すぐには成果が見えづらくとも、100年続く未来へ向けた改革を進めていく。

 昨シーズン、Bリーグ王者となった千葉ジェッツふなばしが取り組んできたのはそういうことだった。決算を経て、IR情報を公開したばかりの千葉ジェッツふなばし・田村征也社長に話を聞いた。

2020年は危機的状況だった

 このままでは資金がショートしてしまう――。

 2020年12月、田村は背筋が凍るような思いだった。平時であれば1試合で5000人を超える観客を集めるジェッツだが、企業の規模としては中小企業だ。資金がショートすれば、給料が払えなくなる。社員の困る顔もリアルに想像できた。何より、多くのファンやブースター、船橋市を中心とした千葉の人たち、多くのスポンサーの想いを背負っているのがジェッツなのだ。そんな事態は許されない。

千葉ジェッツふなばしの田村社長

 銀行から資金を借り入れるのか。あるいは、グループ会社で、親会社的な立ち位置であるミクシィに資金注入を要請するのか。

 お金を借りるのは、借金を増やすということ。多くの企業と同じようにコロナ禍ですでに少なくない額の借り入れをしているわけで、借金がさらに増えれば返済に追われることになる。自転車操業を加速させてしまう。

 だから、ミクシィに依頼した。ジェッツと、そこにかかわる全ての人たちへのさらなる投資をお願いしたわけだ。それによって最悪の事態は回避された。

 今期の決算はその影響もあって、数字上は黒字になっている。しかし、基本的に過去の借金を返したり、試合や会社運営のために必要な資金を得たに過ぎない。ジェッツの金庫にお金が増えたわけではないのだ。

全体売り上げ額 ©CHIBA JETS FUNABASHI

チケット収入は約1億5000万円減少

 コロナ禍でもっとも打撃を受けたのは、観客動員だった。試合開催時には座席数の半分程度まで入場者数をしぼらないといけない入場制限があった。「座席数の半分」というのがポイントだ。ジェッツは、立ち見席を多く設けることで新規のファンを獲得してきた。そうした甲斐があって、Bリーグ開幕から4シーズンにわたり、最多の観客を集められていた。ただ、昨シーズンから適用されたルールにそったことで、1試合あたりの平均動員数には以下のような変化があった。

 コロナ前の2018−19シーズン:5204人

 入場制限のあった昨シーズン(2020−21シーズン):2121人

(※2019−20シーズンは全日程のおよそ3分の1を残して打ち切りになったため、比較対象から除外する。以下同じ)

 半分以下の、約41%になってしまったのだ。その影響を受けた個別の分野での収益を比較すると以下のようになる。

 飲食収入:約14%(約5264万円減少)

 チケット収入:約62%(約1億5425万円減少 ※コロナ禍の影響で消滅試合となった2試合分も含む)

 MD収入(おもにグッズ収入):約69%(約5275万円減少)

 飲食収入が激減したのは食事の制限があったり、シーズンの大半でアルコールの販売ができなかった影響があったから。これは避けようがなかった。

飲食収入のグラフ ©CHIBA JETS FUNABASHI

グッズ収入はオンラインでの売り上げが増加

 一方で、チケットとMD収入については、観客動員の減少分よりも少ない下げ幅でおさまった。もちろん理由がある。

 チケットについては、対戦カードや試合日程などによる需要の変化と連動して値段が変動するダイナミックプライシングを導入した成果があった。

チケット収入のグラフ(今期決算情報に基づく) ©©CHIBA JETS FUNABASHI

 MD収入については、EC、いわゆるオンラインでの売上が以前よりも伸びたおかげだ。社長の田村はこう話す。

「会場でグッズなどを買っていただくことがほとんどだったところから、ECの売り上げが増えた意味はあるでしょうし、コロナが収束したあとにも高い水準を維持できる可能性を秘めているのかなと考えています」

MD収入のグラフ(今期決算情報に基づく) ©©CHIBA JETS FUNABASHI

 ただ、注目すべきはそこではない。ジェッツがミクシィのグループ会社になってからおよそ2年。田村が社長に就任してからおよそ1年2カ月。その間に手がけてきた多くの改革についてだ。

