アクトレスガールズは2015年に旗揚げした“女優によるプロレス団体”だ。ほとんどの選手が芸能活動を行なっており、演劇、ドラマなどに出演しながらリングに上がっている。所属する松井珠紗は先日、舞台の脚本と演出を担当。向後桃は主演映画の公開が控えている。

 2019年からはBeginningとColor'sという2ブランドを展開。それぞれが興行を開催し、合同興行「ACT」でタイトルマッチが行なわれている。

「芸能人が片手間でやれるほどプロレスは甘くない」

 1期生の本間多恵は「今のままでは芸能界でも成功できないという気持ちがあって、何かプラスαの武器になればと」プロレスの世界に足を踏み入れた。プロレスを見るようになったのは入門を決めてから。「強い、怖い」というイメージを持っていたが、実際に見てみると華やかさも印象に残った。

「29歳になる年だったんですけど“自分の人生で今が一番若いんだから”と考えて挑戦することにしました」

本間

 最初は右も左も分からない。試合数が少ないから上達のスピードも遅い。「芸能人が片手間でやれるほどプロレスは甘くない」という声も聞こえてきたし、演劇の世界でも「プロレス? 何がやりたいの。どこを目指してるの?」と言われた。ケガで長期欠場も経験している。ただそれでも、プロレスにのめり込んでいった。それだけの魅力があったのだ。

「自分がやったことに対して、すぐにレスポンスが返ってくる。今はコロナ禍でお客さんが声を出せないですけど、その前は自分の名前を呼んでもらって、これ以上ないくらいダイレクトに励ましてもらえるじゃないですか。

 勝って狂喜して、負けて大泣きして。あそこまで感情を出せる場所はリングしかないとも思います。普通に大人として生活していたら、あんなに怒ったり泣いたりしないですもん(笑)。でもプロレスでは、感情が出れば出るほど魅力的なんです。一生懸命生きている、命を削って生きているなという実感があります」

 現在、本間はアクトレスガールズのタッグ王座を保持している。パートナーは尾崎妹加だ。彼女もアクトレスガールズの1期生だが現在はフリー。本間によると「2年間、連絡すら取ってない時期があった」というところから古巣のリングに上がり、同期タッグでベルトを掴んだ。

芸能活動との“兼業”が前提になっている

 他にも1期生はさまざまなリングで活躍している。フリーの安納サオリ、スターダムでハイスピード王者になったなつぽい(万喜なつみ)、本間とタッグを組んでいた角田奈穂は東京女子プロレスに参戦している。1期生ではないが、スターダムのひめか(有田ひめか)もアクトレスガールズ出身だ。

 アクトレスガールズは芸能活動との“兼業”が前提で、以前より増えはしたが大会数も多いわけではない。「もっと試合がしたい」、「芸能よりプロレスに集中したい」となった時に他のリングを選ぶのも不自然なことではないだろう。本間も「選手がアクトレスガールズをやめることは、やっぱり寂しいです。でも他の団体で活躍している姿を見ると誇りに思うし、より一層負けたくないと思います」と言う。ただ、本間自身は育った場所を離れるつもりはなかった。

「アクトレスガールズが好きだからっていうことに尽きますね。ここにいる選手のことが大好きなので」

ああああ

 実際のところを言えば、主力が抜けたことによる戦力減、動員力ダウンは否めない。ただ、それをカバーするように新しい選手が台頭してきた。松井はトーナメントを勝ち上がり、SAKIが持つシングル王座に挑戦している。

「新しい子が入ってきてくれたから、今のアクトレスガールズがある。それは間違いないです。強い選手、人気選手がいるだけでは団体は続かない。新人がいて、新陳代謝があってこその団体だと思うので」(本間)

王者に挑む“カケミク”「ベルトを巻く気満々です」

 8月13日には、団体最大のビッグマッチと位置づけられる後楽園ホール大会がある。本間と尾崎のタッグ王座には、後輩である関口翔(かける)と青野未来(みく)の“カケミク”が挑戦することになった。

 挑戦を決めた試合でフィニッシュを取ったのは青野だ。他団体でベルトを巻いたこともある関口だけでなく青野が成長したことが、チームにとっても団体にとっても大きい。バックドロップ、ラリアットとシンプルな技で3カウントを奪うところにも、レスラーとしての野心を感じる。

カケミク

 6月、7月と連続でBeginning大会のメインで勝ってマイクを握り、大会を締めた青野。6月は「最後、締めるの初めてなんです。緊張しました」と照れていたが、7月は勝ちっぷりもマイクアピールも自信に満ちていた。曰く「タイトルマッチでも、今日のように私が勝ちます」。アイスリボン参戦などで経験値も上がり、急速に成長していることがはっきり分かる。

