コロナ禍が引き起こしたもの、あるいは明らかにしたもののひとつに、サッカーの世界的な財政悪化がある。コロナはサッカーを窮地に追い込み混乱に陥れた。すべてが不確かとなっただけでなく、クラブの収支にも大きな影響を及ぼした。

 では、その実態はどうなのか。『フランス・フットボール』誌5月18日号でフィリップ・オクレール記者がレポートしているのは、ヨーロッパのビッグクラブのバランスシートがどうなっているかである。収支ベースでクラブを評価したときに、売り上げベースで格付けしたデロイト社のフットボールマネーリーグが公表したリストとはまったく異なる、ビッグクラブの現実が見えてくる。

 彼らがスーパーリーグを突然立ち上げ、すぐに開始しようとしたがった理由もよくわかる(2021年4月に12のクラブにより設立され、20のクラブによるリーグ戦をおこなってCLに替わる新たなヨーロッパNo1を決める大会の立ち上げを目指したが、各方面から強い反対をうけ発表からわずか3日で中止を表明した)。

(各データは『フランス・フットボール』誌掲載当時のままです)

(田村修一)

ヨーロッパサッカー界の損失は20億ユーロ

 コロナ禍がこれまでにヨーロッパサッカーに及ぼした影響、これからさらに及ぼすであろう影響を誰も正確に評価できない。流行がいつ収まるかわからない状況では、正確な予測をおこなう術を誰も持ち得ないからである。唯一、それなりの信憑性を持つのが、ロンドンで創設され世界中に支部を持つ会計事務所デロイトが、4カ月前に発表したものである。それによればヨーロッパサッカー界における損失は、この2年間で20億ユーロ(約2600億円)に達するという。他方でユベントス会長のアンドレア・アニェリは、同時期の損失額を36億ユーロと見なしているが、算出方法を明らかにしてはいない。

 留意すべきはデロイトが損失を算定したのは5大リーグに限ってであり、しかもコロナの影響が出始めたのは最後の4カ月に限られる2019〜20年シーズンである。それでも損失額は20億ユーロにのぼる。コロナによるすべての損失総額が、それを大きく上回るのは間違いない。スポンサーもテレビ局も、サッカーに資金を投下する費用対効果を早晩再計算せざるを得ない。

 いったい誰が結末を知り得るのか? 不確かさから不安に駆られたプレミアリーグは、2022〜2024年のテレビ放映権料を前時期の金額をベースに算定し、新たな契約が劇的に値下がることを防ごうとしている。リーグはそのために英国政府に対し、国内で《私的な》売却をおこなうための法律を制定し、入札の免除を要求している。だが、プレミアリーグをはじめFAカップやCL、ブンデスリーガ、リーグアンも現在放映しているBTグループは、スポーツ部門の譲渡準備を進めていることを先ごろ明らかにした。イギリスがそうなった場合、他の国々はいったいどうするのだろうか……。

 次に語るべきは、世界で最もリッチなクラブ――もちろん彼らが今もリッチである限りにおいてだが――についてである。デロイトが2001年から毎年1月に発表している世界の金持ちクラブの上位30をランク付けしたフットボールマネーリーグは、世界中のメディアから《フットボール・リッチリスト》の名で呼ばれている。

 第1位のバルセロナは2019〜20年の売り上げが、レアル・マドリーが2008〜09年シーズンに達成した売り上げの2倍に達している。だがこの総売り上げは、偽りの数字と言わざるを得ない。バルサの負債総額は11億7000万ユーロに及ぶ。名目上は19〜20年も世界一の金持ちクラブの地位を保ったものの、スポーツ面の成果はまったくのゼロであるうえに財政面も実態は青息吐息であり、デロイトの示す数字が現実を反映していないからである。2018〜19年には1700万ユーロの黒字を計上したバルサは、次のシーズンではおよそ1億ユーロの損失を被ったのだった(註:バルセロナの新会長に就任したジョアン・ラポルタがこの8月に明らかにしたところによれば、現在のバルサの負債総額は13億5000万ユーロ<約1750億円>に達するという)。

本当にリッチなクラブはどこか

 一方、《高潔なクラブ》の誉れ高いアヤックスは、コロナ禍によりオランダリーグが打ち切りとなった影響を受け、売り上げベースでは前シーズンの4分の1に相当する4500万ユーロの減少を示した。だが、それが壊滅的な打撃かといえばそうではない。というのもアヤックスは、19〜20年にも2040万ユーロの黒字を計上しているからである。

 FF誌はデロイトのランキングでトップ30に入ったクラブを、売上高ではなく利益と損失の差額を計算することで、独自のランキングを作成した。そこから浮かび上がるのは、本当のリッチとは何かという素朴な疑問である。