 その大半は外部から見えづらく、即効性があるものでもない。だが、100年続くクラブの未来にむけては意味のある改革だと田村は考えている。

 今回は改革について、大きく3つに分けて見ていく。

1)ベンチャー的経営モデルから、一部上場企業の経営モデルへ

 試合の演出のために高額な設備を導入する。チームのタイトル獲得のために、新戦力を補強する。

 これがジェッツが行ってきた経営モデルだ。これまで強気に動いていたのには理由があった。

「以前は、『次の年には売り上げが伸びる』と、先行投資という形でガンガン進んでいました。しかし、コロナ禍で色々な分野で収入にストップがかかったことで、見込んでいた収入を確保できず、コストだけが膨らんでいきました」

 それ以外にも、課題はあった。社内の各セクションの収支への意識が希薄だったことだ。例えば、赤字の部署やイベントがあっても、次のシーズンにはトータルで黒字が出るから、その原因に目を向けるケースは少なかった。損失を減らすよりも売上を伸ばすことに注力してきた結果、どんぶり勘定的なカルチャーも存在していた。

 以前はミクシィで働いていた田村が社長に就任して取り組んだのは、収益の見える化を含めた、一部上場企業に採用されるような経営モデルへの変革だった。

「ジェッツが創設から10年かけて日本バスケ界のトップクラブに成長するためには、ベンチャー的に、その場で素早く判断したことがプラスになった部分はありました。それらは否定されるべきものではありません。ただ、そういう組織だと土台が不安定で、コロナ禍のような想定できない事態には弱いですよね」

 経営モデルを改革する理由の1つは、今後またコロナのような予期せぬ事態が起きたときに対応できる体制を整えることだ。

 ただ、それだけではない。

「もっとも大きいのは、今後のためです。ジェッツが収益を2倍にしようと考えたときに、組織の足場から作り直さなければ、従来型の土台の上に大きなものを乗せることはできないと判断したからです」

 今後は1万人収容の新アリーナ建設などの計画もあり、中期的な目標がある。

「売り上げの規模で言うと、島田(慎二現Bリーグチェアマン)さんが社長をやっていたときの最高売上が17億円台で、利益が約1億円。今後のジェッツは、中期的には、30億円位の売り上げと、3億円程度の利益を生める会社になっていきたいなと考えています」

 だからこその変革だった。

2)社内の構造改革

 プロバスケットボールクラブは、スポーツというエンタテインメントを提供するサービス業であり、地域のために貢献する使命を背負う公共財だ。だから、サービスの向上やミスを減らすことが求められる。

 ただ、その進化は気づかれづらい。というのも、コロナ禍でファンや地域の人たちとの接点は制限されており、サービスの質の向上を実感する機会も減っているからだ。また、ミスが起きたり、大きな問題に発展しない限り、社内の構造にはスポットがあたらないからだ。無事故の状況は、事故が起きていないがために気づかれにくい。

「以前は属人性が高かった業務スタイルを『仕組み化』しました。つまり、一つの仕事が完遂されるまでの過程で、誰が仕事を途中で受け取ったとしても、機能するような仕組みへと変えていっています」

 社員同士の業務の依頼も全てシステムに入力して、進める形にした。例えば、Aという部署が、とあるサービスを顧客に届けるために、社内のBという部署に業務を依頼する。しかし、Bの部署は他の業務も抱えているから、その依頼を失念してしまう。そして、サービス提供日間近になって、そんな事態が発覚する。どんな組織でも、よく起こることだ。

「そうした問題は社内の依頼システムに記録を残すことで、格段に減ります。また、ある業務で問題が起きても、スタートからの流れを、システムを通して後から追うことができます。そうすると、問題の原因がどこにあったのかを検証し、反省したり、改善できるんですよ。だから、組織として同じような失敗をするのを防ぎやすくなります」

