いつもなら質問者の目を見て答える久保建英がこの日は、うつろな感じで言葉を絞り出している。

 田中碧や堂安律の目には光るものが浮かぶ。

 キャプテンの吉田麻也は、選手とメディアを仕切る柵にしなだれかかるようにして質問に答えていた。そうでもしなければ立っていられないというように――。

 試合後の選手たちの様子が、いかに激闘であり、ダメージの大きい敗戦だったかを物語っていた。

 8月3日に行われたスペインとの準決勝は0-0のまま延長に突入し、残り5分となった115分に途中出場のマルコ・アセンシオに決勝ゴールを叩き込まれた。

「もう願うしかできないのでそういう気持ちでいましたし、身体も本当にボロボロだったので。代わって正解だなと、自分でベンチで思っていたくらいでした」

 90分を終えたタイミングで交代した堂安は、仲間の戦いを見守った延長戦での心境を、こう明かした。強気な発言が多く、メディアに対して弱音を吐くことが滅多にないからこそ、その言葉は真実味を帯びていた。

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あと一歩、その一歩が大きな差だった

 あと一歩、だったのは間違いない。

 とりわけ延長戦に入ってからは、スペインを土俵際まで追い込んでいた。

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 中山雄太のクロスに対して前田大然が頭で合わせた102分のシュートが入っていたら、あるいは、ゴール前の混戦で三好康児が放った111分の渾身シュートが入っていたら、結果は逆のものになっていたはずだ。

 だが、その一歩がまだまだ大きな差であることも事実だった。

 チームとしても個人としても、スペインとの間には歴然とした差が横たわっていた。

田中碧が感じた「圧倒的な差と、やれる自信」

 狭いスペースでボールを受けて前を向き、何度か縦パスを通すなど、個人としてはかなり通用したように見えた田中も、差を思い知らされていた。

「もっとやれると思う自分もいれば、まだまだ足りないという自分もいます。やってきたことは間違っていなかったと感じながら、圧倒的な差を感じた部分もある。スコア以上に差を感じたゲームだったのかなと。ただ、やれる自信もある。そこは負けたなかでも数少ない収穫でした」

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 スペインは田中と遠藤航のダブルボランチに厳しいマークを付けてきた。そうすれば日本のパスは回らないだろう、と言わんばかりに。一方、日本も林大地が相手のセンターバックにプレスを掛け、久保は相手の心臓であるアンカーのマルティン・スビメンディへのパスコースを巧みに消しながら応戦する。

 前半はスペインが主導権を握っていたが、日本が粘り強く守って後半に突入すると、スペインのペースが鈍り、日本に流れが傾き出す。

上田と相馬の投入が勝負のスイッチだった

 65分のセンターフォワード上田綺世と左ウイング相馬勇紀の投入が、勝負のスイッチだったのは間違いない。だが、満を持したはずの交代が、期待されたほどに流れを変えることはできなかった。

 上田を生かすのか、それでも久保と堂安が引き続き仕留めにいくのか――。

 ベンチの狙いとピッチ内での思惑が、果たしてどれだけマッチしていただろうか。

 上田にとって難しかったのは、2列目が自ら仕留めるプレーにこだわっていたために、自身になかなかいい形でボールが入らなかったことだ。

 だが、準々決勝のニュージーランド戦で途中出場した三笘薫にも言えることだが、途中から入って流れに乗れない場合、守備で貢献しようとしなければ、チームが苦しくなってしまう。その辺りは若さや国際経験の少なさ、ケガの影響も要因なのかもしれない。

 一方で2列目の久保自身は、チャンスがありながら仕留められなかったことを悔やんでいた。

「"あわよくば1点"がすごく遠かった」

「もうできることはやって、守備もやって、あわよくば1点という狙いだったけど、その"あわよくば1点"がすごく遠かった。後半の最後に堂安選手からもらったボールを、左(足のコース)を切られていたので、右でシュートまで持ち込んだんですけど、右の練習をもっとしておけばよかったと今、思っています。すごく悔しいです」

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 延長戦に突入する際の久保、堂安の同時交代は、意見の分かれるところだ。

 個人的にはあの瞬間、せめて久保だけは残しておきたいと思ったが、冒頭の堂安の言葉にもあるように、選手のコンディションや負傷の状態は外から窺い知れないものでもある。誰をどのタイミングで交代させたかに関して、外野が騒ぎ立てるのは不毛だろう。