「ベルトを巻く気満々ですし、堂々としていたいなと。チャンピオンはみんなのトップに立つ存在なので」

 そう語った青野。関口は「自分たちがチャンピオンになって、アクトレスガールズを新しい時代にします」と言う。「この団体でタッグといえばカケミク。自分たちでもそう思っていたのに(王者決定トーナメントの決勝で本間&尾崎に敗れ)初代王者になれなかった。その悔しさは忘れてないです」とも。

 カケミクにはもどかしさもあったと、受けて立つ本間は言う。2人とも、あまり自分の気持ちを主張するタイプではなかった。だが今は違う。自信も悔しさもそのまま出せる。それがプロレスラーとしての強みなのだと、本間は知っている。

「翔にも未来にも負けたことがあるし、2人が挑戦してくるのは脅威ですね。絶対負けないですけど。でも頼もしくなったなという嬉しさもありますね、正直」

 闘う相手は単なる“敵”ではない。一緒に団体を作り、守り、育てていく仲間でもある。その感覚を、アクトレスガールズからは特に強く感じる。

カケミク

本間、高瀬の不在が残った選手の自覚を強めた

 カケミクが挑戦表明した直後、本間はヒザの靭帯を負傷して欠場を余儀なくされた。7月のBeginning大会にも出られなかった。後輩たちの試合をリングサイドで見守るのは、ただただ苦しかったし悔しかった。リングに上がる選手たちの頑張りを見て、申し訳ないという言葉を使うのもおこがましいと感じたそうだ。復帰を決めた今も、その時を振り返るだけで涙が出てしまう。

 同じ時期に、前シングル王者の高瀬みゆきもヒジのケガで欠場に。トップ2人を欠く状況が、残った選手たちの自覚を強めたということもあるだろう。

「私たちがやらなきゃいけない」

 それはColor'sの清水ひかりも感じていたことだ。高瀬、関口、青野と同じ2017年デビュー。シングル5番勝負を敢行中で、その最終戦として8.13後楽園でSAKIのシングル王座に挑戦することになった。チャンピオンからの指名だ。

SAKI

 他団体でデビューしたSAKIのキャリアはアクトレスガールズの歴史よりも長い。入団すると実力的にも精神的にもColor'sの支柱になった。Color'sはBeginningから“枝分かれ”したイメージがあるから、どうしても下に見られがちだ。アクトレスガールズの大会イコールBeginningの大会、そんな見られ方。SAKIからすると、2ブランド制自体が浸透していないと感じる時もある。

 そんな状況を変えたくて、SAKIはタイトルに挑み、勝ってColor'sにベルトを持ち帰った。すぐにColor's内で挑戦者決定トーナメントを開催。選手たちは一気に活気付いた。

 Color'sという名称には、キャリアの浅い、まだ色のついていない選手たちがそれぞれの色をつけていくという意味があった。設立から2年半経って、選手それぞれの個性、色鮮やかさはBeginningにまったく引けを取らなくなった。SAKIにとっては、それが何よりも嬉しい。

SAKI「悔しさを味わうと、またプロレスが楽しくなる」

 8.13後楽園は、アクトレスガールズ全体の大会だ。清水と対戦することで「Color'sもこれだけの試合がやれるようになったんだよっていうのをColor'sを見たことがない人にも、Beginningの選手たちにも見せたい」とSAKI。

 5番勝負、7番勝負といったマッチメイクは発展途上の選手に経験を積ませるためのもので、だから清水はお世辞にも“最強のチャレンジャー”とは言えない。でも、そんな相手と後楽園で闘うことに意味があるとSAKIは考えている。

「私も元々、プロレスラーになりたかった人じゃないんですよ。ひかりもこんなにプロレスやるとは思ってなかったんじゃないですかね。Color'sでは、最初は“プロレスはこんなに楽しいんだよ”と選手に伝えることから始めました。でもみんな成長して、それだけじゃないのを分かってきた。嫌なこと、苦しいこともあるけどプロレスは楽しい。楽しいだけじゃないからプロレスは楽しい。それをひかりにタイトルマッチで感じてほしいんです。今もプロレスを楽しんでいるみたいですけど、その楽しさを潰します。そこで悔しさを味わうと、またプロレスが楽しくなりますから」

