史上初となったメダルは、ロンドン五輪で卓球女子団体(左から福原愛、石川佳純、平野早矢香、村上恭和コーチ)が獲得した銀メダル ©JMPA

中国を倒すために細かい準備をしているはず

 平野さんは、石川とロンドン五輪でともに戦い、伊藤、平野も小さい頃からよく知っている。彼女たちが打倒・中国にどれだけ努力を重ねてきているのかも理解している。

「これまで金メダル、中国を倒すために細かい準備をしてきていると思うので、試合では結果よりも冷静に目の前の相手に自分の力を思い切りぶつけてほしいですね。それを積み重ねていければ最終的にいい結果にたどり着くと思います」

 混合ダブルスを取って大きな流れを作り、日本最強の3人娘が挑む団体戦、果たして悲願の金メダル獲得なるか――。

文=佐藤俊

photograph by AFLO