 表面的に見ればジェッツ社内の改善なのだが、最大の目的は社員の仕事の先で待っている人たちのことを考えたからだという。

「社内の問題からサービスのクオリティーが下がったり、トラブルを起こしてしまうと、最終的に迷惑をおかけするのはお客様です。我々にとっては、ファンやブースター、あるいはパートナー(スポンサー)のみなさま。システムの導入によって社員が最初の時点でやることが増えたのですが、正確性は上がってきています。将来的にはそれが提供するサービスの満足度向上につながると考えています」

3)数十年先に評価されるような、未来への活動

 例えば、千葉県の子どもたちに子どもの頃からバスケットボールやスポーツに興味を持ってもらうために、ジェッツは幼稚園・保育園に幼児用バスケットゴールの寄贈を続けている。すでに船橋市や木更津市などに寄贈し、今後は千葉市の保育園に贈ることになる。あるいは、スポンサー企業と組んで行なう、試合日に駅からアリーナまでのゴミを拾っていくクリーン活動もそうだ。

 それらは持続可能な、より良い社会を作るためのSDGsの活動に数えられるものだ。以前から「JETS ASSIST」という形で取り組んできたが、田村が社長に就任してから、活動を加速させている。

 経営が苦しいにもかかわらず、そうした活動への取り組みと投資を惜しまないのには理由があるという。

「利益が出るから、公共性が高いことをやるべきだと考えているのではありません。その逆で、バスケットボールクラブとして社会から求められているからこそ、取り組むべきだと考えています。ファンやブースター、地域のみなさんに支えられてジェッツは日本一のクラブになったわけですから」

 収支の見える化や社内の構造改革と比べ、こうした活動の成果が出るのには時間がかかる。むしろ、正しく評価されるのは数十年後、田村が社長の座を離れた後かもしれないのだが……。

「長い年月をかけないと、スポーツクラブは発展していかないので。Jリーグだって30年近くかけて、今があります。Bリーグは誕生して6年目。現在取り組んでいるが10年後や20年後に、ようやく花開くような状況は普通のことだと考えています。むしろ、短期間で成果を感じるのは難しいことだからこそ、早い段階から取り組んでいこうと考えていますね」

「市民球団」とは何か?

 このような改革を行うのはなぜか。それは理想とする「市民球団」になるために必要だったからだ。

「『市民球団』という言葉がありますが、世の中で『市民球団』と認知されているチームでも、実は大株主がいて、責任企業が存在しているケースがほとんどです。だから、『市民球団』かどうかは、イメージから判断されている側面が大きいのではないでしょうか。

 私の考えるその定義の一つが、黒字化して単独で運営できる状態にあるクラブであることです」

 そんな「市民球団」を目指す段階で、コロナ禍に巻き込まれた。だからグループ企業であるミクシィに支援を求めたのだが、ミクシィの存在はセーフティーネットのようなもので、将来的には単独での安定経営を明確な目標にしている。

 そして、もう一つの定義を語るとき、田村は力を込める。

「それは地域やファンのみなさんに『自分たちが支えているクラブだから応援しよう』と思ってもらえる存在であることです。『千葉県をバスケットボール王国にする』というのが僕らの掲げているビジョンで、その実現のためには地域のみなさまに胸を張って誇ってもらえるための活動をしないといけないんです」

昨シーズン優勝の瞬間 ©CHIBA JETS FUNABASHI/PHOTO:KeisukeAoyagi

 例えば、今シーズンからジェッツのロゴが新しくなった。従来のものよりもシンプルで、洗練されたデザインにしたもので、アパレルやグッズなどに転用がしやすくなる。イタリアの名門サッカークラブのユベントスが長い歴史のなかで定着してきたエンブレムを変更して大きな成果をあげているが、そういったトレンドにも合致した取り組みである。

 ただ、そうしたわかりやすい変化はごく一部にすぎない。むしろ、社長に就任してから力を注いできたのは、外部から見えづらい組織改革や、時間のかかる取り組みだった。

 一方で、田村が社長に就任したあとも決して手を加えなかったことがある。それはジェッツ創設時からの理念だ。

「ジェッツを取り巻く全ての人たちとともにハッピーになる」

 全てはその理念を実現させるための取り組みなのである。

文=ミムラユウスケ

photograph by ©CHIBA JETS FUNABASHI/PHOTO:AtsushiSasaki