 スペイン戦2日前のシュート練習では三好、前田ともに何度もネットを揺らし、好調であることを窺わせていた。さらに、三好にとってみれば、久保と堂安に代わって自身がピッチに入るのは、極めてモチベーションの上がる交代だったはずで、件のシーンで彼らが決めていれば"采配的中"となっていたわけだ。

 だから結果論で語るつもりはないが、スペインの最終ラインの背後に広大なスペースがあったにもかかわらず、爆発的なランニングとスプリントという前田の良さが生かされているようには見えなかった。

 前田は右サイドに投入されたが、果たしてサイドに閉じ込めておいていいものか。準優勝を飾った2018年のアジア大会のように、最前線で自由に走り回らせたほうが相手に脅威を与えられるのではないか。次戦に向けて、そのあたりを今一度、整理しておきたい。

左サイドの中山、板倉、田中は本当に素晴らしかった

 この日、日本の左サイドは本当に頼もしかった。左サイドバックの中山、左センターバックの板倉滉、左ボランチの田中の出来は素晴らしく、いったい何度身体を張って、相手の攻撃をねじ伏せ、跳ね返したことか。

 その左サイドが最後の最後に崩されて、失点してしまったのは、あまりに残酷だった。

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「自分があそこでアセンシオに通されていなければ……」

 田中が自身を責めれば、何度もビッグセーブでチームを救ったGK谷晃生も悔やんだ。

「それまでは(味方が)どこかコースを切ってくれていて、守りやすさを感じていました。でも本当にあの場面だけフリーで、得意な形で打たせてしまったと思います」

 ほぼ完璧に対応していた若き守備陣が、115分間で見せてしまった唯一の隙――。

 板倉、中山、田中の心には、この疵が深く刻まれたに違いない。だが、これから日本代表としてW杯のピッチに立つであろう彼らにとって、さらなる成長を促す疵になるはずだ。

 目標だった金メダルには届かなかった。精神的・肉体的なダメージは小さくないが、これで大会が終わったわけではない。8月6日には3位決定戦が予定されている。2017年12月に立ち上がったチームは、ここまで51試合を戦ってきた。

 その集大成とすべき戦いが残されている。

ロンドンの時は、準決勝で燃え尽きた感があった

 スペイン戦後、ミックスゾーンに現れた吉田は現在の心境を問われると、大きく息を吐いて、こう言った。

「まだ倒れるわけにはいかないなと思っています。次勝って、メダリストで終わりたいです」

 吉田と酒井宏樹が出場した2012年のロンドン五輪で日本はベスト4まで勝ち上がりながら、準決勝でメキシコに、3位決定戦で韓国に敗れている。

 メダリストとオリンピアン――その間に横たわる溝の大きさを、吉田や酒井は身をもって知っているのだ。

「ロンドンのときは、ここでメキシコに負けて、燃え尽きてしまった感があった。そうじゃなくて、やっぱりメダリストになりたいです。育成年代で、このメンバーでやれるのは最後の試合になると思います。これが終わると、さらに上へのし上がっていく選手もいれば、結果が出なくて燻ってしまう選手も出てきます、正直ね。それがプロの世界だと思うし、できればみんなとまた一緒に戦いたいですけど、そんなに甘い世界じゃないので。この世代、本当にいいチームだと思うので、何としても最後、勝って終わらせてあげたいと思います」

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 この吉田の言葉には、オーバーエイジとしての責任と、後輩たちに同じ悔しさを味わわせたくないという経験者としての優しさが満ちている。

「せめてものケジメとして、麻也さん、宏樹くんに」

 一方、久保はいかにも彼らしい言葉で、ここまで引っ張ってきてくれた先輩たちへの思いを語った。

「せめてものケジメとして、麻也さん、宏樹くんに銅メダルを渡したい。あの人たちは僕たちより悔しい思いをするのが2回目なので。渡して、それで帰りたいと思います」

 ここにこそ、チームが築き上げた関係性がある。

 2試合続けて120分を戦い、体力の限界に達している選手も少なくないだろう。メキシコとの3位決定戦は、まさに死力を尽くすゲームとなる。

 メダリストになるため、そして、このチームのラストゲームを悔いなく戦い終えるために。気持ちを切り替え、自らを奮い立たせてほしい。勝利で、笑顔で最後の1試合を終えてもらいたい。

文=飯尾篤史

photograph by Yukihito Taguchi-USA TODAY Sports/JIJI PRESS