欧州クラブの売上高(左)と収支(右)の上位30チーム一覧(数値は2019年のもの)

 多大な損失を計上していても、リッチであるといえるのか……。30のうち20のクラブが赤字を示し、そのうちの9つ――マンチェスター・ユナイテッドとリバプール、アーセナル、トッテナム、ユベントス、バルセロナ、インテル・ミラノ、マンチェスター・シティ、ACミラン――がスーパーリーグ創設に参加した。彼らの赤字額はあわせて8億3800万ユーロに達する。

 また同じくスーパーリーグに加わったレアル・マドリーとアトレチコ・マドリーも、黒字とはいえ合わせて210万ユーロを計上しているに過ぎない。スーパーリーグ勢のなかではただひとつチェルシーだけが、3250万ユーロの黒字となっているが、そのほとんどすべてがエデン・アザールを2019年6月にレアル・マドリーに売却したことによって得た利益である。

スーパーリーグ参加表明クラブの実態

 巨額の入会金を設定したスーパーリーグ創設に奔走したクラブの実態がこうであったとは驚きを禁じ得ない。そのなかではイタリアの3つのクラブが最も深刻である。ユーベとインテル、ミランが揃って赤字を計上するのは3シーズン連続であり、ユベントスは17〜18年の6710万ユーロ、18〜19年の2020万ユーロに続き19〜20年は8970万ユーロを計上し、インテルは同じ時期にそれぞれ180万ユーロ、4840万ユーロ、1億240万ユーロの赤字を出している。

 だが両者とも、クラブの存続それ自体が疑われるミランの惨状には遠く及ばない。ミランの3シーズンの負債総額は4億8610万ユーロに達し、うち1億9460万ユーロ(約250億円)が19〜20年シーズンのものである。総売り上げは前シーズンから4600万ユーロしか減少していないのだから、いかに大きな損失を被ったかがわかる。

 もちろんスーパーリーグに参加したクラブの実情をすべて同列には論じられない。だが、どこも収入は劇的に減少し、出費――特に選手のサラリー――はほとんど減っていない。過去2シーズンあわせて2億ユーロ以上の利益をあげたトッテナムも、19〜20年はスタジアムの改修で7280万ユーロの赤字となった。同様にリバプールも、1年で4800万ユーロの黒字から5300万ユーロの赤字に転じた。先ごろレッズの幹部が、クラブ株式の10%を投資会社のレッドバード・キャピタルに売却した理由もよく理解できる。オーナーのジョン・W・ヘンリーと彼の会社であるフェンウェイ・スポーツグループが、スーパーリーグの高額参入金に目をつぶり、プロジェクトへの投資を決めたのかもしれない。

 彼らにとって、また他のビッグクラブにとっても、新リーグの創設は急務だった。かつてのパリ・サンジェルマンやマンチェスター・シティ、チェルシーのように、オーナーの大富豪が巨額の損失をポケットマネーで即座に補填するのは、UEFAがファイナンシャル・フェアプレーを制定した今では非合法であり、どのクラブも《金の卵を産む鶏》となりうるスーパーリーグへの強い希求があった。

 いくつかのクラブは、他のクラブ以上に日常的に危機にうまく対処している。17〜18年、18〜19年にあわせて1億8000万ユーロ以上の黒字を計上したバイエルンが、そのひとつであるのは驚くにあたらない。またブンデスリーガのほとんどのクラブが、その点で他国のクラブと一線を画している。発表されたばかりのブンデスリーガ2021年収支レポートによれば、19〜20年の同リーグの総売り上げは、前季に比べ5%の落ち込みに過ぎない。これはプレミアリーグが、同じ時期に失った売り上げのほぼ半分でしかない。

いまの勝ち組は損失が少ないクラブ

 他に特筆すべきは、利益をあげているのは最善の時期に最高の価格で選手を売ったクラブである。それはジョアン・フェリックスを1億2600万ユーロでアトレチコ・マドリーに売却したベンフィカであり、エデン・アザールの移籍で利益を得たチェルシーであり、フランキー・デヨングやマタイス・デリフトを最適な価格で移籍させたアヤックスである。またアイントラハト・フランクフルトも、19〜20年の移籍市場で3630万ユーロの利益を得ている。

 彼ら勝ち組(ただしすべては流動的で、20〜21年の数字を見ない限り結論は言えない)の他にも、育成を得意とするクラブがある。その地道な活動により、そうしたクラブはコロナ禍にあっても着実に利益をあげている。

 いずれにせよかつて例のないこの特異な状況のもとでは、最もリッチであるのは損失がどこよりも少ないクラブということになるのだろう。

文=フランス・フットボール誌

photograph by L’Équipe