SAKI

清水「ネガティブですかね? でも落ちこぼれがうちやけん…」

 後楽園でのタイトルマッチについて「プレッシャーしかないです(苦笑)」と清水は言う。それでも「みんな私が負けると思ってるだろうけど、絶対に覆します。私が憧れたプロレスラーは、こう言ったら失礼だけど弱くても勝つ人だったから」。

 6月は野崎渚、7月は水波綾と女子プロレス界のトップクラスと5番勝負で対戦。完敗だったが、そこで何を吸収できたかがSAKIとのタイトルマッチで問われる。SAKI戦で爆発すれば、5番勝負そのものが成功だったと言えるだろう。

 水波戦、リングに上がった清水は今にも泣きそうな、しかし力強くもある表情をしていた。緊張なのか恐怖なのか気合いなのか、試合後に聞いてみると「全部です」と言って泣いた。その感情は、きっと後楽園でも続く。自分が後楽園でタイトルマッチをするレスラーにふさわしいのかという思いもある。

「なんかネガティブですかね? でも落ちこぼれがうちやけん......」

 つい故郷の言葉に戻るくらい、今の清水は“むき出し”の状態なのだ。

「みゆきさんも(ケガで)帰って来んし、プレッシャーやわ......」

清水

意地でチョップを受けまくり、胸にはアザ

 高瀬を「2017年組で一番の天才」だと清水は言う。その高瀬がいない2017年組が、8.13後楽園でシングル、タッグのベルトに挑む。「2017年組みんなでベルト巻きます」という清水の言葉を聞いて、本間は喜んでいた。

「そういうことを意識できるようになったんですね。ひかりがそれを意識してるということは、それだけタイトルマッチで力を出せるということだと思います。やっぱり同期って凄いんですよ。何があっても、一番の支えは同期なんです。しかも後楽園は、乃愛ちゃんの引退試合もある」

清水

 後楽園大会で引退する五十嵐乃愛も2017年デビュー。“引退ロード”の中で対戦した本間を「お母さんみたいな人」と言い、後輩の三浦亜美との試合後には「亜美ちゃんの世代は後輩がなかなか入ってこなくて、ずっと雑務をしながらの練習と試合。後輩だけど尊敬してます」と語った。そういう人間関係がアクトレスガールズの魅力でもある。その一方で「意地で」三浦のチョップを受けまくり、胸にアザを作るのはやはりプロレスラーだからこそ。

「アクトレスガールズは今が一番面白い」

「全部の歴史を知ってる私が言うから間違いないです。アクトレスガールズは今が一番面白い」

 本間は自信を持ってそう語った。若い選手たちが成長しているし、大会そのものの雰囲気もよくなっているように感じる。以前は「芸能人だからってナメられたくない。私たちは“アイドル崩れ”なんかじゃない」という必死さが熱をもたらしていたが、そこには息苦しさもあった。今はあらゆる意味で自由。伸び伸びと個性を発揮できるのは、力がついてきたからこそだ。その上で、伸びてきた選手たちがタイトルマッチのシビアさを味わい、また成長していく。

 本間はヒザの負傷をしたが手術はせず、筋力アップとテーピング、サポーターでの保護で後楽園までに復帰することを選んだ。後楽園は特別な大会で、そこに自分がいないことが想像できなかったと言う。

「最初の後楽園はお客さんがいっぱいで、選手が一丸にならないと飲み込まれそうでした。本当に嬉しかったし誇らしくて。今はコロナで席数が制限されてますけど、満員の後楽園はやっぱり素晴らしいです。それを後輩たちにも経験してほしい」

本間

 これから目指すことを聞くと、本間はそう答えた。他には「みんなで海外遠征がしたい」、「今はコロナで紙テープの投げ入れが禁止。投げてもらったことがない新人もいるので、いつか体験してほしい」。

本間「後輩たちはみんな可愛くて仕方ないんです」

 自分の野心よりも後輩のことばかり考えているような気がするが、本間多恵はそういう人間だしアクトレスガールズはそういう団体だということだろう。

「後輩たちのことが大好きなので。みんな可愛くて仕方ないんです。いや、先輩から見てじゃなく、誰が見ても綺麗だし可愛いですよ。プロレスラーになって、一生懸命頑張って、ファンのみなさんに応援されていくうちに、選手はどんどん綺麗に、可愛くなっていくんです。その姿をずっと見ていてほしい」

 団体のスローガンは「強く、優しく、あなたに一生懸命」。対戦相手ともファンとも「私とあなた」、1対1の関係性が成り立つ。そういう場所がアクトレスガールズなのだと本間多恵は考えている。

カラーズ

文=橋本宗洋

photograph by Norihiro Hashimoto